名前を呼ばれた瞬間、何が起きるのか
前回は、ドラフト前のコンバインとワークアウトを見ました。測られ、走らされ、面談を受けて、ようやくドラフト当日を迎えます。
では、壇上で名前を呼ばれた瞬間、選手とチームの間には何が成立しているのでしょうか。
「指名された=そのチームの選手になった」と思われがちですが、正確には少し違います。今回はここを整理します。
指名で手に入るのは「独占交渉権」
NBAドラフトで指名が意味するのは、そのチームがその選手と契約交渉できる独占的な権利を得た、ということです。契約そのものはまだ結ばれていません。
つまりドラフトの夜に成立しているのは、「この選手と話をする権利は、うちだけが持っている」という状態です。だからこそ、指名直後にトレードが成立するということが起こります。指名した選手ではなく、その選手との交渉権を他チームへ渡しているわけです。
ドラフト中継で「◯◯が指名されました。ただし情報筋によれば、この指名権はすでにトレードされています」という形のアナウンスを見たことがある方もいると思います。あれは、壇上の帽子と実際の所属先が一致しないケースです。
1巡目と2巡目で、まったく扱いが違う
ここが、ドラフトを理解するうえで最も大きな分かれ目です。
1巡目指名選手には、ルーキースケールという仕組みが適用されます。指名順位ごとに契約の基準額があらかじめ決まっていて、1位と30位では最初から金額が違います。新人が自由に年俸交渉をするというより、順位で枠が決まる制度です。
契約は基本的に2年保証+チームオプション2年、合計で最大4年という形が一般的です。チーム側からすると、将来の中心選手候補を、数年間はっきりしたコストで抱えられるということになります。
2巡目指名選手には、この保証がありません。契約内容はチームとの交渉次第で、保証なしの契約になることもあれば、ツーウェイ契約になることもあります。極端に言えば、2巡目指名はロスター入りすら約束されていません。
同じ「ドラフト指名」でも、1巡目30番と2巡目31番の間には、制度上かなり大きな段差があるわけです。
壇上の演出にも意味がある
細かい話ですが、1巡目の指名はコミッショナーが読み上げ、2巡目はデピュティコミッショナー(副コミッショナー)が読み上げるのが通例です。帽子をかぶって握手する、あの場面は1巡目の選手のものです。
また、会場に招待されて壇上近くの席(グリーンルーム)に座る選手は、上位指名が有力視されている選手に限られます。そこで名前が呼ばれないまま時間が過ぎていく様子が中継に映ってしまうことがあり、ドラフトの残酷な一面として毎年話題になります。
指名されたあとのスケジュール
指名後、選手はすぐに試合に出るわけではありません。
- 契約合意・サイン:1巡目はルーキースケールに沿って進みます
- サマーリーグ:夏に行われる若手中心のリーグ。ここが実質的なデビュー戦になります
- トレーニングキャンプ:秋。ここで初めてチームの戦術に本格的に組み込まれます
- 開幕
ドラフトからシーズン開幕まで、およそ4か月。この間に評価が上がる選手もいれば、サマーリーグでつまずいてしまう選手もいます。
重要キーワード
- 独占交渉権:指名によって得られる、その選手と交渉できる権利。契約そのものではない
- ルーキースケール:1巡目指名選手に適用される、順位ごとの契約基準額
- グリーンルーム:上位指名が有力な選手が座る、会場の招待席
- サマーリーグ:ドラフト後の夏に行われる若手中心のリーグ
まとめ:ドラフトはゴールではなくスタート地点
指名された瞬間に確定するのは、交渉の相手が決まったということだけです。1巡目なら数年分の居場所がある程度約束されますが、2巡目ならそこからが勝負になります。
ドラフト中継で泣いている選手を見ると、どうしても「夢がかなった瞬間」に見えます。もちろんそうなのですが、制度の側から見ると、あれはまだ入口に立っただけなんですね。
次回は、その2巡目指名とドラフト外(アンドラフト)の選手がどうやってNBAにたどり着くのかを解説します。ツーウェイ契約とGリーグの話です。お楽しみに!


