ジャレン・デュレンが、9月28日(現地時間)のピストンズのメディアデーに姿を見せませんでした。9月頭に「RFA交渉がなかなか進まない」という記事を書いたときは、10月1日のクオリファイングオファー(QO)期限まで1か月あるし、そのうちどこかで落ち着くだろうと正直少し楽観していたんです。ところが1か月たってみると、ピストンズの提示は5年2億ドルの全額保証まで上がったのに、デュレン側はまだ首を縦に振っていません。この記事を書いている9月30日(日本時間)の時点では、延長合意・QOへのサイン・サイン&トレードのいずれも決着の報道は見当たらないので、期限直前の今の状況をもう一度整理しておきたいと思います。
1億7,500万ドルから2億ドルへ。金額はもう届いているはず
まず金額の動きから振り返ります。前回の記事を書いた9月1日時点では、ピストンズの提示は5年約1億7,500万ドル(年平均約3,500万ドル)で、デュレン側は年4,000万ドル超を求めていると報じられていました。その後Hoops Rumors(9月11日)が約1億9,000万ドルへの増額を伝え、同じ記事でデュレン側の希望は「年4,000万ドル以上、つまり5年で最低2億ドル」とされていました。そして9月21日ごろには5年2億ドルまで上がり、ESPN(9月28日)はこれを「全額保証(fully guaranteed)」のオファーだと報じています。Hoops Rumorsによると、プレイヤーオプションもチームオプションも付いていないそうです。
ここで「あれ?」となりませんか。9月11日時点のデュレン側の希望が総額2億ドルで、今の提示も2億ドル。数字の上では、ほぼ要求に届いているように見えます。それでもサインしていないというのが今回いちばん不思議なところで、ESPNはその理由について、デュレンの代理人側がピストンズに対して「この膠着はもうお金の問題ではない」と伝えている、と報じています。これはデュレン本人が公に語った言葉ではなく、あくまで代理人側が球団に伝えた内容をESPNが報じたものです。同じESPNの記事では、デュレンがこの交渉の進め方に「軽んじられている(disrespected)」と感じている、という関係者情報も伝えられています。
体重条項は「今のオファー」に入っているのか
では何が引っかかっているのか。報道で繰り返し出てくるのが「体重条項(weight clause)」です。The Athletic(有料記事のため、ここではYardbarkerなどの引用経由)によると、中身は年間を通じて毎月体重を測るというもので、追加のインセンティブという扱いであり、正式な書面ではまだ出されていないとされています。背景としては、プレーオフ2回戦で敗退したあと、球団側がデュレンの体重がプレーオフでのパフォーマンスに影響したと考えて減量を望んだことがあり、デュレン陣営はこれに驚いたと伝えられています。
ややこしいのは、この条項が「今の2億ドルのオファー」に含まれているのかどうかで、報道が分かれていることです。CBS Sports(9月28日)は2億ドルへの増額に触れたうえで「the deal includes weight clauses」と書いていて、The Athletic系の報道も最新のオファーに含まれているという書き方です。一方でESPN(9月28日)は現在のオファーを「全額保証」としたうえで、体重条項は「earlier offers(以前のオファー)」に含まれていたと書いていて、SIも「以前のオファーに体重条項が含まれていた」としています。どちらが正しいのかは、今の時点では確定できません。
ただ、どちらにしても思うのは、仮に今のオファーから外れていたとしても、一度そういう条項を出されたという事実自体がデュレン側にとっては引っかかっているんじゃないか、ということです。オールスターに初選出されてオールNBAにも入ったセンターが、契約交渉の場で「毎月体重を測らせてほしい」と言われたら、金額以前に気持ちの面で面白くないのはなんとなく想像がつきます。「お金の問題ではない」という言葉が出てくるのも、このあたりと無関係ではなさそうです。
プレーオフの数字と、球団側の言い分
球団側がそこまで体重を気にする理由として挙げられているのがプレーオフです。ピストンズは1回戦で第8シードのマジックに第7戦までもつれ込んだ末に勝ち上がり、2回戦ではホームコートアドバンテージを持ちながらキャバリアーズに第7戦で敗れました。デュレンのプレーオフ平均得点は、ESPN(9月28日)が10.5点、AP(9月28日)とStatMuseが10.2点と数字に少し差がありますが、いずれにしても約10点前後で、レギュラーシーズンの平均19.5点・10.5リバウンドから大きく落ちたのは間違いありません。控えのポール・リードに出場時間を奪われる場面もあったと報じられています。
前回の記事でも書きましたが、若いビッグマンがプレーオフで苦しむこと自体はそこまで珍しい話ではないと思っています。ただ球団側から見れば、2億ドル払う相手に「いちばん大事な時期に数字が半分になった」という事実がある以上、何かしらの対策を契約に入れたくなる気持ちもわからなくはないんですよね。どちらの言い分にもそれなりの理屈があるからこそ、こじれているのかなという印象です。
先に決まったオーサー・トンプソンの延長
そしてデュレン側の不満の比較対象として名前が挙がっているのが、オーサー・トンプソンです。トンプソンは9月18日(現地時間)、5年1億5,500万ドルの全額保証のルーキースケール延長でピストンズと合意しました(ESPNのシャムズ・シャラニア記者の報道)。ESPNによると、デュレンは特にこのトンプソンの延長の扱われ方と比べて、今回の交渉の進め方に不満を感じているとされています。なお、トンプソンの延長に体重条項のようなものが付いていたのかどうかは、報道が見当たらず確認できていません。
ちなみに前回の記事では、「トンプソンはデュレンの契約が決着したあとに本格的な延長交渉に入る見通し」という当時の分析を紹介していました。実際にはトンプソンの方が先にさっくり決まってしまったので、見通しとは逆の順番になりました。トンプソンはオールディフェンシブ1stチームに選ばれたディフェンスの要なので、球団が早めに押さえたかったのは理解できます。ただ、同じオフに先に若手の延長がすんなり決まって、自分は条項付きのオファーで何か月も待たされている、となると、デュレン側が「扱いが違う」と感じるのも無理はない気がします。
QOを選んだ場合の試算は、実は2億ドルに届かない
ここからが個人的にいちばん気になっているところです。もしデュレンがこのまま延長にサインしない場合、1年960万ドルのQOにサインして今シーズンを戦い、来夏にUFA(制限なしFA)になる道があります。ESPNによれば、デュレン側は来夏にマックス契約を得られれば、今回失う分は数年で取り戻せると考えているそうです。Marc Stein記者(Heavy経由、9月10日)も、9月末までに合意できなければQOで1シーズン戦う方向に傾いていると伝えていました。
ただ、この「取り戻せる」の中身を実際に計算してみると、話はそう簡単ではありません。CBS Sports(9月28日)の試算では、2027-28シーズンのサラリーキャップを1億7,600万ドルと予測したうえで、ピストンズ以外の球団と来夏に25%マックスの4年契約を結んだ場合は約1億8,920万ドル。これに今季のQO960万ドルを足すと、5シーズンで約1億9,880万ドルになるとしています。Hoops Rumors(9月11日)も同じような試算をしていて、こちらは来夏の他球団4年マックスを約1億8,700万ドルと見積もって、QOと合わせて約1億9,670万ドルです。どちらもあくまでキャップの予測に基づく数字ですが、いずれにしても今ピストンズが出している2億ドルに届かないんですよね。
しかもこれは「来夏ちゃんとマックスをもらえたら」という前提の話です。1年960万ドルでシーズンを戦っている間に大きな怪我をすれば前提ごと崩れますし、プレーオフでまた同じような数字に終わればマックスが出るかどうかも怪しくなります。お金だけで考えれば、今2億ドル全額保証にサインしておく方が、期待値でもリスクでも有利に見えます。だからこそ代理人側の「もうお金の問題ではない」という言葉が、ただの交渉術ではなく本音なのかもしれない、と思えてくるわけです。
ウェンバンヤマの「25%」と比べてみると
少し脱線しますが、この話を追っていて思い出したのが、7月のビクター・ウェンバンヤマの延長です。ESPN(7月10日)によると、ウェンバンヤマはスパーズと5年2億5,200万ドルのマックス・ルーキースケール延長で合意しましたが、Rose Ruleで使えた30%(約3億300万ドル)ではなく25%を選び、スパーズは約5,000万ドルを節約できたと報じられています。本人のコメントは「Spurs family, I’m here to stay. Whatever it takes.」でした。
デュレンも前回の記事で書いた通りオールNBA選出でRose Ruleの資格を得ていて、理論上の上限はもっと高い位置にあります。ウェンバンヤマは取れるお金をあえて取らずにチームに残す方を選び、デュレンは今の提示の方が金額的に得なのにそれを蹴ってでも別の何かを求めている。方向は真逆ですが、どちらも「お金だけでは決めていない」という点では似ているのが面白いところです。もちろんウェンバンヤマとデュレンでは立場も球団との関係もまったく違うので単純比較はできませんが、契約というのは結局、数字と同じくらい「どう扱われたか」で決まる部分があるんだなと改めて感じます。
ラングドン社長の「He has until Thursday」
メディアデーでは、前回の記事の時点では沈黙していたピストンズ側がようやく口を開きました。トラジャン・ラングドン(バスケットボール運営部門社長)は、Detroit Free Pressによると「As you guys know, we have not come to an agreement with Jalen Duren to this point. He has until Thursday to make a decision and we will be excited to have him in regardless of what decision he does make.」とコメントしています。さらに「Negotiation is negotiation」「I won’t let anybody’s feelings get in the way of decisions that I make professionally.」とも話していて、ひと夏デュレン本人とは話していないことも明かしました(Heavy)。ESPNには、ニューオーリンズ時代にも5年間「扱いが簡単ではなかった選手」がいたので経験はある、という趣旨の発言も載っています(誰のことかは名指ししていません)。
言葉としては「どんな決断でも歓迎する」という穏やかなものですが、同時に「個人の感情で仕事上の判断は変えない」とも言っているので、球団としてはこれ以上動く気はない、というメッセージにも読めます。J.B.ビッカースタッフHCは「It’s all love from our standpoint」(AP)と話し、ケイド・カニンガムも「I’ve been in those shoes before. The negotiations are between the front office and his representation.」(Yahoo Sports)と、あくまでフロントと代理人の話だという立場でした。一方で、デュレン本人のコメントは今のところ出ていません。
気になるのは期限そのものです。CBA上はチームが期限前に延長すれば翌年3月1日まで延ばせる仕組みがあり、CBS Sports(9月22日)も双方の合意で延長は可能としつつ、その兆候はないと書いていました。SIやHoops Rumorsは、ラングドンの発言からピストンズには延長するつもりがないという見方をしています。ただ、ラングドン本人が言ったのは「He has until Thursday to make a decision」までで、「延長しない」と明言したわけではありません。ここは報道側の解釈なので、ギリギリで何か動く余地がゼロとは言い切れないと思っています。
サイン&トレードの線は?
もう一つの選択肢として、サイン&トレードもあります。ESPNは、ピストンズがオフシーズンを通してデュレンをロスターに残したいという姿勢を貫き、サイン&トレードの提案はすべて断ってきたと報じています。CBS Sportsは関心を示した球団としてキングスとバックスの名前を挙げていて、SIもクリス・マニックス記者の報道として、球団がデュレンをトレードする気がない姿勢を崩していないと伝えています。ちなみにキングスがドマンタス・サボニスを含むサイン&トレード案を持ちかけて断られた、という話もThe Athletic発として出回っていますが、原文を確認できておらず時期もはっきりしないので、今のところは噂レベルの話として見ておいた方がよさそうです。
ここまで球団が「トレードはしない」で一貫しているなら、残る現実的な道は「2億ドルの延長にサインする」か「QOにサインして来夏UFAを目指す」かのどちらかでしょう。個人的には、ここまで来て期限直前にあっさり延長サイン、という展開も全然あり得ると思っています。RFA交渉は最後の数日でガラッと動くことが珍しくないので。
まとめ
整理すると、金額の面ではピストンズの5年2億ドル全額保証は、デュレン側が9月上旬に求めていた水準に届いていて、QO+来夏マックスという試算(CBSで約1億9,880万ドル、Hoops Rumorsで約1億9,670万ドル、いずれも予測)と比べても上回っています。それでも決まらないのは、体重条項の扱いやトンプソンとの比較など、代理人側の言う「お金ではない」部分がまだ埋まっていないからなんだと思います。体重条項が今のオファーに残っているのかどうかすら報道が割れている状況なので、外から見ていると余計にわかりにくいですね。
ファンとしては、昨季東1位だったチームの主力センターがキャンプに来ていないという今の状態がとにかくもったいないです。延長にサインするにしても、QOで勝負するにしても、デュレンがちゃんと納得した形でコートに戻ってきてくれるのがいちばんです。期限の木曜日にどういう答えが出るのか、ドキドキしながら待ちたいと思います。

