NBAを見ていて、ふと素朴な疑問が浮かんだことがあります。選手ってプロテインとかマルチビタミンとか、普通に市販されているサプリメントを自由に飲んでいいものなんでしょうか。うっかり何か飲んで検査に引っかかって出場停止、みたいなことは起きないのか。考えてみればNBA選手も一人の人間なので、コンディション維持のために色々摂取しているはずですが、そのあたりのルールって意外と知らなかったので、今回は調べられる範囲で整理してみることにしました。
そもそも「Anti-Drug Program」ってどんな制度なのか
NBAとNBPA(選手会)は労使協定(CBA)のArticle XXXIIIで「Anti-Drug Program」を定めています。この中で禁止物質は大きく4つのカテゴリーに分類されていて、Drugs of Abuse(コカインやオピオイド系などの娯楽的薬物)、Synthetic Cannabinoids(合成カンナビノイド)、Steroids and Performance Enhancing Drugs(いわゆるSPEDs、ステロイド系・PED)、Diuretics(利尿剤・マスキング剤)という構成になっています。正直、思っていたよりきっちり区分けされているんだなという印象でした。禁止対象がはっきりカテゴリー分けされているということは、逆に言えばそこに入らないものは基本的にセーフという理屈にもなるので、この区分けは後で効いてきます。
マリファナは2023年からリストの外に
面白いというか時代を感じたのが、2023年7月1日発効のCBAでカンナビス(マリファナ)が禁止物質リストから完全に除外されたという点です。今はアルコールと同じような扱いになっているそうで、無作為検査の対象からも外れています。数年前まで散々ニュースになっていたテーマなので、この変化にはちょっと隔世の感がありますね。時代とともにリーグのスタンスも変わっていくものだなと思います。
検査ってどのくらいの頻度であるの?
選手はシーズン中に最大4回、オフシーズンに最大2回の無作為(無通告)尿検査を受けます。これは利尿剤とSPEDsが対象です。加えてHGH(成長ホルモン)については血液検査で、シーズン中最大2回、オフシーズン最大1回。合計すると尿検査6回+血液検査3回で、年間最大9回の無作為検査を受ける計算になります。さらに「合理的な疑い(reasonable cause)」がある場合は追加検査も可能とのことで、思っていたよりかなり頻繁だなという印象を持ちました。年に9回もチェックされていたら、うっかりミスすら怖くなってくるはずです。
違反したらどうなる? SPEDsの罰則は段階的
SPED(ステロイド・PED)違反のペナルティは段階制になっていて、1回目が25試合出場停止、2回目が55試合出場停止、3回目はリーグからの追放(dismissal and disqualification)とされています。この試合数の表そのものはCBA原文で直接確認しきれていないのですが、法律事務所やESPNなど複数の独立した報道で数字が一致しているので、ある程度信頼できる情報として書いておきます。Drugs of Abuse(コカインなど)についても1回目の違反で25試合出場停止に加えてSPEDプログラムへの参加が義務付けられるという説明も見られました。1回目からいきなり25試合というのはかなり重い処分で、NBAのシーズンが82試合しかないことを考えると、ほぼシーズンの3分の1が飛ぶわけです。
実際に「サプリメントが原因」とされた出場停止のケース
ここが個人的に一番気になった部分です。過去には、選手本人が「市販のサプリメントが原因だった」と説明した出場停止事例が複数あります。
2019年11月、アトランタ・ホークスのジョン・コリンズがGHRP-2(成長ホルモン放出ペプチド)の検査陽性でAnti-Drug Program違反となり、25試合の出場停止(無給)を受けました。本人は「自分が摂取したサプリメントが、知らないうちに違法な成分で汚染されていた」とコメントし、上訴の意向も示しています。若手の有望株がこういう形で1シーズンの3分の1近くを飛ばされるのは、見ていて普通に気の毒でした。
さらに遡ると、2009年8月にはオーランド・マジックのラシャード・ルイスがテストステロン値上昇で検査陽性となり、10試合の出場停止を受けています。前シーズン終盤に摂取した市販サプリメントにDHEA(ステロイド前駆体)が含まれていたが、NBAで禁止されている物質とは認識していなかったと本人は説明しました。加えてこのケースでは、当時1800万ドルだった年俸のうち約160万ドルが減額されたという実害も出ています。出場停止だけでなく給料までガッツリ削られるのはなかなかのダメージですね。
2011年1月にはメンフィス・グリズリーズのO.J.メイオがDHEA検査陽性で10試合の出場停止を受けています。ただこのケースは少し変わっていて、本人の説明に表現の揺れが見られます。市販サプリメントが原因だったとする報道がある一方で、本人が「地元のガソリンスタンドで買ったエナジードリンクにやられた」といった趣旨の発言をしたと伝える記事もあり、「GNCでマッスルアーマーを買ったわけじゃない」というコメントも残っています。どちらが正確な原因なのか、調べた範囲では一つに絞り込めませんでした。サプリメントなのかエナジードリンクなのか、本人自身の説明がブレているというのが正直なところで、無理に断定しない方がフェアだと思います。
トリスタン・トンプソンのケースは少し性質が違うかもしれない
一方で、2024年1月にクリーブランド・キャバリアーズのトリスタン・トンプソンがイバタモレンとSARM(LGD-4033)の検査陽性で25試合の出場停止を受けたケースについては、本人やチームから「サプリメントの汚染が原因」といった説明が出たという記述は今回見つけられませんでした。イバタモレンもSARMもボディビル系サプリメントに混入することが知られている物質ではあるものの、そのつながりを本人が語ったという事実は確認できていないので、上の3件とは性質が違う可能性がある、くらいの書き方に留めておきます。ここを一緒くたに「サプリメントのせい」で括ってしまうのはさすがにフェアじゃないですよね。
じゃあ普通のプロテインやマルチビタミンは大丈夫なのか
ここまで見てきた禁止物質のカテゴリーは、あくまでステロイド・PED・利尿剤・娯楽的薬物という枠組みで、プロテインパウダーやマルチビタミン、クレアチンといった一般的な市販サプリメント自体を名指しで禁止する規定は見当たりませんでした。なのでルール上は、普通にドラッグストアやGNCで買えるようなサプリメントを飲むこと自体が即アウトというわけではなさそうです。ただ、コリンズやルイスのケースを見る限り、製造過程で意図せず禁止成分が混入していたり、DHEAのようなステロイド前駆体が普通に含まれている製品を知らずに摂取してしまったりするケースは実際に起きています。ルール上はセーフでも、運が悪ければアウトになりうるというのは、ちょっと怖い話だなと個人的には思いました。何を摂っているのか選手本人が完全に把握しきれない世界というのは、想像以上にシビアです。
NSF Certified for Sportとの関係
サプリメントの成分汚染リスクを減らす仕組みとして、NSF Certified for Sportという第三者認証プログラムがあります。製品中に禁止物質が含まれていないかを独立機関がテストし、ラベル表示と実際の成分が一致しているかまで確認するというもので、MLBやNHLでは球団が選手に提供・推奨できるサプリメントをこの認証品に限定しているそうです。NSF公式サイトのトップページには、この認証を推奨するプロスポーツ団体の一つとしてNBAの名前も挙がっています。ただこれはあくまでNSF側の記載であって、NBA.comやNBPA自身が発行した一次文書で「NBAが公式に推奨している」と確認できたわけではありません。なので「NBAが公式推奨している認証制度」と言い切るのはちょっと危ういかなと思い、ここでは「第三者認証機関の側がNBAを推奨対象リーグの一つとして挙げている」くらいの書き方に留めておきます。
まとめ
調べてみて分かったのは、NBAの禁止物質リストはステロイド・PED・利尿剤・娯楽的薬物というかなり明確なカテゴリーで区切られていて、普通のプロテインやマルチビタミンそのものが狙い撃ちされているわけではないということでした。ただコリンズやルイスのように、市販サプリメントに意図せず禁止成分が混ざっていて、結果的に25試合や10試合の出場停止を食らってしまうケースが実際にある以上、選手側も相当神経質にならざるを得ないんだろうなと思います。年間最大9回もの無作為検査を受けながら、それでも成分汚染で足元をすくわれるリスクがゼロにはならないというのは、正直見ていて怖いなと感じました。この記事を書くにあたって確認しきれなかった部分(球団専属の栄養士を通じた事前承認制度が公式に明文化されているかどうかなど)も残っているので、その辺りはまた分かり次第、続報として整理したいと思います。


