NBAのトレードニュースを見ていると、いつも引っかかることがあります。即戦力のスター選手を放出して、見返りが「1巡目指名権が3〜4本とスワップ権」みたいな取引、正直かなり多いですよね。
個人的には、もう活躍が分かっている今の戦力と、まだ誰かも分からない指名権だったら、圧倒的に前者の方が価値があると思ってしまいます。体感だと、ドラフトされた選手の8割くらいはほぼ試合に出ないまま終わっていく印象すらあります。たまに大当たりもいるのは分かっていますが、それを狙ってチームの中身を壊してまでやることなのかなと、ずっと疑問でした。
今回はその疑問を出発点に、指名権の実際の当たり外れ率と、チームがそこまで指名権を欲しがる理由を調べてみました。
実際の当たり外れ率を調べてみたら、思ってたより複雑だった
まず全体の成功率から見ていきます。
Sports Info Solutionsが2010〜2026年の17クラス、計1,192人の指名選手を追跡した調査によると、「成功」(最初の4シーズン以内にPER15以上、またはアワード受賞・高順位入賞のいずれか)の割合は全体で19%、つまり約5人に1人だそうです。ポジション別だとビッグマンが22%、ボールハンドラーが20%、ウィングが16%とのことで、正直「19%」だけ見ると自分の体感に近いなと思いました。ただこれ、順位帯を全部まとめた数字だというのがミソで、ここから先を見ていくと話が変わってきます。
RotoWireが2000〜2022年の1巡目指名688件を対象に調べたデータでは、1位指名のバスト率(キャリアVORPが0未満かつ50試合以上出場という定義)はわずか8.7%で、オールスター輩出率は69.6%。1〜3位まで広げてもバスト率は同じく8.7%、オールスター輩出率は52.2%です。一方で下に行くほど数字は急に厳しくなっていて、4〜10位のオールスター輩出率は21.7%、21〜30位まで下がると5.3%まで落ちます。17位・20位はバスト率が52.2%、29位に至っては57.1%というデータもあります。11〜18位あたりの帯は「ローテーション級を得られる可能性はまだ高いが、スターになる確率(22%)よりも完全なバストになる確率(31%)の方が高い」という書かれ方をしていて、ロッタリー圏を外れた1巡目は「平均的には当たるより外れる可能性の方が高い」とまとめられていました。
2巡目になるともっと露骨です。Berkeleyの分析(Sports Analytics Group at Berkeley)によると、ロッタリー指名(1〜14位)は一定期間後もロスターに75%以上が残っている一方、1巡目非ロッタリー(15〜30位)は約50%、2巡目は約20%しか残らないとのこと。過去10年のオールルーキー1st/2ndチーム計103枠のうち、2巡目以降の指名選手は16人だけというのも、なかなか厳しい数字だと思います(このデータ自体は2009〜2013年ドラフトが対象なので、直近の傾向というより歴史的な傾向として見るべきですが)。
もっと極端な例だと、当時セルティックスのGMだったダニー・エインジが2011年、あるカンファレンスのパネルで球団の分析チームの調査結果として「25位指名がローテーション入りする確率は歴史的に約6%」と語ったという記述もありました。これは2011年時点の球団内部データの紹介であって最新の公式統計というわけではないですが、それでも6%という数字のインパクトはすごいです。
ここまで調べて思ったのは、自分の「体感80%は活躍せず終わる」という感覚は、ロッタリー上位に限れば完全に外れていたということです。
1〜3位のバスト率1割弱、オールスター輩出率52〜70%というのは、むしろ「当たって当然」に近い水準でした。ただし1巡目後半から2巡目まで全部ひっくるめて見ると、「当たり」と呼べる選手の割合は19〜25%程度で、裏を返せば7〜8割は当たりに届かないという計算も成り立ってしまいます。つまり自分は「指名権」とひとくくりに考えていましたが、実際は「上位ロッタリー」と「それ以外」でまったく別物として扱わないといけなかったんだなと、ここは素直に反省しました。
それでもなぜチームは指名権を欲しがるのか、まずはコストの話
当たり外れの実態が分かっても、まだ疑問は残ります。1巡目後半〜2巡目なんて外れる確率の方が高いのに、なぜチームはそれをまとめて何本も欲しがるのか。ここは単純に、ルーキースケール契約の安さが効いていそうです。
Hoops Rumorsの2026年7月2日時点の記事によると、2026年ドラフト1位指名のAJ Dybantsaの1年目年俸は$14,748,000で、これは2026-27シーズンのサラリーキャップ$164,961,000から見てもかなりの額に見えますが、同世代のスター選手がキャップ比25〜30%ゾーン(概ね$40M台後半)でマックス契約を結ぶことを考えると、1位指名でもその3分の1以下です。10位のBrayden Burriesで$6,417,360、30位のKoa Peatに至っては$2,926,800と、順位が下がるほどさらに安くなります。しかもルーキースケール契約は最初の2年が保証、3〜4年目はチームオプションという仕組みなので、外れても致命傷になりにくい設計です。
さらに指名権そのものは「まだ入団していない権利」なので、サラリーキャップに計上されません。トレードの組み立てにおいて給与のマッチングを気にせず動かせる、便利な調整弁として使えるわけです。つまり指名権を集めるという行為は、「未来のスターを引き当てるギャンブル」という側面ももちろんありつつ、実態としては「安い戦力+自由に動かせる資産をまとめて確保する」という、かなり地味な財務戦略に近いのかもしれません。ギャンブル性だけで語ると自分のように「割に合わなくない?」となりますが、資産運用として見ると意外と筋は通っている気がしてきました。
セカンドエプロンの制約が、指名権を「使いやすい駒」にしている
もう一つ大きいのがセカンドエプロンの存在です。2026-27シーズンの基準額は$221,686,000(ラグジュアリータックスラインちょうど$17.5M上)で、これを超えたチームはトレードで複数契約の給与を集約できず、実質1対1のマッチングしかできなくなります。現金も送れず、ミッドレベル例外も一切使えません。おまけに7年後の自チーム1巡目指名権が凍結され、その後4シーズン中3シーズンでエプロン未満に戻らないと解除されず、逆に4シーズン中2シーズンエプロン超過が続くとその指名権は成績に関係なく自動的に1巡目30位相当まで格下げされてしまいます。ここまで制約されると、高額契約のベテランをかき集めるより、安い若手と指名権を軸に編成する方が、単純に身動きが取りやすいというのは納得できます。
実際スパーズとサンダーは2023年オフシーズン以降、1巡目のピックスワップ権を積極的に集めていて、2チームで計9つ、リーグ全体のスワップ権20個のうち45%を持っているそうです(CBSSports、2024年7月時点)。スワップ権は「同一チームが連続シーズンで自チームの1巡目を持たない状態を作れない」というスティーピエンルールの対象外なので、複数年にわたって柔軟に資産を組み替えられるという理屈です。主力選手がいずれスーパーマックスの年代に入ると、チーム全員を高額契約のまま維持するのは財政的に不可能になるので、その前に安い若手戦力を計画的に確保しておく、という発想らしいです。これを読んで、指名権集めって「今すぐ戦力が欲しい」というより「数年後に高額契約だらけになったときの保険」という側面が強いんだなと腑に落ちました。
じゃあ実際、指名権5個クラスのトレードって起きてるの?
ここまでは制度の話ですが、実例も見てみます。2025年6月、グリズリーズはデズモンド・ベーン(メンフィスと2023年に結んだ5年$207M契約、2028-29シーズンまで契約中)をマジックへ放出し、見返りにケンタヴィアス・コールドウェル=ポープ、コール・アンソニー、2025年16位指名権(結局この権利で指名されたヤン・ハンセンはドラフト当日にポートランドへ再トレードされているので、グリズリーズ自身が持ち続けたわけではないのですが)、そして2026・2028・2030年の無保護1巡目指名権3本、2029年のピックスワップ権1本を獲得しました。指名権関連だけで数えると1巡目4本+スワップ権1本、計5点です。まさに自分がメモしていた「指名権5個とか」という表現、誇張でも何でもなく実際にこの規模の取引が起きていました。The Ringerの評価では、マジックの若手コア(バンケロ、ワグナー)のオフェンス効率を上げるためにベーンのスペーシングとプレイメイクが必要だったとしつつ、2027年時点でバンケロ・ワグナー・ベーンの3人だけでキャップの約80%を占める見込みという将来の窮屈さもリスクとして指摘されています。
もう一つはヤニス・アデトクンボのトレードです。ヒートとバックスは2026年6月23日にトレードの全条件で合意し、リーグの取引解禁カレンダーの都合で正式に成立したのは7月6日でした。ヒートはヤニスとボビー・ポーティスを獲得し、バックスはタイラー・ヒーロー、ハイメ・ハケス・ジュニア、ケレル・ウェア、カスパラス・ヤクショニス、2026年13位指名権(ネイト・エイメントを指名)、2031・2033年の1巡目指名権、2030年のスワップ権、2033年の2巡目指名権を受け取っています。こちらも指名権関連だけで5点。ここまで指名権を積み上げるトレードが立て続けに起きているのを見ると、確かにリーグ全体で「指名権を軸にした編成」がトレンドになっているのは間違いなさそうです。ただしCBS Sportsは2026年6月23日時点の評価で、放出側のバックスにC-という厳しい評価をつけていて、「動くのが遅すぎた」「受け取った資産に軸になる選手がいない」「ケレル・ウェアは本質的にまだロッタリーチケット」といった辛口コメントが並んでいました。これはトレード直後の初期評価にすぎず、指名権が実際にどう化けるかはまだ誰にも分かりませんが、少なくとも「指名権を大量に得たからOK」と単純には評価されていないんだなというのは、自分の疑問と重なる部分がありました。
まとめ:疑問は解けたけど、モヤモヤは半分残った
調べてみて分かったのは、上位ロッタリーに限れば指名権は自分が思っていた以上に「当たる」資産だということです。バスト率1割弱、オールスター輩出率5〜7割という数字を見ると、上位指名権を欲しがる理由には普通に納得できます。
一方で1巡目後半〜2巡目まで含めた「指名権をとにかく集める」動きの本質は、当たる確率そのものよりも、ルーキースケール契約の安さと、サラリーキャップに乗らない資産としての使い勝手、そしてセカンドエプロンの制約下でも身動きが取れるという、かなり財務寄りの理由で説明できそうです。指名権集めはギャンブルというより保険に近い、というのが今回の一番の発見でした。
とはいえ、ヤニスを放出した側にC-という厳しい評価がついているのを見ると、それでも「チームを壊してまでやることか」という自分の最初の疑問は、まるっきり的外れでもなかったんじゃないかと思っています。指名権はあくまで未来への保険であって、保険をかけすぎて今のチームが弱くなっては本末転倒ですし、その保険が何年後にちゃんと戦力として返ってくるのかは、結局蓋を開けてみないと分かりません。


