NBAで18年間プレーするには、どれくらいの選手になればいいのでしょうか。
スーパースターになる。毎年20得点を取る。何度もオールスターに選ばれる。そんなキャリアを想像するかもしれませんが、そのどれにも当てはまらず18年間NBAで生き残った選手がいます。
ニコラ・バトゥームです。
フランス出身の万能フォワードとして長年NBAでプレーしてきたバトゥームが、現役引退を発表しました。NBAでは18シーズン、プロとしては21年間にわたってプレーした長いキャリアに終止符を打つことになります。
バトゥームのNBA通算成績は平均9.6得点、4.7リバウンド、3.0アシスト。一度もNBAオールスターには選ばれていません。
それでも18年間、NBAから仕事がなくなりませんでした。
個人的には、ここがバトゥームという選手の一番すごいところだと思います。
2008年ドラフト25位から始まったNBAキャリア
バトゥームは1988年生まれのフランス人フォワード。若くしてフランス国内リーグで頭角を現し、2008年NBAドラフトへエントリーしました。
ドラフトではヒューストン・ロケッツから全体25位で指名されましたが、直後のトレードによってポートランド・トレイルブレイザーズへ移籍。ここから長いNBAキャリアが始まります。
当時のNBAにはすでにトニー・パーカーやボリス・ディアウといったフランス出身選手がいました。バトゥームもその流れに続き、ヨーロッパ出身の大型ウイングとしてNBAへ挑戦することになります。
ルーキーシーズンから79試合に出場し、76試合で先発。平均5.4得点と数字こそ目立ちませんでしたが、20歳の新人がいきなりNBAのスターターとして起用されたことからも、その万能性が高く評価されていたことが分かります。
ポートランドで完成した「何でもできるウイング」
バトゥームの名前を聞いて、まずブレイザーズ時代を思い浮かべる人も多いでしょう。
ラマーカス・オルドリッジ、ブランドン・ロイ、そして後にはデイミアン・リラード。ポートランドには得点を任せられるスターがいました。そのため、バトゥームに毎試合20得点を取ることは求められていませんでした。
その代わりにバトゥームが担ったのが、チームに足りない仕事を全部埋めることです。
相手のエースを守る。3ポイントを決める。リバウンドを取る。ボールを運ぶ。味方へパスを出す。速攻では走る。必要なら自分でも得点する。
2012-13シーズンには平均14.3得点、5.6リバウンド、4.9アシスト、1.2スティール、1.1ブロックを記録しました。
改めて見ると、とんでもなくバトゥームらしいスタッツです。
どれか一つが突出しているわけではありません。しかし、ほぼすべての項目に数字が残っています。
シャーロットでは「1億2000万ドルの男」に
2015年、バトゥームはトレードでシャーロット・ホーネッツへ移籍します。
ここでもすぐに中心選手となり、2015-16シーズンには平均14.9得点、6.1リバウンド、5.8アシストを記録。得点だけでなくゲームメイクでも存在感を示しました。
そして2016年夏、シャーロットはバトゥームと5年1億2000万ドルの大型契約を結びます。
今ではNBAで1億ドル契約を頻繁に見かけますが、当時としてはかなりインパクトのある金額でした。それだけバトゥームの万能性が評価されていたということです。
ただし、ここからキャリアは順風満帆とはいきませんでした。
大型契約から一転、「不良債権」扱いへ
大型契約を結んだ後、バトゥームの成績は徐々に低下していきます。怪我の影響もあり、期待されたほどの数字を残せないシーズンが続きました。
特に契約終盤になると出場機会も減少。2019-20シーズンには22試合の出場にとどまり、平均3.6得点まで落ち込みました。
1億2000万ドルという契約額と実際のパフォーマンスが釣り合わないとして、当時のバトゥームはNBAファンから厳しい評価を受けます。
最終的にシャーロットは2020年、バトゥームをウェイブしました。
大型契約をもらった選手が成績を落とし、契約途中でチームから放出される。
この時点で31歳。
ここからNBAキャリアが急速に終わっていっても不思議ではありませんでした。
クリッパーズでまさかの復活
ところが、バトゥームのキャリアはここで終わりませんでした。
ウェイブされた直後、ロサンゼルス・クリッパーズと契約。そこでバトゥームは、自分の役割を大きく変えます。
シャーロットでは大型契約を背負った中心選手でした。しかしクリッパーズにはカワイ・レナードやポール・ジョージがいます。バトゥームが大量にシュートを打つ必要はありません。
必要なのはスターを助けることでした。
守備をする。コーナーで3ポイントを待つ。ボールを素早く動かす。相手のビッグマンを守る。必要ならスモールボールのセンターまで担当する。
自分が主役になろうとせず、チームが必要としている役割に自分を合わせた。
これがバトゥームのNBAキャリアを大きく延ばしたように思います。
「何でもできる」から「何でもやる」へ
若い頃のバトゥームは、「何でもできる選手」でした。
サイズがあり、運動能力があり、シュートも打てて、パスもできる。理論上はかなり理想的なオールラウンドプレイヤーです。
ただ、ベテランになってからのバトゥームは少し違いました。
「何でもできる選手」から「必要なら何でもやる選手」になった。
この違いは大きいと思います。
スター選手なら、自分を中心にチームが組まれます。しかしロールプレイヤーの場合は逆です。チームに合わせて自分の役割を変えなければなりません。
バトゥームはそれが非常に上手い選手でした。
シクサーズでも必要とされた理由
2023年にはジェームズ・ハーデンを含む大型トレードの一部としてフィラデルフィア・76ersへ移籍しました。
すでに30代半ば。それでもシクサーズはバトゥームを重要なローテーションプレイヤーとして起用します。
理由はクリッパーズ時代と同じです。
ボールを長時間持たなくてもプレーできる。3ポイントを打てる。複数ポジションを守れる。判断が速い。そしてスター選手の邪魔をしない。
NBAでは得点能力が注目されがちですが、優勝を狙うチームにはこういう選手が必ず必要になります。
ボールは一つしかありません。
全員が20得点を狙うチームを作ることはできません。
だからこそ、バトゥームのように「ボールを持たなくても試合に影響を与えられる選手」には価値があります。
フランス代表でも長年プレー
バトゥームのキャリアを語るうえで、フランス代表も欠かせません。
NBAで18年間プレーしながら、国際大会でも長年フランス代表として活躍。オリンピックやFIBAワールドカップなど、多くの国際大会に出場しました。
特に印象的だったのが、東京オリンピック準決勝のスロベニア戦です。
試合終了間際、フランスが90-89と1点リードしている場面で、スロベニアのクレメン・プレペリッチが逆転を狙ってゴールへアタックしました。
そのシュートを後ろからブロックしたのがバトゥームでした。
フランスはそのまま決勝進出。
得点ではなく、最後の最後に守備で試合を決める。
これほどバトゥームらしいプレーもないかもしれません。
一度もAll-Starにならず、それでも18年間
NBAではスター選手に注目が集まります。
レブロン・ジェームズ、ステフィン・カリー、ケビン・デュラントのような選手は、もちろん特別です。
しかしNBAには450人前後しかロスター枠がありません。その世界で18年間仕事を得続けること自体が、とてつもないことです。
バトゥームはAll-Starに一度も選ばれていません。All-NBAにも選ばれていません。得点王になったこともありません。
キャリア平均は9.6得点です。
それでもポートランド、シャーロット、ロサンゼルス、フィラデルフィアと、時代も役割も違う複数のチームから必要とされ続けました。
得点だけでは選手の価値は分からない
Basketball FreakでもNBA選手のスタッツを扱うことは多いですが、バトゥームのキャリアを見ると改めて思います。
平均得点だけでは、その選手の価値は分かりません。
10得点しか取らなくても、相手のエースを守り、3ポイントを決め、余計なターンオーバーをせず、味方へ良いパスを出して、必要なポジションを守れる選手ならチームには価値があります。
逆に平均20得点を取っていても、ボールを大量に必要とし、守備で狙われ、効率が悪ければ、優勝を狙うチームで使いにくい場合もあります。
バトゥームはキャリア後半になるほど、この「数字に出にくい価値」でNBAに居場所を作った選手でした。
18年間、お疲れさまでした
2008年にNBA入りした20歳のフランス人フォワードは、そこから18シーズンをNBAで戦いました。
万能ウイングとして期待されたポートランド時代。大型契約を勝ち取ったシャーロット時代。その契約によって厳しい批判も受け、一度はウェイブされました。
それでも役割を変え、クリッパーズで復活。シクサーズでも優勝を目指すチームの重要なピースとなり、ベテランになってもNBAで必要とされ続けました。
スーパースターではなかったかもしれません。
でも、「NBAで長く生き残るとはどういうことか」を考えた時、ニコラ・バトゥームの18年間はかなり理想的な答えの一つだったのではないでしょうか。
18年間、本当にお疲れさまでした。
ニコラ・バトゥームの年度別成績(NBA通算1,205試合)
18シーズン、1,205試合。平均9.6得点という数字の中身を、年度別で見てみます。
| シーズン | チーム | 試合 | 得点 | リバウンド | アシスト | FG% | 3P% |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2008-09 | ポートランド | 79 | 5.4 | 2.8 | 0.9 | .446 | .369 |
| 2009-10 | ポートランド | 37 | 10.1 | 3.8 | 1.2 | .519 | .409 |
| 2010-11 | ポートランド | 80 | 12.4 | 4.5 | 1.5 | .455 | .345 |
| 2011-12 | ポートランド | 59 | 13.9 | 4.6 | 1.4 | .451 | .391 |
| 2012-13 | ポートランド | 73 | 14.3 | 5.6 | 4.9 | .423 | .372 |
| 2013-14 | ポートランド | 82 | 13.0 | 7.5 | 5.1 | .465 | .361 |
| 2014-15 | ポートランド | 71 | 9.4 | 5.9 | 4.8 | .400 | .324 |
| 2015-16 | シャーロット | 70 | 14.9 | 6.1 | 5.8 | .426 | .348 |
| 2016-17 | シャーロット | 77 | 15.1 | 6.2 | 5.9 | .403 | .333 |
| 2017-18 | シャーロット | 64 | 11.6 | 4.8 | 5.5 | .415 | .336 |
| 2018-19 | シャーロット | 75 | 9.3 | 5.2 | 3.3 | .450 | .389 |
| 2019-20 | シャーロット | 22 | 3.6 | 4.5 | 3.0 | .346 | .286 |
| 2020-21 | クリッパーズ | 67 | 8.1 | 4.7 | 2.2 | .464 | .404 |
| 2021-22 | クリッパーズ | 59 | 8.3 | 4.3 | 1.7 | .463 | .400 |
| 2022-23 | クリッパーズ | 78 | 6.1 | 3.8 | 1.6 | .420 | .391 |
| 2023-24 | クリッパーズ | 3 | 2.7 | 2.3 | 1.7 | .375 | .286 |
| 2023-24 | フィラデルフィア | 57 | 5.5 | 4.2 | 2.2 | .456 | .399 |
| 2024-25 | クリッパーズ | 78 | 4.0 | 2.8 | 1.1 | .437 | .433 |
| 2025-26 | クリッパーズ | 74 | 4.0 | 2.5 | 0.9 | .403 | .404 |
| 通算 | 1205 | 9.6 | 4.7 | 3.0 | .436 | .371 |
得点のピークは2016-17シャーロットの15.1得点、リバウンドは2013-14ポートランドの7.5本、アシストも2016-17の5.9本です。つまり「一度も20点を取る選手ではなかった」わけですが、得点・リバウンド・アシストのどれもが一定水準で、年によって求められる役割が変わっても対応できました。
面白いのは最後の3シーズンで、得点は4〜6点まで落ちているのに3P成功率は.391 → .433 → .404。役割を「3Pと守備だけ」に絞りきって、その1点で居場所を作り直しています。18年の最後の形がこれなのは、いかにもバトゥームらしいと思います。
成績は英語版Wikipediaの Career statistics を元に、通算の平均を NBA.com と突き合わせて確認しています。年度の途中で移籍したシーズンは、チームごとに分けて表示しています。

