9月17日の記事で、NBAがユーロリーグの過半数株式取得を検討しているという話を整理して、「10月5日の会議で何かしらの方向性が見えてくるはずなので、まずはそこを待ちたい」と書きました。その答えが出ました。ユーロリーグの株主クラブは、NBAから届いた正式な提案を拒否しています。ただ、いざ報道を読み比べてみると、「拒否した」という一点以外は媒体ごとに書いていることが結構バラバラで、前回と同じくらい整理が必要な状態でした。なので今回も、確定していることと報道ベースのことを分けながら追いかけてみます。
まず前回記事の訂正から入ります。当時は「10月5日に会議」と書きましたが、実際には10月5日はオーナーたちが現地に到着した日で、会合が開かれて判断が下されたのは翌10月6日(火)でした(Reuters、Eurohoops)。前回はESPNの報道に沿って10月5日と書いていたのですが、結果的に1日ずれていたことになります。
10月6日、コモ湖畔で何があったのか
会場は前回も触れたコモ湖畔のヴィラ・デステ(チェルノッビオ)です。ESPNは今回「Lake Como」と書いていて、APなどは「Cernobbio」と表記していますが、チェルノッビオはコモ湖畔の町なので食い違いではありません。前回「ESPNはミラノ、他はコモ」で少し混乱した身としては、今回はすんなり揃っていてちょっとホッとしました。笑
そしてこの会合で、株主クラブはNBAが出していた合併・協業の提案を拒否しました。ESPN、AP、Reuters、Front Office Sports(FOS)、Eurohoopsなど複数の媒体が独自に報じていて、ここは事実として固いところです。APにはバルセロナがメールで拒否を確認していて、Joan Laporta会長が会合に出席していたことも明らかにしています。APが引用したその回答には「(会合での)決定の中に、現状の形でのNBAの提案を拒否することが含まれていた。将来その提案が修正されれば、クラブとユーロリーグは再検討する」という文言がありました。注意しておきたいのは、これはAP経由で伝わったバルセロナの回答の中の文言で、ユーロリーグ公式サイトに出た声明の原文は確認できていないという点です。
提案のタイミングについては、La Gazzetta dello Sportの報道を引いたAnadolu AgencyやJerusalem Postが「会合の約2週間前に提出され、期限は10月6日だった」と伝えています。前回記事を書いた9月中旬の時点では「最終的なオファーはまだ出ていない」とされていたので、その後の2〜3週間で一気に話が進んで、そして一気に断られたという流れです。
本当に「全会一致」だったのか
ここが最初に引っかかったところです。SNSやまとめ記事では「全会一致で拒否」という言葉がよく出回っていますが、元をたどると媒体ごとに表現が違います。NBC Sportsが「報道によれば(according to reports)」という伝聞の形で全会一致と書き、Jerusalem Postも全会一致としています。一方でEurohoopsは「NBAの提案に賛成した株主はいなかった」という書き方で、FOSは「圧倒的多数(supermajority)」が拒否したとしたうえで、反対票を投じたクラブとしてバルセロナ、フェネルバフチェ、オリンピアコスを名指ししています。
さらにAPは「各クラブがどう投票したのかは明らかではない」と書いていて、ユーロリーグ側はコメントを控え、最初の声明を参照するよう求めたそうです。ESPNも票数には触れていません。つまり、大手通信社とESPNは票の中身を確認できていないわけです。「賛成ゼロ」と「全会一致」は両立しうる話ですが、棄権があったのかどうかなどは分かりません。拒否が大勢だったことは間違いなさそうですが、「全会一致」と言い切れるだけの材料は今のところ揃っていない、というのが正直なところです。
NBAの提案、何がそんなに気に入らなかったのか
提案の中身について一番具体的なのはEurohoopsで、NBAの提案は「現在の株主数(13クラブ)に適用されるもので、拡大後のフランチャイズ数には適用されない」ものだったと書いています。加えてFOSは、提案に「2027-28までに24チームへ拡大する計画を一時停止する」という条件が含まれていて、オーナーたちがこれを嫌ったと報じています。NBC Sportsも拡大の保留は「NBAが求めていたもう一つの事項」としていますし、SportsProもReutersを出典に、NBAの協業はユーロリーグがフランチャイズ化と24チーム拡大の計画から離れることが条件だったと書いています。
金額面については、FOSが匿名の情報筋の話として、NBAの提案はユーロリーグが求める30億ドルを大きく下回る評価額で、「近くすらなかった(wasn’t even close)」「経済的に全く筋が通っていなかった」と伝えています。ただ、NBAが具体的にいくら提示したのかはどこも報じていません。支払いの形については、会合前のIl Sole 24 Oreが「即時の現金部分」と「目標達成に連動する部分」に分かれていたと書いています。BasketNews(Sportando経由)のほうは、クラブ側が「NBAの過半数支配と引き換えの対価」にも長期的な財務見通しにも納得しなかったとしています。前回「過半数株式取得」という言葉はSBJの報道ベースだと書きましたが、今回もやはり報道の中ではこの枠組みで話が進んでいたように見えます。
ちなみにBasketNewsによれば、NBAの条件は交渉初期よりは改善されていたものの、特に財務面で大きな隔たりが残っていたそうです。ESPNが伝えた競技面の中身は、各クラブが週末は国内リーグ、平日はNBA Europe(NBAヨーロッパ)でプレーし、それに合わせてロスターを拡大する、欧州の選手育成にも投資する、といったものでした。
オーナーたちの受け止め方もなかなか強烈です。FOSの匿名情報筋は「ユーロリーグのオーナーたちには受けが悪かった。完全に力ずくのやり方(power play)だと感じていた」と話していて、FOS、Jerusalem Post(Gazzetta経由)、Araはいずれも、一部のクラブが「植民地主義的(colonialist)」「受け入れられない(unacceptable)」と評したと伝えています。バルセロナに至っては「冗談」と受け止めたとAraやHoops Wireが報じました(クラブ側が公式にそう言ったわけではなく、あくまで受け止めとして報じられたものです)。一方でThe Athletic経由で伝わった匿名の欧州クラブ幹部の話では、「NBA Europeに反対しているクラブは少数で、大半のクラブは単にこの提案が気に入らなかった」とのことです。
ここまで並べてみると、自分がオーナーの立場でもこれは首を縦に振りにくいだろうなと思いました。13クラブだけが対象で、ちょうどフランチャイズ化と拡大で新しい価値を生もうとしているタイミングに「拡大は止めてね」と言われ、しかも評価額が希望に遠く及ばない。ReutersやSportsProによれば、拡大の最大8枠には14件の入札があって(Eurohoopsは候補を13としていて数は少しずれます)、SportsProは入札総額が8億ユーロを超えると伝えています。それだけの入札が目の前にある状態で拡大を止めろと言われたら、反発するのは自然な気がします。
13クラブのフランチャイズ化は決定、拡大は「どう決まったか」が割れている
会合で決まったこととして多くの媒体が一致しているのは、13の株主クラブを恒久的なフランチャイズにすることへの合意です。これまでの10年ライセンスから、フランチャイズへ移る形になります。
ややこしいのは20チームから24チームへの拡大の扱いで、ここは伝え方が大きく3つに割れています。EurohoopsとHoops Rumorsは、2027-28からの24チーム拡大の方針自体は確認・継続していて、新しく加わるフランチャイズの決定だけが保留になったという書き方です。Reutersは、ユーロリーグは拡大を正式に承認するところまでは踏み込まず、1カ月以内に決定するとしたと報じていて、Anadolu Agencyも正式な決定はなかったとしています。そしてNBC Sportsは「拡大計画を保留(on hold)にした」、Hoops WireはGazzetta経由で「協議が続く間は拡大を一時停止することに合意した」、SportsProは「来季の24チーム拡大を見送った」と書いています。
正直、「方針は維持」と「保留・一時停止」では読者が受ける印象がかなり違います。ただ、どの書き方でも共通しているのは「新しく加わる最大8枠がどこになるのかは、10月6日時点で決まっていない」という点です。どれが正確なのかを確定できる一次ソース(ユーロリーグ公式の発表原文)は見つかっていないので、この記事ではどれか1つに寄せることはしません。決定時期についても、Reutersは「1カ月以内」、FOSはユーロリーグがNBAの名前を出さない形の声明で「今後数週間のうちに」フランチャイズ化と拡大承認の進展を見込んでいると伝えていて、Eurohoopsは「近く新たな会合が設定される見込み」としています。個人的には、NBAが「拡大を止めてほしい」と言っている以上、ユーロリーグ側も交渉の行方を横目に見ながら拡大の決め方を調整している、と読むのが一番しっくりきますが、これはあくまで自分の推測です。
クラブごとに温度差がある
「拒否」と一言で言っても、クラブごとの立場はかなり違うようです。Araなどによれば、オリンピアコスはNBAとの協議そのものを打ち切る採決を求めましたが、これは通らなかったそうです。逆に対話を続けるべきだと主張したクラブとして、AraとHoops Wireはレアル・マドリード、パナシナイコス、フェネルバフチェの名前を挙げていて、レアル・マドリードは改善したオファーを出してもらうために30日を求めたと伝えられています。Araはここにバイエルンも加えていますが、Hoops Wireはバイエルンには触れていません。
ここでフェネルバフチェの扱いがややこしくなります。先ほど書いたようにFOSはフェネルバフチェを反対票を投じたクラブとして挙げていて、AraやHoops Wireは対話継続派に入れています。「今回の案には反対したけど、交渉自体は続けたい」という立場なら両方とも成り立ちそうですが、どの記事もそこまでは説明していないので、どちらが正しいとは言えません。
パナシナイコスのオーナー、Dimitris Giannakopoulosは10月7日にSNSで「大きな敬意を持ちつつ、そしてようやく私たちが成し遂げたことに誇りを持ちながら、私たちは共に解決策を見つけなければならない」という趣旨の投稿をしたとGeo Superが伝えています。さらにESPNは匿名の欧州バスケットボール関係者の話として「13の恒久クラブのうち、かなりの数がNBA Europeへの参加に関心を示している」と報じていて、The Athletic経由では「少なくとも6チームがNBA Europe合流を検討している」という話も出ています。ユーロリーグは一枚岩で「NO」を突きつけたというより、条件次第では話に乗りたいクラブもかなりいる、という見え方です。
2027年秋の開幕はどうなるのか
前回の記事でも書いたとおり、Adam Silverは9月の会見で「ユーロリーグと手を組めばNBA Europeはより強くなる。必須ではないが、ヨーロッパで一つにまとまったほうが皆にとって良いと思う」という趣旨のことを話していて、APは、Silverがユーロリーグとの合意の有無にかかわらず何らかの形のNBA Europeを2027年に始めると述べたと伝えています。NBAの公式な目標は今も2027年秋(2027-28シーズン)のままです。ESPNも、今回の拒否にかかわらず計画は進んでいて、早ければ2027-28に16チームで開幕しうると書いています。
一方で、The Athleticが伝えた話はかなり違うトーンです。NBA Europeへの参加が見込まれるチームの匿名の情報筋が、ユーロリーグとの合併なしでは2027年10月の開幕は「不可能(impossible)」だと語ったそうです。これはSilverの発言ではありません。NBC Sportsの記事に「Silver’s new league(Silverの新リーグ)」という言い回しが出てくるので混同されやすいのですが、発言者はあくまで匿名のチーム関係者です。Silverは「ユーロリーグ抜きでもやる」、参加見込みチームの関係者は「合併なしでは無理」と、同じNBA Europe側の中でここまで見立てが違うのは、ちょっと意外でした。
「2028年」という数字も出てきていますが、これは別々の2つの話なので分けておきます。1つはReutersが伝えた匿名の「スポーツ界の幹部」の見方で、2027-28に間に合わせて新しい大会を組織するのは難しいので、ユーロリーグとNBAの協業が2028年より前に始まる可能性は低い、というものです。もう1つはBasketNewsの記事本文の見立てで、合意に至らずNBAが単独で進む場合、NBA Europeの開幕は2027年から2028年にずれる可能性がある、というものです。前者は「協業がいつ始まるか」、後者は「単独で進めた場合の遅れ」の話で、どちらもNBAやSilverが延期を口にしたわけではありません。ちなみにESPNが伝えた匿名のNBAオーナーは「これは20年がかりのプロジェクトだ」と話していて、NBA側には短期で決着をつけようとしていない雰囲気もあります。
次に動くのはユーロリーグか、NBAか
ここも媒体によって書き方が逆になっています。BasketNews(Sportando経由)は、ユーロリーグの株主クラブが今後数週間のうちに対案を持って交渉の席に戻る見込みだと報じています。一方でReutersは、NBAが拡大枠の割り当てが決まる前に新しい提案を出すかどうかに注目が集まっていると書いていて、Araも改善された提案が出てくるのはNBA側からだと見ています。AP経由のバルセロナの回答も「提案が修正されれば再検討する」という言い方なので、ボールはNBA側にあるという書き方です。Jerusalem Postは、交渉の再開を求めたクラブはあったものの正式な対案は出ていないとしています。10月8日時点で、実際に対案や修正案が出たという報道は見当たりません。
肝心のNBA側はというと、AP、FOS、Reutersのいずれも「NBAはコメントの求めにすぐには応じなかった」と書いていて、10月8日時点でNBAの公式声明やSilverの新しいコメントは確認できていません。NBA EuropeのマネージングディレクターであるGeorge Aivazoglouが10月8日にロンドンのLeaders Weekで講演する予定だと報じられていましたが、この記事を書いている時点では、そこで何が語られたのかを伝える記事はまだ見つかっていません。拒否の直後というタイミングなので、何か話が出てくれば次の展開のヒントになりそうです。
まとめ
前回「10月5日の会議を待ちたい」と書いた答え合わせとしては、会合は実際には10月6日で、ユーロリーグの株主クラブはNBAの提案を現状の形では拒否し、13クラブのフランチャイズ化には合意した、というのが確定している部分です。一方で、票が全会一致だったのか、24チーム拡大が維持なのか保留なのか、次に動くのがユーロリーグなのかNBAなのかは、媒体ごとに書き方が割れていて、まだはっきりしません。個人的には、13クラブだけを対象にして拡大を止めさせ、しかも評価額が希望に届かないという中身を見ると、今回の拒否は当然の結果だったと思います。ただ「修正されれば再検討する」という一文が残っていて、レアル・マドリードやパナシナイコスのように対話を続けたいクラブもいる以上、これで交渉が終わったわけではありません。新しく加わる8枠の行方とNBA側の次の一手が出てきたら、また追いかけます。

