スパーズのビクター・ウェンバンヤマが、ベッティング企業の宣伝について「絶対にしない」と言い切りました。さらに、宣伝する選手を見るのは「とても悲しい」とも語っています。9月にはレブロンが予測市場のPolymarketとの提携を発表したばかりです。NBAとベッティングの距離が縮まるなかで、リーグの顔になりつつある22歳がはっきり線を引きました。まずは発言の中身から見ていきます。
ウェンバンヤマは何を言ったのか
発言が出たのは10月1日(現地)です。スパーズのトレーニングキャンプ3日目、練習後の取材でした。記者からベッティング企業の宣伝をするかと聞かれ、こう答えています。
"Absolutely not. I will never do that."
(絶対にない。そんなことは決してしない)
続けて、宣伝している選手についても触れました。
"Honestly, I think it’s very sad to see some players promote it."
(正直、宣伝している選手を見るのはとても悲しいと思う)
特定の選手の名前は出していません。そのうえで、お金についての考えも話しています。以前はお金という要素もあったが、今はもう違う、という趣旨です。そして、自分の価値観に合わない案件で、これまで稼いだ額よりはるかに多いお金を断ってきたと語りました。ただ、断った案件がどの企業で、どんな業種で、いくらだったのかは明かされていません。
ブランド選びについては、世の中に良い影響を与えるものを宣伝したいと説明しています。自分たちの一番の力は人の心を動かすこと(英語では inspire)で、それは良い方向にも悪い方向にも働く、だから良い方向でありたい、という趣旨です。報道によると、代理人のジェレミー・メジャナ氏は以前、本人はソーダの宣伝をしないとThe Athleticに語っていました。コーラなどのオファーも断ってきたと伝えられています。お金より中身で選ぶ姿勢は、今回に始まった話ではなさそうです。
なお、英語の文言は媒体によって少しずつ違います。「very sad」の部分は、末尾に「in my opinion(個人的には)」が付く報道と付かない報道があります。「お金を断った」部分も言い回しがかなり違うので、ここでは趣旨の紹介にとどめました。
約1か月前にはレブロンがPolymarketと提携
この発言の約1か月前、9月5日にはレブロン・ジェームズが動いていました。XとInstagramに動画を投稿し、Polymarketとの提携を発表しています。個人のNBA選手としてPolymarketと契約したのはレブロンが初めてだと、複数の媒体が伝えています。
金額は公式には発表されていません。Front Office Sportsが関係者の話として、年1,500万ドルと報じています。Polymarket側もレブロン側も、この数字は確認していません。同じ報道によれば、レブロンは出資者ではなく宣伝役で、宣伝の対象はバスケではなくアメリカンフットボールが中心です。
ちなみにレブロンは2026年7月、76ersと2年800万ドル(プレイヤーオプション付き)で契約しています。Front Office Sportsは、76ersからの年俸がPolymarketの年額の3分の1未満だと指摘していました。報道どおりなら、コートの外の方が稼いでいるわけです。
もちろん、ウェンバンヤマはレブロンの名前を出していません。だから「レブロンへの批判」と決めつけることはできません。ただ、時系列としてこの流れがあったことは押さえておきたいところです。
そもそも予測市場とは
ここで前提を少し補足します。Polymarketのような予測市場は、出来事の結果に対して売り買いをするサービスです。選挙やスポーツの結果などが対象になります。見た目はスポーツベッティングに近いのですが、規制の仕組みが違います。
報道によると、予測市場は連邦のCFTC(商品先物取引委員会)の管轄で運営されています。一方のスポーツベッティングは、州ごとに規制されています。この違いをめぐって、州の司法長官などが管轄を争っています。連邦最高裁まで持ち込まれる可能性もあると報じられています。
ウェンバンヤマへの質問は「ベッティング企業」についてのものでした。ただ、地元局KSATは「予測市場の宣伝を拒否」という見出しで報じています。地元メディアは、予測市場も含めた話として伝えているわけです。
NBAとベッティングの関係
NBA自体も、ベッティングとは無縁ではありません。2021年11月4日、DraftKingsとFanDuelがNBAの公式ベッティングパートナーになりました。リーグ公式のベッティング用データやロゴを使える契約として発表されています。
予測市場とは、まだ公式契約を発表していません。ただ、Front Office Sportsなどは、NBAがKalshiやPolymarketと交渉中だと報じています。合意が近いという報道も出ている段階です。なお、MLBはすでにPolymarketと独占契約を結んでおり、関係者の話では最大4年3億ドルとされます。
選手側のルールも確認しておきます。ESPNによると、労使協定(CBA)では選手がNBAの試合への賭けを宣伝することは禁じられています。一方で、制限付きでベッティング企業の宣伝(エンドースメント契約)や少額の出資は認められています。出資できるのは1%未満の持分とされます。レブロンの宣伝がフットボール中心なのも、このルールが理由だと伝えられています。
実際、ヤニス・アデトクンボは2026年2月、予測市場Kalshiの株主になったと自ら発表しました。Kalshiによると、NBA関連の市場での取引は禁止されています。つまり、ルールの範囲内なら選手が関わることはできるわけです。
背景にある賭博不祥事
ただ、NBAには苦い過去もあります。2024年4月17日、ラプターズのジョンテイ・ポーターが永久追放されました。リーグの調査で、NBAの試合に賭けていたことや、機密情報をベッターに伝えていたことが認定されています。自分の出場時間を、賭けのために制限したことも含まれていました。アダム・シルバー体制での永久追放は、2014年のドナルド・スターリング以来2人目です。
2025年10月23日には、さらに大きな事件が起きました。連邦捜査で、当時ヒートのテリー・ロジアーが逮捕されています。NBAの試合の内部情報を使った賭博に関わったとされる事件です。同じ日に、当時ブレイザーズHCのチャウンシー・ビラップスも逮捕されました。ただしビラップスの起訴は、マフィアが関わったとされる違法ポーカーの事件で、ロジアーとは別の事件です。
NBAは同日、2人を即時休職処分にしました。2人とも無罪を主張していて、有罪は確定していません。
こうした流れを並べると、ウェンバンヤマの「悲しい」という言葉はかなり重く聞こえます。リーグは2021年にベッティング企業と公式に手を組み、スター選手も宣伝や出資をしています。その一方で、賭博がらみの事件は実際に起きています。ここまで距離が近づいた今だからこそ、誰かが一度立ち止まる必要があったのかもしれません。個人的には、「自分はやらない」と言う選手がいること自体に意味があると感じました。
22歳でリーグの顔に
この発言が注目される理由には、言った本人の立場もあります。ウェンバンヤマは2025-26シーズン、満票で最優秀守備選手賞(DPOY)に選ばれました。満票での受賞は史上初です。オールNBA 1stチーム、オールディフェンシブ1stチームにも入り、MVP投票では3位でした。
成績は平均25.0点・11.5リバウンド・3.1アシスト・3.08ブロックです。ブロックはリーグ1位でした。チームとしても、スパーズはNBAファイナルまで勝ち上がっています。
契約面では、7月にスパーズと延長契約に合意しました。スパーズは条件を公表していません。ESPNのシャムズ・シャラニア記者は、5年2億5,200万ドル(5年目はプレイヤーオプション)と報じています。報道によると、より高額なスーパーマックスではなく、約5,000万ドル少ない額で合意したそうです。
リーグの顔と言っていい実績と契約を手にした選手が、「やらない」と言い切ったわけです。正直、22歳でここまで自分の基準をはっきり持っているのはすごいなと思います。
まとめ
ウェンバンヤマは10月1日(現地)、キャンプ3日目の練習後に、ベッティング企業の宣伝を「絶対にしない」と否定しました。宣伝する選手を見るのは「とても悲しい」とも語りましたが、特定の選手の名前は出していません。約1か月前には、レブロンがPolymarketとの提携を発表していました。金額は報道ベースで年1,500万ドルとされています。
NBAは2021年にDraftKings・FanDuelと公式パートナーになり、予測市場とも交渉中と報じられています。選手も、ルールの範囲内なら宣伝や少額の出資ができます。その一方で、ポーターの永久追放やロジアーの逮捕といった事件も起きてきました。
ルールの範囲内で宣伝や出資をする選手を、一方的に責めることはできません。それでも、リーグとベッティングの距離がここまで縮まった今、スーパースターが自分の基準を口にしたことは覚えておきたいです。この発言がほかの選手やリーグの議論にどうつながるのか、今後も注目していきます。


