クリッパーズのメディアデーで、正直ちょっと耳を疑うニュースが出てきました。カワイ・レナードとのトレードでラプターズから加入したブランドン・イングラムが、2026-27シーズンの開幕に間に合わないそうです。理由は5月に受けたかかとの手術の際に見つかった、アキレス腱の部分断裂。トレードが正式に成立したのが9月14日なので、新天地に来てまだ2週間ほどで、いきなりこの発表です。クリッパーズファンからすると「え、そんな話聞いてないけど?」というのが素直な反応だと思います。
メディアデーで明らかになったこと
発表したのは、暫定バスケットボール運営部門社長のトレント・レデンです。9月28日のメディアデーで、イングラムは右かかとの負傷とアキレス腱の部分断裂に対処した手術からの回復中で、開幕には間に合わないと説明しました。レデンの言葉は「He won’t be ready for the start of the season, and we’ll reevaluate when we get there.」、つまり開幕には間に合わない、その時点で再評価する、というものです。具体的な復帰時期は示されていません。
アキレス腱の部分断裂は、5月のかかと手術の際に見つかり、同じ手術で処置されたと報じられています。回復期間についてレデンは、部分断裂の場合は完全断裂よりも「約6か月短い」リハビリになると説明したそうです。ここは少し注意が必要で、USA TODAYは「回復に約6か月」と読める書き方をしていて、順調なら10月下旬か11月に出場できる可能性があるとも書いています。ただ、これは同紙の見立てであって、クリッパーズが発表した復帰時期ではありません。球団としては「開幕時に再評価」以上のことは言っていないので、いつ戻ってくるかはまだ分からない、というのが今の正確なところです。
イングラム本人もメディアデーに出てきて、リハビリについては「week-by-week」、つまり週ごとに様子を見ながら進めている段階だと話しています。「回復は順調だし、少しずつ良くなっている。施設に来てもう1か月ちょっとになる」とも話していて、トレーニングキャンプには「あまり参加しないけど、少しは出る」とのこと。キャンプは9月30日から始まります。本人の口ぶりからは悲観的な感じはあまり受けませんが、「週ごと」という言い方をしている以上、はっきりした目処はまだ立っていないんだろうなと感じました。
5月の手術発表にアキレス腱の話はなかった
ここで引っかかるのが、5月の時点の発表です。イングラムはプレーオフ1回戦のキャバリアーズ戦、ゲーム5で右かかとを痛めて第2クォーター途中に退き、この試合は11分の出場で1得点。そのあとのゲーム6・7は欠場しました。ラプターズはゲーム6を延長で勝ってゲーム7まで持ち込みましたが、5月3日のゲーム7は102-114で敗れて1回戦敗退。イングラムはゲーム7のシュートアラウンドにウォーキングブーツで現れていたそうです。
その後、ラプターズは5月8日付で、イングラムがニューヨークのHospital for Special Surgeryでマーティン・オマリー医師の執刀により右かかとの骨棘除去手術を受けたと発表しています。このときの発表では「完全に回復し、9月のトレーニングキャンプには間に合う見込み」とされていて、アキレス腱の部分断裂には一切触れられていませんでした。ESPNも今回のアキレス腱の負傷を「previously undisclosed(これまで公表されていなかった)」と書いています。
なぜ5月の時点でアキレス腱のことが公表されなかったのか。ここは今回確認できた範囲では説明が見当たらず、理由は分かりません。「キャンプには間に合う」と発表されていた選手が、キャンプ初日を前に「開幕に間に合わない」になっているわけで、ファンとしてはその間に何があったのかが一番知りたいところです。
ちなみに本人はESPNの取材に、ラプターズでのシーズン中ずっと痛みを抱えていて、特に試合終盤のクラッチタイムがきつかったこと、そして「Near the end of the season, we figured out what it was(シーズンの終わり近くに、それが何なのか分かった)」とも話しています。この「それ」がかかとの骨棘のことなのか、アキレス腱のことなのかは、発言の文面からは読み取れません。ただ、昨シーズンの77試合で平均21.5得点、5.6リバウンド、3.7アシストを残してオールスターに選ばれた裏で、ずっと痛みと付き合っていたというのは少し驚きました。
クリッパーズは事前に知っていたのか
そうなると次に出てくる疑問が、クリッパーズがこのアキレス腱の件をトレードの時点でどこまで把握していたのか、という点です。ここは報じられ方が分かれています。
Yahoo Sportsは、レデンが「アキレス腱の部分断裂は、トレード前の5月のかかと手術の際に見つかった」と記者に話した、と伝えています。ただ、これは引用符付きの発言ではなく記者がまとめた形で、あくまで「見つかったのがトレード前だった」という時期の話です。「クリッパーズがトレード前に知っていた」とまでは書かれていません。
一方でESPNには、レデンの「It wasn’t until we got our hands on [Ingram] here that we started to see where he was at with his progression(こちらで本人を預かって初めて、回復がどこまで進んでいるのかが見えてきた)」という直接の発言が載っています。これは読み方によっては「来てみたら思ったより回復が進んでいなかった」とも取れますが、文言としては回復の進み具合についての話で、負傷そのものを知らなかったとは言っていません。
つまり、「発見はトレード前」という報道と、「回復の状態はこちらに来てから分かった」という発言が並んでいる状態で、クリッパーズが事前にどこまで把握していたのかははっきりしません。知っていて承知の上で獲得したのか、負傷の存在は知っていたけど回復の見通しが想定と違ったのか、それとも別の事情があるのか。どれも確かめようがないので、ここは今後の続報を待つしかないと思います。ラプターズ側のコメントも今のところ見当たりません。
ただ、トレードは6月30日に合意したあと、NBAの調査の関係で7月9日にラプターズが保留を発表し、成立は9月14日までずれ込んでいます。合意から成立まで2か月半もあったわけで、その間にメディカル面の確認がどう行われていたのかは、どうしても気になってしまいます。
見返りの中心選手がいないまま始まる意味
今回のトレードでクリッパーズが受け取ったのは、イングラム、グレイディ・ディック、ラプターズの2031年・2033年の1巡目指名権、2027年の1巡目指名権のスワップ権、2030年・2033年の2巡目指名権です。報道によれば、1巡目の2つはプロテクトなしとされています。この中で「今すぐ戦力になる選手」という意味での中心は、どう考えてもイングラムでした。
そのイングラムが開幕から不在というのは、トレードの評価そのものに関わってくる話だと思います。そもそもクリッパーズはカワイを出した時点で、ある程度の戦力ダウンは覚悟していたはずです。それでもイングラムという、昨シーズンにオールスターに選ばれた29歳のウイングが入ってくるなら、すぐに大きく崩れることはない。多くのファンもそう見ていたと思います。そこの前提が、少なくとも序盤戦では崩れてしまったことになります。
しかも同じメディアデーでは、ブラッドリー・ビールが股関節の手術から回復中で、さらにひざの炎症を抱えていること、ジョーダン・ミラーが回旋腱板断裂の手術を受けたことも伝えられています。ダリアス・ガーランドが完全に健康というのは明るい材料ですが、全体として見ると、開幕前から負傷者のニュースが続くのはかなり苦しいスタートです。開幕戦は10月21日、ホームでのキングス戦です。
今季4,000万ドル、来季は4,190万ドルのプレイヤーオプション
契約面で見ても、今回の件は小さくありません。イングラムは2025年2月にラプターズと3年1億2,000万ドルの延長契約で合意していて、2026-27シーズンの年俸は4,000万ドル、2027-28シーズンは4,190万ドルのプレイヤーオプションになっています。
4,000万ドルの選手が開幕から出られないというだけでも痛いですが、個人的により気になるのは来夏のプレイヤーオプションの方です。プレイヤーオプションは選手側が行使するかどうかを決めるものなので、もし復帰が遅れたり、復帰後のパフォーマンスが以前の水準に戻らなかったりした場合、選手としては4,190万ドルを確保する方を選びやすくなるはずです。逆に、しっかり戻ってきて活躍すれば、オプションを破棄してもっと良い条件を探すという選択肢も出てきます。つまり、クリッパーズからすると、うまくいかなかったときほど高い契約が残りやすいという構図で、ここは今回の負傷でリスクが一段上がった部分だと思います。
背景として、クリッパーズはNBAの調査の結果、9月2日に2029年から2033年までの1巡目指名権5つを没収され、球団として3,000万ドルの罰金も科されています。自前の1巡目がこれだけなくなったからこそ、トレードで受け取った選手と指名権の価値はクリッパーズにとってかなり重いはずです。その柱になるはずだったイングラムがいきなりつまずいた、というのが今回のニュースの一番の痛さなのかなと思います。
トレードの評価は見直すべきか
じゃあこのトレードは失敗だったのかというと、今の時点でそこまで言い切るのは早すぎると思います。部分断裂であること、すでに同じ手術で処置されていること、本人が施設で1か月以上リハビリを続けていて「順調」と言っていることを考えると、シーズン全体を棒に振るような話として出てきているわけではありません。レデンの説明どおり完全断裂よりかなり短いリハビリで済むのであれば、シーズンのどこかで戻ってきてくれる可能性はあると思っています。
ただ、トレードを評価するときの前提条件が変わったのは間違いないです。「オールスター級のウイングがすぐに使える」という前提から、「いつ戻るか分からない、戻ってからどこまでやれるかも分からない、でも契約は大きい」という前提に変わってしまった。2016年のドラフト全体2位でレイカーズに入ってから、ずっと才能を評価されてきた選手なので、個人的にはもう一度万全の状態でプレーしてほしいという気持ちの方が強いです。それでも、クリッパーズ側から見たトレードの評価は、イングラムが戻ってきてからの姿を見るまで一旦保留、というのが正直なところです。
まとめ
カワイ・トレードの見返りの中心だったイングラムが、アキレス腱の部分断裂の影響で開幕に間に合わないことになりました。5月の手術の際に見つかったという説明がある一方で、当時のラプターズの発表にはアキレス腱の話はなく、クリッパーズが事前にどこまで把握していたのかもはっきりしません。復帰時期も「開幕時に再評価」とされているだけで、4,000万ドルの今季年俸と4,190万ドルのプレイヤーオプションを考えると、クリッパーズにとっては重たいスタートです。それでも本人は「week-by-week」で前に進んでいると話しているので、今はその言葉を信じて待ちたいと思います。インテュイット・ドームで新しいユニフォームを着たイングラムが、万全の状態でコートに立つ日が早く来てほしいです。


