NBAを見ながらふと思うことがあります。地元にチームがある人とない人とでは、ファンとしての熱量って違うものなのかな、と。僕自身、日本に住んでいてNBAチームが近所にあるわけでもなく、それでも何年もNBAを見続けているわけですが、じゃあ地元にチームがある人と比べて自分のファン度は薄いのかと聞かれると、正直よくわからない。今回はこのなんとなくの疑問について、少し調べながら考えてみたいと思います。
そもそもアメリカ国内でも「地元にチームがない」人の方が多い
まず驚いたのが、NBAは30チームありますが、アメリカ国内でチームが本拠地を置いている州は21州(+ワシントンD.C.)しかなく、残り29州にはNBAチームが存在しないという事実です。ニューヨークとロサンゼルスはそれぞれ2チームずつ本拠地を置いているので、州の数で数えるとどうしても少なくなるんですよね。つまりアメリカ人であっても、半分以上の州の人は「地元にNBAチームがない」状態でNBAを見ていることになります。これは正直意外でした。NBAってアメリカ全土に浸透しているイメージがあったので、州単位で見るとこんなに偏っているとは思っていなかったです。
ちなみに調べている途中で見つけた別のサイトでは「27州にチームがない」という説明文が載っていたのですが、そのすぐ下に列挙されている州のリストを数えると29個あって、ページ内で数字が一致していないという謎の状態になっていました。列挙されている州名自体はWikipediaの情報から自分で数えた29州とほぼ合っていたので、記事としては29州を採用しますが、こういう細かい数字のブレってネット上にはけっこう転がっているものだなと改めて感じました。
シアトルが教えてくれる「チームがなくなってもファンは消えない」という話
地元にチームがない、というテーマで避けて通れないのがシアトルの話です。シアトル・スーパーソニックスは2008年にオクラホマシティへ移転し、オクラホマシティ・サンダーとして生まれ変わりました。この移転、和解条件の関係で「スーパーソニックス」という名前とチームの歴史はオクラホマシティに持ち出せず、サンダーの公式記録は2008-09シーズンからスタートしているそうです。つまりシアトルの人たちからすれば、チームだけでなく歴史そのものを置いていかれたような感覚だったのではないかと想像します。
それでも面白いのは、移転から18年経った2026年になっても、シアトルではスーパーソニックス喪失が語られ続けているという点です。元NBA選手のスペンサー・ホーズが市議会の委員会で「この街にはプロの男子バスケットボールを経験したことのない“失われた世代”がいる」と発言したという報道がありました。18年も経ってまだこの言葉が出てくるあたり、チームがなくなったこと自体は、時間が経てば忘れられるようなものではないんだなと感じます。むしろその「奪われた」という記憶自体が、逆にファンダムを強く残す方向に働いているようにも見えます。Save Our Sonicsという団体の創設者が「この長い道のりがあったからこそ、他のどのファンよりも飢えているファンベースになった」といった趣旨のことを語っていたそうですが、これはなんとなく分かる気がします。
しかもシアトルの場合、NBAが不在の間もWNBAのシアトル・ストームがずっと街に残り続けていました。2008年のソニックス売却の際、地元の女性4人がストームを買い取ってシアトルに残したそうで、その後ストームは2004年・2010年・2018年・2020年とWNBAで4度優勝しています。2008年当時はソニックスとのセット売却でストーム単体の評価額はおまけ程度だったのに、2026年時点ではストーム単体で約4億2500万ドルの評価額になり、WNBA全15球団の中でもトップクラスの規模になっているというのは、NBAが不在だった18年間、シアトルのバスケ熱そのものは一度も消えていなかったことの証明のように思えます。そして2026年3月には、NBA理事会がラスベガスとシアトルへの拡張検討を正式に承認しました。まだ最終決定ではないですが、コミッショナーのアダム・シルバーが「両都市ともNBAバスケットボールを長く支持してきた市場だ」とコメントしているのを見ると、チームがない期間もファンとして声を上げ続けたことが、ちゃんと届いていたんだなという印象を受けます。
一方で、正直に言うと「移転後にシアトルのファンが具体的にどのチームを応援するようになったのか」を示すような調査は見当たりませんでした。トレイル・ブレイザーズやウォリアーズに乗り換えたファンもいるだろうとは想像しますが、それを裏付ける統計は今回の範囲では確認できなかったので、ここは推測にとどめておきます。
日本というもう一つの「地元にチームがない国」
シアトルは元々チームがあって失った街ですが、日本はそもそも最初からNBAチームが存在しない国です。それでもNBAは日本市場をずっと開拓し続けていて、2017年には楽天とNBAが日本国内の独占配信パートナーシップを締結しています。楽天はNBAのグローバル・マーケティングパートナーにもなっていて、この契約規模は報道ベースで2億2500万ドルとも言われています(この金額自体は楽天の公式発表には明記されていないので、あくまで報道された数字として扱います)。2019年には「NBA Rakuten」という専用配信サービスも始まりました。
さらに2025年8月にはNTTドコモとも複数年の配信契約が発表されていて、2025-26シーズンからレギュラーシーズンの一部やプレーオフ、オールスターなどをドコモが配信し、2026-27シーズン以降は2年に1度NBAファイナルも配信予定とのことです。ドコモのCEOが「日本の若い人たちに大きな夢を見て挑戦する精神を持ってほしい」といったコメントを出していましたが、こういう提携の積み重ねって、地元にチームがなくてもファンを増やすための地道な仕掛けなんだなと感じます。実際、この発表の中でNBAは日本において30年以上の歴史があり、1990年以降に日本国内で16試合を開催してきたことも紹介されていました。
そして肌感覚として一番わかりやすいのが、八村塁と河村勇輝の存在です。NBA Store Japanの2025-26シーズン前半(2026年2月13日時点)のジャージー売上ランキングでは、1位がレブロン・ジェームズ(レイカーズ)、2位がルカ・ドンチッチ(レイカーズ)、3位に八村塁(レイカーズ)、4位に河村勇輝(ブルズ)という結果になっていました。レイカーズの選手が上位を独占している形ですが、日本人選手が2人もトップ4に入っているというのは素直にすごいことだと思います。地元にチームがなくても、応援したくなる選手が身近にいれば人はちゃんとファンになるんだな、というのを数字で見せられた気がします。
ただ、ここは正直に書いておきたいのですが、「日本国内のNBAファンが具体的に何人いて、それがどれくらい増えたか」を示すような定量的な調査は見つかりませんでした。配信プラットフォームが増えたことや選手人気は間接的な材料にはなりますが、それをもって「日本のNBAファンが急増している」と断定するのはさすがに言い過ぎかなと思います。感覚としては盛り上がっている気がする、くらいの書き方が誠実だと思います。
ローカルの視聴率データが教えてくれること
視点を変えて、アメリカ国内のローカルテレビ視聴率のデータも興味深いものでした。2025-26シーズン、Nielsenの調査によるとオクラホマシティ・サンダーの地元テレビ視聴者数は平均180万人で、これは全国放送されるNBA中継の多くを上回る水準だったそうです。ローカル視聴者数のランキングは1位サンダー、2位レイカーズ、3位ニックスと続いていて、地元チームがある市場だと、その地域の人たちの関心の高さがそのまま数字に出ているのがよくわかります。
ただこれは「地元にチームがある市場は盛り上がる」ことの証明にはなっても、「地元にチームがない地域の人がファンになりにくい」ことの直接の証明にはなりません。実際、地元にチームがない地域でのLeague Pass加入率やSNSフォロワーの地域内訳といったデータは、今回調べた範囲では見つけられませんでした。この手のデータって公開されていそうでされていないものなんですね。
学術的にも研究されているらしいけど
ちなみにスポーツ社会学の分野でも、この手のテーマはちゃんと研究対象になっているようです。「地理的距離のあるファン」についての論文や、「地元ファンのアイデンティティと愛着」についての論文がいくつか存在することは確認できました。ただ今回はタイトルと掲載誌の存在を確認できただけで、具体的にどんな結果が出ているのかまでは追えていません。こういう学術的な裏付けがちゃんとあるテーマなんだ、という発見だけでも個人的には面白かったです。
まとめ
ここまで調べてみて思ったのは、地元にチームがあるかないかは、ファンの熱量そのものを決定づける絶対条件ではなさそうだ、ということです。シアトルは実際にチームを失いましたが18年経ってもファンダムは全く消えていませんし、日本のようにそもそもチームが存在しない国でも、選手人気や配信環境の整備を通じてファンは着実に増えている印象があります。もちろん地元にチームがある方が試合を身近に感じやすいのは間違いないですし、Nielsenのデータを見てもローカル市場の熱量は本物です。ただ、それが唯一の正解というわけでもない。
自分自身、地元にチームがない場所でずっとNBAを見てきた身としては、この結論はなんだかホッとするものでもありました。地元にチームがないからといって、ファンとしての「本気度」が劣るわけじゃない。応援する選手やチームへの気持ちさえあれば、距離なんて関係ないんじゃないかと、今回調べながら改めて思いました。とはいえ、いつか日本にもNBAのチームができる日が来たら、それはそれでめちゃくちゃ嬉しいだろうなとも思いますが。


