小さい頃から他のスポーツでも活躍していたNBA選手ってどれくらいいるんだろう、とふと気になりました。アメリカの学校スポーツは日本の部活と違ってシーズン制になっているはずなので、1人が複数競技をやること自体は制度上できなくはなさそうだよなと思ったのがきっかけです。真っ先に名前が浮かんだのがアレン・アイバーソンで、確か野球もやってたんじゃなかったっけ、というくらいのうろ覚えの記憶がありました。実際に調べてみると、アイバーソンの実績自体は自分が思っていた以上にすごいものでしたし、それ以外にも「え、この人がそんなことしてたの」と驚く選手が何人も出てきました。今日はその調査結果をまとめていきます。
まずシーズン制の話から
アメリカの高校スポーツは秋・冬・春の3シーズン制になっていて、秋にフットボールやサッカー、冬にバスケや水泳、春に野球や陸上といった形で競技が振り分けられています。つまり1人の生徒が「秋はフットボール部、冬はバスケ部、春は野球部」のように、学年の中でシーズンごとに違う部に所属することが制度として普通にできるわけです。日本だと基本的に1つの部活に1年通して所属するのが当たり前なので、この違いは地味に大きいなと感じました。この仕組みがあるからこそ、後で紹介する選手たちの「複数競技での実績」がそもそも成立している、というのがまず前提として押さえておきたいポイントです。
アレン・アイバーソン、フットボールでも州チャンピオン
アイバーソンはバージニア州ハンプトンのベテル高校在学中、フットボールとバスケの両方で活躍していました。1992年、ジュニア(3年生)の年にQB・セーフティ・キックリターナーとしてベテル高校をバージニア州選手権優勝に導いていて、シーズン通算2,200ヤード超・35タッチダウンという数字を残しています。ある試合では守備で州記録の7インターセプションを記録したこともあるそうで、正直QBとしてもディフェンダーとしても化け物みたいな高校生だったんだなと呆れるレベルです。決勝戦だけ見ても、QBとして201ヤード・2TDパス、守備でインターセプション、さらにキックリターンでもTDというオールラウンドな活躍で、この試合がアイバーソンにとって公式戦最後のフットボールの試合になったそうです。
しかもここからがさらにすごくて、同じ学年の冬のバスケットボールでもベテル高校を州選手権優勝(対Woodbridge、延長72-65で17点差からの逆転)に導いていて、フットボールとバスケの両方でバージニア州の年間最優秀選手(AP選出)に選ばれているという事実です。1つのスポーツで州を代表する選手になるのも大変なのに、同じ学年で2つの競技で州王者かつ州MVP級の評価というのは、ちょっと規格外すぎます。大学のフットボールプログラムからも複数のスカラシップの話があったようですが、1993年に絡んでしまったボウリング場での乱闘事件の影響で、その後は両スポーツとも新たなオファーが来なくなったと本人が語っています。ジョージタウン大でジョン・トンプソンHCの下でバスケに専念することになったわけですが、本人はフットボールも続けたかったとの逸話もあるようで、もしあのまま両方続けていたらどうなっていたんだろうと、つい想像してしまいます。
ちなみに自分がうろ覚えだった「野球もやっていた」という話については、今回の調査ではっきりした裏付けが取れませんでした。1つの情報源(Encyclopedia.com)にだけそういう記述があるものの、高校時代を詳しく取材した複数の記事では触れられていないので、確定情報としては扱えないというのが正直なところです。自分の記憶がどこから来たものだったのか分からなくなりましたが、少なくともフットボールとバスケの二刀流だったことは間違いないので、そこは安心して紹介できます。
ダニー・エインジ、高校3競技+MLBプレー経験
セルティックスのGM・球団社長として名前を知っている人の方が多いかもしれませんが、ダニー・エインジも実は相当な二刀流(というか三刀流)選手でした。オレゴン州ノース・ユージーン高校時代、野球・バスケ・フットボールの3競技でオールステート級の評価を受けていて、Baseball Americaの記事によれば「オレゴン州の高校選手でこの3競技オールステートを2度受賞したのは史上エインジだけ」だそうです。ちなみにWikipediaには別の角度から「フットボール・バスケ・野球の3競技で全米レベルのオールアメリカン(高校ファーストチーム)に選ばれた史上唯一の人物」という記述もあって、これはオレゴン州内の表彰(オールステート)ではなく全米規模の表彰(オールアメリカン)についての話なので、混同しないよう気をつけたいところです。どちらの「史上唯一」を指しているかで意味が変わってくるので、この記事でも別々の実績として扱っておきます。
そしてもっと驚いたのが、エインジは大学(BYU)でバスケを続けながら、実際にMLBのトロント・ブルージェイズでプロとして野球をプレーしていたという事実です。1977年のMLBドラフトで15巡目指名を受けて契約し、BYUでバスケを続けることを条件にした特別条項付きの契約だったそうで、3シーズンにわたって計211試合、セカンドとしてメジャーでプレーしています。フットボールでも強く勧誘されていて、本人は近年のインタビューで「BYU入学時、ワイドレシーバーとしてもプレーしたくてたまらなかった」と語っているくらいなので、本当にどの競技を選んでもよかったタイプの選手だったんだなと思います。最終的にバスケでBYU時代にウッデン賞級の評価を受けてNBAへ進んだわけですが、大学生と同時進行でメジャーリーガーだった時期があるというのは、今のスポーツ環境だとまず考えられない話ですよね。
チャーリー・ウォード、ハイズマン賞取ってNBAを選んだ男
これは今回調べていて一番びっくりした選手です。チャーリー・ウォードはフロリダ州立大学のQBとして1993年にハイズマン賞(大学フットボール年間最優秀選手賞)を受賞しています。パス成功率約70%、3,000ヤード超・27TD・4INTというシーズンで、1994年のオレンジボウルでチームを優勝に導いた立役者でもあります。同時にフロリダ州立大でバスケもプレーしていて、ACC最優秀選手賞を2回受賞するくらいの実力者だったというのだから、これも二刀流というレベルを超えている気がします。
ところがNFLドラフトでは指名を受けず、同じ1994年のNBAドラフトでニックスから1巡目26位で指名されて、そのままNBA選手としての道を選んでいます。NBAでは11シーズンプレーして、1999年のNBAファイナル進出メンバーにも入っていました。ハイズマン賞受賞者としては史上唯一NBAでプレーした選手だそうで、これはさすがに「ハイズマン賞を取ってNFLじゃなくNBAに行った男」として語り継がれても当然だなと納得しました。QBとしてはNFLで評価が伸びなかったという事情もあったようですが、大学フットボールで年間最優秀選手級の実績を残しながらNBAを選んだというのは、アイバーソンとはちょうど逆方向の極端な例だと思います。
NBA→MLBの順で二刀流、マーク・ヘンドリクソン
ここまでは高校や大学時代の話が中心でしたが、実際にプロとして両方のリーグでプレーした選手もいます。マーク・ヘンドリクソンは1996年から2000年までNBAでパワーフォワードとしてプレーしていて(76ers、キングス、ネッツ、キャバリアーズ)、114試合出場で平均3.3得点・2.8リバウンドという記録が残っています。その後MLBに転向して、2002年から2011年まで投手としてブルージェイズ・デビルレイズ・ドジャース・マーリンズ・オリオールズを渡り歩き、通算58勝74敗、防御率5.03、666奪三振という数字を残しています。
NBAとMLB両方でプレーした選手は史上13人しかいないそうで、ヘンドリクソンはその1人です。NBAで数年プレーしてから野球に転向するというキャリアの流れ自体がかなり珍しいと思いますし、しかもブルージェイズ史上初めて本塁打を打った投手という記録まで持っているそうです。バスケで一定レベルのプロになった人が、そこから別の球技でも通算10年近くプロとしてやっていけるというのは、単純な運動能力の高さだけでは説明がつかない気がします。
ジーン・コンリー、MLBとNBA両方で優勝した史上唯一の男
古い選手ですが、これも調べていて印象に残った1人です。ジーン・コンリーはMLBとNBAの両方でチャンピオンシップを獲得した史上唯一の選手とされています。1957年にミルウォーキー・ブレーブスの投手としてワールドシリーズ優勝を経験していて、チームメイトにはハンク・アーロンやウォーレン・スパーンといった名前が並んでいます。その後1959年・1960年・1961年にはボストン・セルティックスの一員としてNBA優勝も経験していて、当時のHCはレッド・アワーバックです。6年間で12シーズン連続、野球とバスケの2つのプロスポーツを行き来してプレーした唯一の選手とも言われていて、1950〜60年代というオフシーズンの感覚が今とは違う時代だったからこそ成立した話なんだろうなと想像します。今の選手で同じことをやろうとしたら、契約面でもコンディショニング面でもまず不可能だと思うので、時代背景込みで面白い記録だと思います。
直近の例、ウォルター・クレイトン・ジュニア
古い名前ばかりだと「今はもうこういう選手はいないのでは」と思われそうなので、直近デビューの選手も紹介しておきます。ウォルター・クレイトン・ジュニアは2025年のNBAドラフトでウィザーズから全体18位指名を受け、その後ジャズへトレードされた現役選手です。フロリダ州の高校時代(1〜2年時)はバスケとフットボールの両方でプレーしていて、フットボールでは4スター評価を受けるくらいの選手だったとされています。ただ具体的にどのポジションだったか、どの大学からオファーがあったかについては情報源によって表記の幅があるので、ここでは「複数の強豪校からオファーを受けるレベルのフットボール選手だった」という程度にとどめておきます。3年時にバートウ高校へ転校してバスケに専念し、そこから州(6A)優勝を2度経験、大学はアイオナ大→フロリダ大と進んで2025年のNCAAトーナメントでフロリダ大の全国優勝に貢献しています。フットボールで強豪校からオファーを受けていたのに最終的にバスケを選ぶという流れは、規模は違えどアイバーソンのパターンに近いものを感じます。
まとめ
最初は「アイバーソンって野球もやってたんだっけ」くらいの軽い疑問から調べ始めたんですが、その野球の話自体は裏付けが取れなかった一方で、フットボールとバスケの両方で州チャンピオン・州MVP級という、思っていた以上にすごい実績が出てきました。それ以外にもダニー・エインジの3競技オールステート+MLBプレー経験、チャーリー・ウォードのハイズマン賞受賞からのNBA選択、マーク・ヘンドリクソンやジーン・コンリーのように実際に2つのプロリーグを渡り歩いた選手まで、想像以上に他競技での実績を持つNBA選手が多くて単純に面白かったです。アメリカのシーズン制がこういう複数競技経験の土台になっているというのも納得できましたし、直近だとウォルター・クレイトン・ジュニアのような例もあるので、この手の「隠れ二刀流」選手は今後もまだ見つかりそうな気がしています。また面白い選手を見つけたら続きを調べてみたいと思います。


