NBAのテイクファウルとは?速攻をわざと止めるファウルが重くなった理由

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昔のNBAを見ていると、速攻が始まった瞬間に守備側の選手が相手を軽く抱えたり、腕をつかんだりしてファウル。

そして何事もなかったかのように、サイドラインから試合再開。そんな場面をかなり頻繁に見ることがありました。守備側からすれば非常に合理的なプレーです。

相手に2対1や3対2の速攻を出され、そのままプレーを続ければレイアップやダンクを決められる可能性が高い。それなら早めにファウルしてプレーを止め、ハーフコートディフェンスをセットし直した方がいい。特にチームファウルがボーナスに達していなければ、以前は相手にフリースローすら与えず、ただサイドラインから再開するだけで済むケースもありました。しかし見る側からすると、「せっかく速攻になったのに、全部ファウルで消されるじゃん」となります。

NBAの魅力の一つである豪快なダンク、チェイスダウンブロック、2対1や3対2の判断、ものすごいスピードで展開されるトランジションバスケット。

その入口を、守備側が意図的なファウル一つで簡単に消すことができていたわけです。

そこでNBAが2022-23シーズンからペナルティを大幅に重くしたのが、Transition Take Foul(トランジション・テイクファウル)です。NBAは2022年7月にルール変更を正式承認し、2022-23シーズンから導入しました。

そもそもテイクファウルとは?

簡単に言えば、相手にトランジションで得点するチャンスがある場面で、守備側が正当にディフェンスするのではなく、ファウルによって意図的に速攻を止めるプレーです。

英語の「take a foul」は、直訳すれば「ファウルを取る」。つまり、「ここはファウルしてでも止めよう」というプレーです。

NBAが重要視しているのは、単純に「速攻中にファウルが起きたか」だけではありません。大きな判断材料になるのが、ディフェンダーがボールやプレーに対して正当なディフェンスをしようとしていたかという点です。NBAのオフィシャル向け資料でも、テイクファウルを見分ける最も重要な要素として、ディフェンダーがボールに対して正当なプレーをしていないことが挙げられています。典型的なのは、抜かれたディフェンダーが後ろから相手を抱える、腕やユニフォームをつかむ、完全にプレーを諦めた状態で接触して止めるといったケースです。

そもそも「トランジション」とは?

NBAを見始めたばかりだと、「トランジション」という言葉自体が分かりづらいかもしれません。

トランジションとは、攻守が切り替わった直後の時間帯と考えれば大丈夫です。

たとえば、

相手がシュートを外す

ディフェンスリバウンドを取る

一気に前へ走る

あるいは、

相手のパスをスティール

そのまま速攻

といった場面です。

NBAはTransition Scoring Opportunityについて、攻守交代後にオフェンス側が継続してボールを前進させ、プレーのスピードやディフェンダーの位置などによって有利な状況にあるケースと定義しています。

つまり必ずしも、「2対1になっていなければならない」とか、「すでにハーフコートラインを越えていなければならない」というルールではありません。そこが後ほど説明するクリアパスファウルとの大きな違いです。

どんなプレーがテイクファウルになる?

たとえばこんな場面を想像してみてください。

相手のパスをスティールしたガードが、そのまま前を向いて走り始めました。守備側はまだ戻れていません。ここで抜かれたディフェンダーが後ろから選手の腰をつかんでプレーを止める。これは典型的なTransition Take Foulです。るいはリバウンドを取った選手がすぐに前方へアウトレットパスを出そうとした瞬間、「これは速攻になる」と判断した守備側が、近くにいる選手を抱えてファウルする。

これも条件を満たせばテイクファウルになります。

重要なのは、ボールを持っている選手にファウルしなければセーフというわけではないことです。

NBAはルール変更時に、ボールを持っていないオフェンス選手へのファウルでも、その他の条件を満たしていればTransition Take Foulになると明確にしています。そうしなければ、「ボールマンにファウルするとテイクファウルになるなら、横を走っている別の選手をつかめばいい」という抜け道ができてしまうからです。

まだ速攻が始まっていなくてもテイクファウルになることがある

ここも非常に重要です。

例えばスティールした瞬間、まだ選手がドリブルすら始めていない状態で守備側がすぐにファウルしたとします。「まだ速攻になってないから普通のファウルじゃないの?」と思うかもしれません。しかし、そうとは限りません。

NBAは攻守が切り替わった直後、オフェンス側がまだボールを前進させる機会を得る前のファウルについても、条件を満たせばTransition Take Foulになるとしています。

これは非常に理にかなっています。

もし、「速攻として前進し始める前ならファウルしてOK」としてしまえば、守備側はターンオーバーした瞬間に相手をつかめばいいことになります。それではルール変更の意味がありません。そのため、攻守交代 → 速攻が始まりそう → 始まる前にファウルというケースも対象になり得ます。

逆に、速攻中のファウルなら全部テイクファウル?

ここが最大のポイントです。

違います。

速攻中にディフェンダーがファウルしたからといって、自動的にTransition Take Foulになるわけではありません。ディフェンダーが正当にボールへプレーしようとしていた場合、基本的には通常のパーソナルファウルです。例えば速攻でボールを運んでいる選手に対して、横からディフェンダーが追いついてスティールを狙った。しかし手がボールではなく腕に当たってしまった。

これはファウルではありますが、「ファウルして速攻を止めようとした」のではなく、「ボールを奪おうとして失敗した」プレーです。

この場合、Transition Take Foulの重いペナルティではなく、通常のファウルとして扱われる可能性があります。NBAも、正当にボールへプレーしようとしたディフェンダーのファウルについては、速攻中であってもTransition Take Foulの追加ペナルティを適用しないと説明しています。

なので試合中に判断するときは、「速攻だったか?」だけでなく、「ディフェンダーはちゃんとプレーしようとしていたか?」を見ると分かりやすくなります。

テイクファウルのペナルティは?

Transition Take Foulと判定されると、オフェンス側には、フリースロー1本+ボール保持が与えられます。

さらにファウルしたディフェンダーには通常のパーソナルファウルが記録されます。以前との違いはかなり大きいです。以前ならチームファウルがボーナスに入っていない限り、

ファウル

サイドラインからスローイン

ディフェンスをセット

で済むことが多くありました。

しかし現在は、

ファウル

相手にフリースロー1本

さらに相手ボール

となります。

つまり守備側からすると、相手に1点を与える可能性が高いうえに、結局ポゼッションも相手のままです。これなら速攻を止めるためだけにファウルするメリットがかなり小さくなります。

フリースローは誰が打つ?

通常のシューティングファウルなら、ファウルされた選手がフリースローを打ちます。

しかしTransition Take Foulの場合は違います。

フリースローを打つのは、

ファウルが起きた時点でコートに出ていたオフェンス側の5人から自由に選ぶことができます。

NBAの公式ルール変更でも、この点が明記されています。

つまりファウルされた選手のフリースローが苦手だから、

「この選手をつかめばいい」

という戦術も基本的には使えません。

チームはコート上で最もフリースローの得意な選手を選べばいいからです。

ボーナス中だったらどうなる?

ここも意外と分かりづらいところです。

通常であればチームファウルがボーナスに入ったあと、シュート以外のディフェンスファウルでもフリースローが発生します。

しかしTransition Take Foulでは独自のペナルティとして、

1本のフリースロー+ポゼッション

が適用されます。

つまり、

「すでにボーナスだから通常通り2本だけ打って終わり」

ではありません。

テイクファウルをすることで相手の攻撃権まで奪えるわけではない、というところがこのルールの肝です。

シュート中にファウルした場合は?

では速攻からレイアップへ行った選手にファウルした場合はどうでしょうか。

この場合、すでに選手がシューティングモーションに入っていればTransition Take Foulではありません。

通常のシューティングファウルが適用されます。

例えば速攻でリングへアタックした選手をディフェンダーが追いかけ、レイアップへ行ったところで腕に接触した。

この場合は、

「速攻を止めたからテイクファウル」

ではなく、通常通りシューティングファウルかどうかが判断されます。

つまりTransition Take Foulは主に、

シュートへ行く前に、意図的なファウルで速攻そのものを消すプレー

をターゲットにしたルールです。

第4Q残り2分には例外がある

Transition Take Foulには重要な例外があります。

第4クォーター残り2分と、各オーバータイム残り2分では、この追加ペナルティは適用されません。

なぜでしょうか。

試合終盤には、わざとファウルして時計を止める「ファウルゲーム」という戦術があるからです。

例えば残り20秒で3点差。

負けているチームがそのまま相手にボールを持たせ続けたら、時間切れになってしまいます。

そこで意図的にファウル。

相手にフリースローを打たせ、時計を止めて、再び自分たちの攻撃機会を作る。

NBAでは昔から行われてきた戦術です。

もし試合終盤でも、

「意図的にファウルしたから1本+相手ボールです」

となってしまえば、ファウルゲームそのものが成立しません。

そこでNBAは、

試合の流れを壊すためのテイクファウル

と、

逆転を目指すための終盤の戦術的ファウル

を分けています。

なお、この例外は第4QとOTの残り2分です。

第1〜第3クォーターの残り2分には同じ例外はありません。

なぜ「残り2分だけ」なのか?

例えば第3Q残り30秒。

守備側が速攻を意図的に止めれば、通常通りTransition Take Foulの対象になり得ます。

一方、第4Q残り30秒なら追加ペナルティは適用されません。

一見すると少し不思議ですが、NBAとしては、

試合終盤の時計管理という戦術だけは残したい

ということです。

ルール変更の目的は意図的なファウルすべてを消すことではありません。

あくまで、

バスケットボールとして面白いトランジションの攻防を、安易なファウルで消すことを減らす

ことが目的です。

Clear Path Foulとは何が違う?

Transition Take Foulと最も混同しやすいのが、**Clear Path to the Basket Foul(クリアパスファウル)**です。

どちらも速攻中のファウルなので、見た目はかなり似ています。

ただしクリアパスには、より具体的で厳しい条件があります。

NBAの現行ルールでは、大まかに言えば、

・トランジションの得点機会である
・ボールがバックコートのサークル先端より前にある
・得点機会を持つオフェンス選手より前方にディフェンダーがいない
・その選手がボールを保持している、またはその選手へのパスがすでに出されている
・そのファウルによってトランジションの得点機会が失われた

といった条件を満たすとClear Path Foulになり得ます。

簡単に言えば、

「このまま行けばほぼ独走状態だったのに、後ろからファウルして止めた」

というケースです。

テイクファウルとクリアパスを表で比較

Transition Take Foul Clear Path Foul
主な目的 意図的な速攻潰しを防ぐ 明確な独走チャンスを守る
完全な独走が必要? 必要ない より厳密な位置条件がある
ボールへの正当なプレー 重要な判断材料 ボールを狙っていても条件次第で検討対象になる
ペナルティ 1FT+ポゼッション 2FT+ポゼッション
残り2分の例外 第4Q・OTであり 同じ形ではない
リプレー確認 テイクファウル自体はレビュー対象外 条件を満たすかレビュー可能

Clear Path Foulの場合、原則としてフリースロー2本+ポゼッションというさらに重いペナルティになります。

両方に見える場合はどっち?

ここも重要です。

あるプレーが、

「テイクファウルっぽい」

そして同時に、

「クリアパスにも見える」

ということがあります。

この場合はClear Path Foulが優先されます。

NBAのリプレールールでも、Clear Path FoulはTransition Take Foulより優先すると明記されています。

つまり審判が最初にテイクファウルと判定したあと、映像を確認して、

「いや、これはクリアパスの条件も満たしている」

となればClear Path Foulに変更されることがあります。

実際にNBAの公式Officiatingページでも、コート上でTransition Take Foulとされたプレーが、レビュー後にClear Path Foulへ変更された事例が掲載されています。

テイクファウル自体はリプレーできない

少し細かいですが、NBAを見ていると役立つポイントです。

Transition Take Foulそのものは、基本的にリプレーでレビューする判定ではありません。

一方、Clear Path Foulについては、審判が条件を満たすか確信できない場合にReplay Centerを使って確認できます。NBA公式のリプレー説明でも、Transition Take Foul自体はレビュー対象外とされています。

そのため試合中に審判が映像を確認している場合、

「テイクファウルかどうかをレビューしている」

というより、

Clear Path Foulに該当するかを確認している

ケースがあります。

この違いを知っていると、中継を見ている時にかなり分かりやすくなります。

なぜNBAはルールを変更したのか?

理由はかなりシンプルです。

面白いプレーが消えすぎていたからです。

NBAの選手は世界最高峰の身体能力を持っています。

ターンオーバーから一瞬でコートを駆け上がるガード。

その横を走るウイング。

最後尾から追いかけるビッグマン。

そこから、

アリウープになるのか。

ユーロステップでかわすのか。

ディフェンダーがチェイスダウンブロックするのか。

2対1からどちらへパスするのか。

トランジションはNBAでも特に派手で、選手の身体能力や判断力が最も出る場面の一つです。

しかし守備側からすると、それを正面から守るより、

「はい、ファウル」

で終わらせた方が効率的でした。

ルール上そちらの方が得なのであれば、NBAチームがテイクファウルを使うのは当然です。

問題なのは選手やコーチではなく、そうした戦術を有利にしていたルールの方でした。

そこでNBAは、

速攻を止めるなら、それ相応の代償を払ってもらう

という仕組みに変更したわけです。

実はGリーグで先にテストしていた

NBAはいきなりこのルールを導入したわけではありません。

NBA G Leagueでは2018-19シーズンから、似たテイクファウルルールを実験的に運用していました。

NBAのCompetition Committeeはそのデータも検証し、最終的に2022-23シーズンからNBA本体でも採用するよう全会一致で推奨しました。

NBAではこのように、Gリーグやサマーリーグを新ルールの実験場として使うケースがあります。

コーチズチャレンジなども同様で、いきなりNBA本番へ持ってくるのではなく、まず別の環境で試してから導入するわけです。

このルール変更は成功だったのか?

個人的には、NBAの近年のルール変更の中でもかなり分かりやすく成功したものだと思います。

そして導入直後の数字を見る限り、狙い通りの効果も出ていました。

NBAが2022-23シーズン序盤に公表したデータでは、2021-22シーズンには1試合平均1.76回あったテイクファウルが、ルール変更後の当時の集計では平均0.27回まで減少。

約85%の減少でした。

さらに同じ時点で、1チームあたりのファストブレイク得点は前年の12.5点から13.9点へ増加していました。

もちろん、ファストブレイク得点の増減すべてをこのルール変更だけで説明することはできません。

それでも、

「とりあえずファウルして速攻を消す」

というプレーが大幅に減ったことは、導入直後から数字にも表れていました。

ディフェンス側には何が求められるようになった?

ルール変更前なら、ターンオーバーをした瞬間、

「これは戻れない」

と思った選手が近くの相手をつかんで終わり、という選択ができました。

現在はそれをやれば1FT+ポゼッションになる可能性があります。

そのため守備側には、

全力で戻る。

ボールマンを遅らせる。

パスコースを消す。

リングへ戻る。

数的不利の中でシュートを難しくする。

そして、可能なら正当にボールを狙う。

という、実際のトランジションディフェンスが求められます。

NBAの審判部門を統括するMonty McCutchenもルール導入時、この変更はオフェンスだけでなくディフェンス面でも魅力的なトランジションプレーを増やす狙いがあると説明していました。

確かに、NBAの名場面はダンクだけではありません。

レブロン・ジェームズのような後方からのチェイスダウンブロックも、トランジションだからこそ生まれるプレーです。

つまりテイクファウルを減らすことは、

オフェンスにダンクさせるためだけのルールではなく、速攻を巡る攻守の勝負そのものを増やすためのルール

とも言えます。

試合中はここを見れば分かりやすい

実際にNBAを見ながらTransition Take Foulかどうか考えるなら、細かい条文を全部覚える必要はありません。

まず、

攻守が切り替わった直後だったか?

次に、

オフェンスに速攻のチャンスがあったか?

そして一番重要なのが、

ディフェンダーは本当にボールやプレーを守ろうとしていたか?

です。

例えば、

後ろから両腕で抱える。

ユニフォームをつかむ。

完全に抜かれたあと腕をつかむ。

ボールを見ることなく近くの選手を止める。

こうしたプレーならテイクファウルの可能性が高くなります。

一方、

スティールを狙って手を出した。

パスカットを狙った。

正面から守ろうとして接触した。

といった場合には、速攻中でも通常のファウルになる可能性があります。

そして、

前に誰もいない完全な独走状態に近かった

なら、今度はClear Path Foulを疑う。

この順番で見るとかなり分かりやすくなります。

まとめ

Transition Take Foulは、

トランジションの得点機会を、正当なディフェンスではなく意図的なファウルによって消す行為

に対して重いペナルティを与えるルールです。

2022-23シーズンからペナルティが強化され、原則として、

フリースロー1本+オフェンス側が引き続きポゼッション

となりました。

一方で覚えておきたいのは、

速攻中のファウルすべてがテイクファウルになるわけではない

ことです。

ディフェンダーが正当にボールへプレーしようとしていれば、通常のファウルになる可能性があります。

また、シューティングモーションに入っていればシューティングファウル。

明確な独走状況などClear Path Foulの条件まで満たせば、Clear Pathが優先されて2FT+ポゼッションとなります。

さらに第4クォーターとオーバータイムの残り2分には例外があり、従来のファウルゲームという戦術も残されています。

かなり細かいルールに見えますが、根本にある考え方はシンプルです。

「せっかく生まれた速攻を、プレーすることなくファウルだけで消すのはやめよう」

というルールです。

次にNBAを見ていて、速攻中にディフェンダーが相手を軽くつかんだだけなのに、

「フリースロー1本なのに、また同じチームのボール?」

となったら、Transition Take Foulを思い出してみてください。

そして、

「ボールをちゃんと狙っていたか?」

「速攻のチャンスだったか?」

「前にディフェンダーは残っていたか?」

まで見るようになると、審判がなぜその判定をしたのかもかなり理解できるようになるはずです。

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