前回は、プロテクト付き指名権の読み方を見ました。「トップ4プロテクト」のような条件は、指名権を出す側が最悪のケースだけを避けるための保険で、読むときは年・元の持ち主・範囲・渡らなかった場合の4つを押さえる、という話でした。その最後に出てきたネッツとセルティックスのトレードの中に、もう1つ気になる言葉がありました。2017年のスワップ権です。
今回はこのスワップ権を取り上げます。指名権そのものを渡すのではなく、「2チームの指名権を入れ替えてもいい権利」というのがどういうものなのか、入門編として仕組みを整理していきます。
スワップ権とは「有利な方を選べる権利」
スワップ権(ピック・スワップ)は、ある年のドラフトで、自分の指名権と相手チームの指名権を入れ替えることができる権利です。入れ替えるかどうかは、権利を持っている側が決めます。
流れはシンプルです。シーズンが終わってロッタリーまで済むと、その年の両チームの指名順位が決まります。そこで相手の指名権の方が上位なら入れ替え、自分の指名権の方が上位ならそのまま。つまり権利を持っている側は、2つの指名権のうち必ず有利な方を手にできます。
逆に、スワップ権を渡した側は、2つのうち不利な方が手元に残ります。自分たちの成績が悪くて上位指名になったとしても、相手の方が下位なら入れ替えられてしまう。ここが普通の指名権トレードとの一番の違いです。
指名権トレードとの違い
第10回で見た指名権トレードは、指名権そのものを相手に渡す取引でした。渡した側はその年の1巡目指名権を失います。
スワップ権の場合、渡した側の手元から指名権がなくなることはありません。どちらに転んでも、1巡目指名権は1本残ります。変わるのは、残る指名権が「上の方」か「下の方」かだけです。受け取る側から見ても、もらえるのは指名権1本分ではなく、「自分の指名権より上になる可能性」だけです。
なので、スワップ権は普通の1巡目指名権よりも価値は低めに見られがちです。権利を持つ側が強いチームで、出す側が弱いチームのときに初めて大きな意味を持ちます。逆に、権利を持つ側の方が弱ければ、入れ替える意味はほとんどありません。調べてみて思ったのは、スワップ権は「相手が自分たちより弱くなる」ことに賭ける権利なんだな、ということでした。
実例1:ネッツの指名権がセルティックスの1位指名になった2017年
スワップ権の怖さが一番分かりやすいのが、前回も触れたネッツとセルティックスの例です。2013年のドラフト当日、セルティックスはポール・ピアースとケビン・ガーネットらをネッツへ送り、2014年・2016年・2018年のネッツの1巡目指名権と、2017年のスワップ権を手に入れました。
2016-17シーズン、セルティックスは53勝29敗でイースタン・カンファレンスの1位でした。一方のネッツはリーグ最低の成績です。セルティックスは当然スワップ権を使い、ネッツの指名権を手にします。その指名権がロッタリーで1位を引き当てました。
ちなみに、入れ替わりでネッツが受け取ったセルティックス自身の指名権は27位です。ネッツはここでカイル・クーズマを指名し、ドラフト当日にレイカーズへ回しています。同じ年の1巡目指名権でも、1位と27位。スワップ権1つでこれだけの差が生まれたわけです。
その後セルティックスは、この1位指名権を76ersの3位指名権などと交換し、3位でジェイソン・テイタムを指名しました。76ersは1位でマーケル・フルツを指名しています。セルティックスにとっては、スワップ権が最終的にテイタムにつながったことになります。
実例2:使われないこともあるスワップ権
もう1つ、反対のケースも見ておきます。2021年1月、ロケッツはジェームズ・ハーデンをネッツへ送る4チーム間のトレードで、ネッツの2022年・2024年・2026年の1巡目指名権に加えて、2021年・2023年・2025年・2027年のスワップ権を手に入れました。
ところが最初の2021年は、ロケッツ自身が低迷していました。ロッタリーの結果、ロケッツの指名権は2位です。ネッツの指名権はずっと下だったので、入れ替える理由がありません。スワップ権は使われず、ロケッツは自分の2位指名権でジェイレン・グリーンを指名しました。
このように、スワップ権は持っていても必ず使えるわけではありません。権利を持つ側が強くなっているか、出す側が弱くなっているか。その組み合わせがそろって初めて価値が出ます。何年分ものスワップ権をまとめて取るのは、どこかの年でその組み合わせが来ることを狙っているからだと思います。
スワップ権にも条件が付くことがある
前回のプロテクトの話は、スワップ権にもつながります。スワップ権にも条件が付けられることがあり、「この順位の範囲に入ったら入れ替えない」といった形で、出す側が最悪のケースを避けることもあります。ニュースでスワップ権を見かけたら、プロテクトと同じように条件のカッコまで読んでおくと安心です。
また、スワップ権は複数のチームの指名権が絡むこともあり、「A・B・Cの3チームの指名権のうち、最も有利なものと最も不利なもの」のような複雑な取り決めも実際にあります。このあたりの細かい種類や、指名権トレードのほかのルールとの関係は、当ブログの別記事「NBAドラフト指名権のルールを解説|プロテクト、スワップ、ステピアン・ルール、凍結まで」で詳しくまとめているので、気になった方はそちらもどうぞ。シリーズでは、まず「有利な方をもらえる権利」という基本だけ押さえておけば十分です。
重要キーワード
- スワップ権(ピック・スワップ):ある年のドラフトで、自分と相手の指名権を入れ替えられる権利。入れ替えるかどうかは権利を持つ側が決める
- 行使:スワップ権を実際に使って指名権を入れ替えること。相手の指名権の方が上位のときだけ意味がある
- 不利な方が残る:スワップ権を渡した側には、2つの指名権のうち下位の方が残る。ただし1巡目指名権そのものは失わない
- 条件付きスワップ:プロテクトと同じように、一定の順位の範囲では入れ替えないといった条件が付いたスワップ権
まとめ:スワップ権は「相手との差」に賭ける権利
スワップ権は、2チームの指名権のうち有利な方を受け取れる権利です。指名権そのものを渡すトレードと違って、出す側の手元から1巡目指名権がなくなることはありません。そのぶん、権利を持つ側が強く、出す側が弱いという組み合わせになったときにだけ、大きな価値が生まれます。
セルティックスは2017年にその組み合わせを引き当て、27位になるはずだった自分の指名権を1位に変えました。一方でロケッツの2021年のように、自分たちの方が下位なら使われずに終わることもあります。トレードのニュースで「スワップ権」という言葉を見かけたら、2つのチームの数年後の強さを想像してみると、その取引の狙いが見えてくると思います。
次回は、前回少しだけ名前が出てきたステピアン・ルールを取り上げます。1巡目指名権を2年続けて手放せないのはなぜなのか、指名権トレードが「1年おき」になりやすい理由と合わせて整理していきます。

