「監督って平均何シーズン指揮するんやろ?」
「解雇された後にどうやって次のチーム見つけるんやろ」
前回の記事「NBAのヘッドコーチ(監督)はどう決まる?採用の流れと有名ヘッドコーチへの6つのルート」の最後で、気になるけれど今回は採用の話までに絞ります、と切り上げた疑問です。今回はその続きとして調べてみました。
日本では「監督」と呼ぶことも多いですが、NBAの役職名はヘッドコーチなので、この記事ではヘッドコーチと書きます。材料は、主に2024〜2026年の解雇・退任の実例と、HoopsHypeやHoops Rumorsなどが出している在任期間の数字です。先に結論を言うと、「平均◯シーズン」と言い切れる標準的な数字は私が調べた範囲では見つからず、定義によって数字が違いました。解雇されたあとの行き先も、同じヘッドコーチに戻る人、アシスタントに回る人、解説者や大学・高校に行く人、まだ次が決まっていない人と、バラバラでした。
「平均何シーズン」は、数字が1つに決まりませんでした
まず「ヘッドコーチの平均在任は◯年」という数字を探しましたが、母集団も数え方も違う数字ばかりで、標準的な統計は見つかりませんでした。確認できた3つを、何を数えた数字なのかと一緒に並べます。
1つ目は、2019年5月のUSA TODAY/HoopsHype(アレックス・ケネディ記者)の記事にある「NBAでは平均2.4シーズンごとに新しいヘッドコーチが採用されている」という数字です。研究者のキップ・ライトが過去20年の4大リーグを比べたもので、NHLは2.6、MLBは3.1、NFLは3.4でした。ただ、これは球団がヘッドコーチを替える頻度で、1人が平均2.4年続くという意味ではありません。
2つ目は同じ記者の2019年9月の記事で、2019-20シーズンの開幕時点で、現役ヘッドコーチが今のチームで指揮してきた試合数の平均が303.5試合、記事の表現では「ほぼ4シーズン分」でした。82試合で割ると約3.7シーズンですが、この換算は私がしたものです。当時の現役の途中経過の平均であって、解雇されるまでの長さではないので、そこは注意が必要です。
3つ目は、2025年5月にTowards Data Scienceに載った個人の分析で、1990〜2021年のオフシーズンに採用された221人の在任期間の中央値が2.5シーズンでした。データはWikipediaから著者が手で集めたもので、シーズン途中に就任した(暫定の肩書きが付きやすい)ヘッドコーチは分析から外されています。査読された研究ではなく個人の分析なので、参考程度に見ています。
それなら自分でも数えてみようと思い、Hoops Rumorsの最長在任ヘッドコーチ一覧(2026年9月6日)の就任日から、2026年9月21日時点の現役30人の在任期間を計算してみました。私が数えた範囲では、平均が約3.3年、中央値が約2.3年です。月しか載っていない日付は15日として数え、暫定として就いた日から数えている人(ミッチ・ジョンソンやトゥオマス・イーサロなど)もいるので概算ですし、今も続いている在任の途中経過ですから、最終的に何年続くかの平均でもありません。
目を引いたのは、30人のうち12人(40%)が就任2年未満で、6人は2026年に就任したばかりということです。5年超は6人、10年超はエリック・スポルストラとスティーブ・カーの2人だけでした。この2人を除いた28人の平均は約2.5年なので、平均を押し上げているのはこの長期政権の2人のようです。
最長のスポルストラは、2008年4月にヒートのヘッドコーチに就任して、ここまで18シーズンを指揮しています。2位のカーは2014年5月の就任です。ただ、ESPNの歴代ランキングを見るとグレッグ・ポポビッチ(スパーズ)が29シーズン、ジェリー・スローン(ジャズ)が23シーズンなので、いまの1位でも18シーズンというのは、ポポビッチが別格すぎたんだなと思います笑。
解雇されるタイミングは、成績だけでは決まらない?
NBA.comの2026年のコーチングトラッカーによると、2025-26シーズン中から2026年のオフにかけてヘッドコーチが替わったのは、バックス、ブルズ、マジック、マブス、ペリカンズ、トレイルブレイザーズの6球団でした。同じように、2024-25はESPNが6球団、2023-24は私が数えた範囲では8球団なので、この3年間では30球団のうち6〜8球団が動いている計算です。
タイミングはまちまちです。ペリカンズは2025年11月15日、12試合目で2勝10敗だったウィリー・グリーンを解雇しました(NBA.com)。一方、ナゲッツはシーズン残り3試合の2025年4月8日に、47勝32敗だったマイケル・マローンをGMのカルビン・ブースと一緒に解雇しています。ニックスは、50勝以上を2年連続で挙げたトム・シボドーを、イースタン・カンファレンス・ファイナルに敗れた3日後に解雇しました。勝率と解任の関係を整理した統計は見つけられませんでしたが、この3例を並べるだけでも、成績だけでは説明しにくい世界だと感じます。
2026年に退いた人たちは、「解雇」か「退任」かの書かれ方も割れていました。ドク・リバースは、ESPNが「out」、NBA.comが「steps down」と書き、本人はAndscapeのインタビューで「100パーセント自分の決断だった」と話したとHoopsHypeが伝えています。ジェイソン・キッドはマブスが「双方の合意」と説明した一方で、解任と表現する報道もありました。ビリー・ドノバンは「stepped down」で報道が一致していて、ブルズは残留を望んでいたようです。この記事では、どれかに決めつけず、報道の書き方のまま書いていきます。
解雇されたあと、行き先は本当にバラバラでした
「解雇されたヘッドコーチの何割が再就職したか」「空白期間の平均は」という統計も、見つかりませんでした。ここからは、私が追えた例を並べます。
すぐ別のチームに戻った人、1年以上かかった人
私が追えた中で最短は、ジャマール・モズリーです。2026年5月4日にマジックを解雇されて、14日後の18日にペリカンズのヘッドコーチに決まりました(ESPNは5年契約と報道)。ドラフトコンバインで面談していたそうです。解雇から2週間で次が決まるのは、正直かなり早いなと思いました。モンティ・ウィリアムズも、2023年5月13日にサンズを解雇されて、18日後にはピストンズと合意しています。マイク・ブラウンはキングスを2024年12月に解雇されて約6か月でニックスに決まり、2026年にはそのニックスでリングを獲りました。
一方、テイラー・ジェンキンスは2025年3月28日にグリズリーズを解雇されて、バックスとの合意が報じられたのは2026年4月23日、約13か月後です。バックスは、ジェンキンスが2018-19シーズンにマイク・ブーデンホルザーの下でアシスタントを務めた球団でもあります。その13か月に何をしていたかは、私が読んだ記事には書かれていませんでした。14日と13か月の差がどこから来るのかも、説明した記事は見つけられませんでした。
アシスタントに回る人
ケニー・アトキンソンは、ネッツを解雇されたあとクリッパーズで1シーズン、ウォリアーズで3シーズンアシスタントを務め、2024年夏にキャバリアーズのヘッドコーチになって、2024-25シーズンにコーチ・オブ・ザ・イヤーを獲りました。NBA.comの特集の見出しは「I needed to get fired」です。2026年の夏も同じ動きがあって、ドノバンはスパーズ、グリーンはマブスのリード・アシスタントになりました。ドノバンは退任から合意の報道まで約2.5か月ですが、本人はプレーオフ終了前にスパーズから連絡があったと話したと報じられているので、動き出した時期はもっと前だったようです。
フランク・ヴォーゲルの例は、人のつながりが分かりやすいです。2024年5月にサンズを解雇されたあと、マブスでキッドに誘われてコンサルタント(ESPNの表記はアドバイザー)になり、2025年7月にリード・アシスタントで合意、2026年9月にはウォリアーズのアソシエイトヘッドコーチに就いたと報じられました(発表日はSIが17日、Hoops Wireが18日と割れています)。キッドは、ヴォーゲルがレイカーズで優勝した2019-20シーズンのスタッフのアシスタントだったので、かつての部下が元上司を誘った形です。立場が入れ替わっているのが面白いですし、こういうつながりがそのまま次の仕事になるんだなと感じました。
解説者、大学、高校
リバースは、シクサーズを2023年5月に解雇されたあとESPNの解説者になり、約8か月後の2024年1月にバックスのヘッドコーチに戻っています。マローンは2025年4月にナゲッツを解雇されたあと、ESPNの「NBA Countdown」の解説者を務め、2026年4月にノースカロライナ大学の男子バスケットボールのヘッドコーチに就任しました。この解説者の仕事を、Yahoo Sportsの記者は、ポストが空くたびに人々の目に触れ続けられると書いています(記者の見方です)。
ウィリアムズは、2024年6月にピストンズを解雇されたあと、10月にサンアントニオのTMIエピスコパル高校のヘッドコーチになり、息子2人を指導しているとESPNが伝えています。NBAのヘッドコーチから高校の指導者へという振れ幅には驚きました。ちなみに、この時点でピストンズとの契約は大きく残っていたと報じられています(後述します)。
2026年9月時点で、まだ次が決まっていない人
私が確認した範囲では、新しい職が決まったという報道が見つからなかった人もいます(存在しないことの証明ではありません)。シボドーは2025年6月の解雇から1年3か月以上がたちました。2025年10月にはセルティックスの練習でフィルムセッションに加わったとBoston GlobeやCBS Bostonが伝え、2026年1月にはSiriusXMで、次のチャンスに向けて準備していると話しています。Hoops Rumorsは、2026年にトレイルブレイザーズがマローンとシボドーに接触しようとしたところ、2人とも断ったと報じていますが、理由は確認できていません。
キッドは、2026年8月末にフィリピンであったイベントでのインタビューで、「コーチングにノーとは絶対に言わない、将来どこかで。でも今は家で家族との時間を楽しもうとしているところ」という趣旨の話をしています。ヤニス・アデトクンボやジェイレン・ブランソンとは、今もコーチの面から話していると言っていました。リバースは、ESPNがバックスとアドバイザー職への移行を協議中と報じ、バックスは2026-27シーズンの8桁の年俸を払うとも伝えられましたが、協議の結果は私が確認できた範囲では出てきませんでした。
解雇されたあとのお金は、どうなっているのか
まず仕組みです。NBA.comのデビッド・アルドリッジ記者による2017年の記事に、「Most teams, for example, put ‘offset’ language into the standard coach contract.」(たとえば、ほとんどの球団は標準的なコーチ契約に「オフセット」の文言を入れている)とあります。オフセットは、新しい球団で雇われたときの給料が、前の球団が払う残りの契約金の一部または全部を相殺する仕組みで、SI(All Knicks)が一般的な仕組みとしてそう説明していました。2017年時点の話なので、今も同じかどうかまでは確認できていません。
残額はすべて報道ベースで、球団の発表ではありません。Sportico(Yahoo Sports経由)によると、サンズが解雇したブーデンホルザーは5年5,000万ドルのうち4,000万ドル、ヴォーゲルは5年3,100万ドルのうち2,400万ドルが残っていたそうです。キッドは残り4年・4,000万ドル超(ESPN)、シボドーは少なくとも3,000万ドルが保証されていたと複数の媒体が見出しで伝えています。ウィリアムズはピストンズとの6年7,850万ドルのうち約6,500万ドルが残っているとESPNが書いていて、媒体によっては「6,500万ドル超」と表記が割れています。ジェンキンスとマローンは、残りの契約額の報道自体を見つけられませんでした。解雇や退任のあとに数千万ドル単位で残っている例が並ぶのを見ると、正直びっくりします。
では実際に相殺されるのか。私が確認できた範囲で個別に報じられていたのは、ウィリアムズがサンズを解雇されたときの残り2,000万ドルが、ピストンズに採用されたことで相殺されたと「報じられている」(Sportico)という1件だけでした。アシスタントや解説者、大学の収入がどう扱われるのかは、調べても分かりませんでした。これは私の想像ですが、大きな残りの契約があるなら、条件の悪い職に慌てて飛びつかなくていい面はあるのかもしれません。
次のチームは、どうやって見つけているのか
いちばん知りたかったこの疑問は、体系的に説明した記事を見つけられませんでした。個別の例を並べて見えたのは、まず前の関係です。ヴォーゲルは元部下のキッドに誘われ、ジェンキンスは以前アシスタントをしていたバックスに戻り、アトキンソンはティロン・ルー(クリッパーズ)とカー(ウォリアーズ)の下で経験を積んでからキャバリアーズに決まりました。モズリーとペリカンズが正式に会ったのも、ドラフトコンバインでした。
もうひとつは、見える場所にいることです。リバースやマローンの解説者、シボドーのセルティックスの練習への参加がそうで、リック・カーライルは先ほどの2017年の記事で、解雇されたときに一番やってはいけないのは、姿を消して穴に閉じこもることだという趣旨の話をしています。解説者の席が次の仕事の入口にもなっているのだとしたら、元ヘッドコーチがテレビに出てくるのも納得ですが、実際どこまで効いているのかは私には分かりません。
三つ目は、選ぶ側の事情です。ナゲッツは、マーク・スタイン記者の報道によると、デビッド・アデルマンにヘッドコーチ経験のあるアシスタントを加えるよう求めていて、元グリズリーズ、キングスのヘッドコーチのデイブ・ジョーガーが2026年8月にリード・アシスタントになりました。ジョーガーは海外クラブからの誘いも断ったそうです。ここまでは事例を並べて見えた印象で、「こうやって決まる」と言い切れる材料ではありません。
まとめ
「平均何シーズン?」への答えは、定義ごとに数字が違う、でした。2.4シーズン、2.5シーズン、3.3年と、同じものを測った数字ではないので単純には比べられませんが、現役30人の40%が就任2年未満という今の状況を見ると、長く続く人は少数派のようです。
解雇されたあとは、ヘッドコーチに戻る、アシスタントに回る、解説者や大学、高校に行くと道はいろいろで、ブラウンのように2024年12月にキングスを解雇されて、2026年にニックスで優勝した人もいます。一方で、シボドーのように1年以上待っている人もいて、キッドは今は家族との時間を大事にしていると話しています。次にシボドーやキッドがどこに現れるのか、リバースがどうなるのかは、次のオフの楽しみになりそうです。新しいヘッドコーチが決まるたびに、その人が前の職をどう終えて、どんな道でそこに来たのかも、見てみようと思います。

