クリッパーズに、とんでもない制裁が下りました。カワイ・レナードを巡るサラリーキャップ迂回問題で、NBAは2029年から2033年まで5本の1巡目指名権を没収。球団への3000万ドルの罰金なども含め、近年ではかなり重い処分になりました。
ただ、日本のNBAファンとして一番気になるのは別のところだと思います。
「で、八村どうなるの?」
今夏、八村塁はレイカーズを離れて同じロサンゼルスのクリッパーズへ移籍しました。28歳。これからNBA選手として一番脂が乗る時期に、優勝を狙えるチームを選んだはずです。
個人的には、最初の1〜2年についてはそこまで悲観していません。むしろ八村が今まで以上に大きな役割を任されるチャンスだと思っています。
ただ、その先まで考えると話はかなり変わってきます。
まず1巡目5本を失うって、何がそんなにヤバいのか
今回NBAが没収したのは2029年から2033年までの1巡目指名権5本です。ただし「5年間ドラフト1巡目に参加できません」という単純な話ではありません。他球団から得る指名権やスワップなどによって1巡目で指名するルートが残る年もあります。
問題は、補強に使えるドラフト資産がほぼなくなったことです。
NBAではスター選手がトレード市場に出た時、「若手+1巡目3本」のようなパッケージが当たり前になっています。クリッパーズは今回の制裁と既存の指名権取引によって、その勝負にほとんど参加できなくなりました。
だから本当に怖いのは「若手をドラフトできない」ことだけじゃない。
今のチームに足りないものが見つかった時、それを直すための通貨まで失ったことです。
それでも最初の2年は、八村にとってむしろチャンスだと思う
ここは僕自身、そこまで悲観していません。
ドラフト指名権を没収されたからといって、現在のロスターまでNBAに没収されるわけではありません。笑 少なくとも直近のクリッパーズには今すぐ勝ちにいくための戦力が残っています。
そして八村自身も、昨季レギュラーシーズンの11.5得点という数字だけで評価するのは少しもったいない。プレーオフでは平均38.6分の出場で17.5得点、FG54.9%、3P56.9%。サンダーとの4試合では平均20.0得点まで伸ばしました。
もちろん3P56.9%がそのまま続くなんて思っていません。でもプレーオフでシュート本数と出場時間が増えても、効率を落とすどころか得点を伸ばしたことには意味があります。
だから僕は、クリッパーズで八村が15〜18得点くらいのスコアラーになることは十分あり得ると思っています。
今の八村って、誰の全盛期に近い?
ここ、比較対象を探すと結構面白いです。
ただ、八村を過去の「エース級ウイング」と比較すると少し違います。昨季のUSG%はレギュラーシーズンで高いタイプではなく、プレーオフでも15.8%。さらにプレーオフで決めた3Pの97%がアシスト付きでした。つまり、自分でずっとボールを持ってオフェンスを作るスコアラーではありません。
現時点の八村に近いのは、全盛期のカワイやポール・ジョージというより、強豪チームで15〜18点を高効率で取るフィニッシャー型フォワードだと思います。
僕ならイメージとして、全盛期のハリソン・バーンズあたりがかなり近いと思っています。
サイズがある。3Pを決められる。ミスマッチなら中でも点を取れる。エースの横でボールを独占せず得点できる。そして必要なら15〜20点くらい取る。
もちろん八村の方がミドルレンジやフィジカルを使った得点に寄っている部分もありますし、バーンズの方がウイングとしての守備範囲が広かった時期もあるので完全一致ではありません。
ただ、
「優勝チームの1番手ではない。でも3〜4番手としてめちゃくちゃ欲しいフォワード」
という現在地はかなり近い。
そしてクリッパーズで面白いのは、八村がそこから一段上を要求される可能性があることです。
カワイと八村、実は少し似ている。でも決定的に違う
八村とカワイ・レナードのプレースタイルには、重なるところがあります。
どちらも大型フォワードで、フィジカルを使える。ミドルレンジから得点できて、ポストで小さい相手を攻めることもできる。無理にドリブルをこねなくても、自分の得意なスポットに入れば点を取れるタイプです。
だからカワイがいなくなったクリッパーズで、
「その役割、八村がもう少しやってくれない?」
となるのは自然だと思います。
問題は、カワイがやっていたことの難易度です。
カワイは単にミドルシュートが上手い選手ではありません。相手の一番強いディフェンダーを付けられ、ダブルチームを呼び、それでも自分でシュートを作る。ボールを持った瞬間に相手の守備そのものを変える選手でした。
一方、昨季プレーオフの八村はフィールドゴールの92.5%がアシスト付きで、3Pに限れば97%。
この数字はかなり象徴的です。
八村は「作ってもらったチャンスを決める能力」はすでにかなり高い。でも「何もないところからチャンスそのものを作る」役割は、まだほとんどやっていない。
だから「カワイが抜けたから八村がそのまま穴を埋めればいい」は、さすがに無茶です。
それでも、その無茶を求められるかもしれない
でも今回のクリッパーズの状況を考えると、これが面白いところです。
普通ならカワイ級の大エースが抜ければ、次のスターを獲得します。ドラフト指名権を何本か積んで、新しいエースを連れてくればいい。
クリッパーズには、その指名権がない。
となると必然的に、「外からスターを連れてくる」より「今いる選手に今まで以上のことをやってもらう」という方向になります。
八村にも、今までレイカーズでは求められなかった仕事が回ってくる可能性があります。
例えばショットクロック残り8秒。レイカーズならルカにボールを渡せばよかった。でもクリッパーズでは、
「八村、一本作ってくれ」
という場面が増えるかもしれない。
そこで八村がどこまでできるのか。
個人的には、これが今季一番楽しみです。
28歳の八村に「3年後」は結構長い
ただし八村目線で考えると、今回の制裁はかなり重いです。
八村は1998年生まれで現在28歳。20歳の若手なら「チームが3〜4年後に完成すればいい」で済みますが、八村が3年待てば31歳です。
しかもレイカーズという優勝を求められるチームを離れて、同じロサンゼルスのライバルへ移籍しました。今季からはルカ・ドンチッチ率いるレイカーズと同じ街、同じ地区で戦うことになります。
八村本人がクリッパーズを選んだ理由をこちらから断定することはできません。でも28歳という年齢を考えれば、少なくともキャリアの大事な時期を預けるチームであることは間違いありません。
契約した時と比べて、そのチームの未来が1巡目5本分消えた。
これは小さな変化ではないと思います。
「研究される」のが怖いんじゃない。「研究された後に直せない」のが怖い
僕が長期的なクリッパーズに悲観的なのはここです。
最初の1年は、今の戦力でかなり戦えると思っています。2年目もまだいけるかもしれません。
でもNBAでは必ず研究されます。「このラインナップにはこう守る」「八村にはこう守る」「この選手にはここを捨てる」。プレーオフまで行けば、7試合を通してさらに細かく弱点を突かれます。
普通のチームなら翌年、その弱点を補強します。
クリッパーズはそれが難しい。
だから、
1年目:意外と強い
2年目:まだいける
3年目:弱点への対策が進む
4年目:プレイインすら怪しい
という未来も、僕は普通にあり得ると思っています。
もちろんFAや既存選手のトレードなど補強方法が完全になくなるわけではありません。ただ、他のチームより圧倒的に選択肢が少ないことは間違いない。
そして八村が活躍するほど「売れる選手」になる
さらに八村目線では、もう一つ怖いことがあります。
八村の契約は2026-27シーズンが1400万ドル保証で、2027-28シーズンはクリッパーズ側のチームオプションです。
つまり八村側が、
「来年は優勝候補へ行きたいのでオプトアウトします」
とはできません。
そして仮に今季、八村が17得点、3P40%前後、安定した先発というところまで行ったらどうなるでしょう。
29歳前後で年俸1400万ドル。
めちゃくちゃ売りやすい契約になります。
クリッパーズは今後とにかくドラフト資産が欲しい。一方、他球団からすれば優秀な大型フォワードを1400万ドルで取れるなら魅力的です。
皮肉ですが、
八村が活躍すればするほど、「1巡目を取り戻すために売れる資産」になる可能性も高まる。
しかも通常のトレードなら八村自身が移籍先を自由に選べるわけではありません。
八村は優勝候補へ行きたい。
でも再建中のチームが一番良い指名権を出してくれる。
そうなれば、クリッパーズが後者を選ぶ可能性はあります。
もちろん実際にそうなると決まったわけではありません。でも今回5本もの1巡目を失ったことで、「現在の戦力を将来の指名権へ変換する」という選択肢の価値が以前より大きくなったのは間違いありません。
この2年間、八村のNBAキャリアで一番面白いかもしれない
だから今回の制裁を見ても、僕は「八村のクリッパーズ移籍は失敗だった」とはまだ思いません。
むしろ最初の1〜2年はチャンスです。
昨季プレーオフで平均17.5得点。サンダー相手には20.0得点。すでに大きな舞台で得点を増やせることは見せています。
そしてカワイという絶対的なエースがいなくなれば、これまで以上の仕事を求められる可能性があります。
もちろん、いきなりカワイ・レナードになれと言われても無理です。
でも、
11点のロールプレイヤーから、16〜18点の主力へ。
さらにそこから、
「困った時に一本任せられる選手」へ。
八村がそこまで行けるのかは、めちゃくちゃ見てみたい。
一方でクリッパーズが勝てなくなれば、八村は自分の全盛期を再建に使うことになるかもしれない。あるいは、本人の希望とは関係なく指名権を取り戻すためのトレード資産になる可能性もあります。
28歳。
レイカーズを離れて、同じロサンゼルスでルカたちと戦う道を選んだ八村にとって、この2年間は想像していた以上に重要なものになりました。
クリッパーズの新しい主力になる2年間なのか。カワイが抜けた穴を少しでも埋めて、もう一段上の選手になる2年間なのか。それとも次のチームへ行くために、自分の価値を最大まで高める2年間になるのか。
今回の制裁で、八村塁のクリッパーズ移籍は当初よりずっと面白く、そしてちょっと怖いものになった気がします。


