【28th Step】トラップとプレスディフェンスを知ろう
はじめに
前回はスローインの戦術を見ました。コート外からボールを入れる5秒間に、攻める側はあらかじめ用意した形を仕掛け、守る側はそれを止めにいく。そんな話でした。
今回はその続きのような話です。テーマはトラップとプレスディフェンス。ボールを入れられたあとも、守る側が積極的にボールを奪いにいく守り方です。
ここまでのディフェンス回は、どちらかというと「どう守り切るか」の話が中心でした。第6回のヘルプも、第26回のクローズアウトも、基本は相手の攻撃に反応する守りです。今日のトラップとプレスは少し毛色が違って、守る側から先に仕掛ける守り方になります。
トラップとは何か
トラップは、ボールを持っている選手に2人で同時に詰めて、挟み込む守り方です。ダブルチームとほぼ同じ意味で使われますが、「サイドラインやコーナーなど逃げ場の少ない場所へ追い込んでから挟む」というニュアンスで使われることが多い言葉です。
コートのラインは、守る側にとって6人目のディフェンダーのようなものです。サイドラインとハーフコートラインが交わる角、ベースラインとサイドラインが交わるコーナーは、ボールを持った選手が動ける方向が限られます。そこへ2人で詰めれば、パスの出し先もドリブルの逃げ道もかなり狭くなります。
ピック&ロールに対して、スクリーンを使った瞬間にボールマンへ2人で詰める守り方はブリッツやヘッジ&トラップと呼ばれます。第8回で扱ったスイッチが「受け渡す」守りだとすれば、ブリッツは「受け渡さずに2人で襲う」守りです。
プレスディフェンスとは何か
プレスディフェンスは、相手がボールを運ぶ段階から圧力をかける守り方です。コート全体で仕掛けるものをフルコートプレス、ハーフコートラインから先で仕掛けるものをハーフコートプレスと呼びます。
プレスが成立する背景にあるのが、NBAの8秒ルールです。攻める側は、自陣(バックコート)でボールを保持してから8秒以内に、ボールをハーフコートラインの先(フロントコート)へ運ばなければなりません。間に合わなければバイオレーションで、相手ボールになります。
つまりプレスは、「ボールを奪う」だけでなく「時間を削る」守りでもあります。ボールを運ぶのに8秒近くかかれば、24秒のショットクロックのうち、ハーフコートで使える時間はそれだけ減ります。前回の5秒ルールと同じで、ルール上の時間制限が守る側の武器になっているわけです。
プレスにはいくつか代表的な配置があります。
- 1-2-1-1(ダイヤモンド):スローインの直後から1人がボールに詰め、2人目以降で最初のトラップを作る。積極的にボールを奪いにいく形
- 2-2-1:前線の2人で運び手の進路を片側に寄せ、ハーフコート付近でトラップを狙う。奪うよりも時間を使わせる意味合いが強い形
- マンツーマンのフルコートプレッシャー:配置を作らず、全員が自分のマークに前からつく。NBAではこの形をよく見かけます
数字の並びは第3回のゾーンディフェンスと同じ書き方で、前から順に何人ずつ立つかを表しています。それぞれの配置の細かい違いは、次回あらためて取り上げます。
なぜNBAではずっと使われないのか
ここまで読むと「そんなに効くなら毎回やればいいのに」と思うかもしれません。調べてみると、NBAでフルコートのプレスが試合を通して使われることはあまり多くありません。
理由はシンプルで、2人でボールを挟むと、どこかで必ず1人余るからです。5人対5人のうち2人がボールに行けば、残りは3人で4人を守ることになります。NBAのガードはパスがうまく、トラップの上から、あるいは間を割ってパスを通してきます。一度抜けられると、4対3の数的優位から簡単に得点されてしまいます。
体力の問題もあります。コート全体を走り回って圧力をかけ続けるのは消耗が激しく、48分続けるのは現実的ではありません。そのため、終盤に追いかける展開になったときや、流れを変えたい時間帯に限って使われることが多い守り方です。
実例:ステフィン・カリーへのトラップ
トラップの「効く面」と「効かない面」の両方がよく分かるのが、ウォリアーズのステフィン・カリーへの守り方です。
カリーはピック&ロールからのプルアップスリーが強力すぎるため、普通の守り方では止まりません。そこで多くのチームが、スクリーンを使った瞬間にブリッツでカリーを挟み、ボールを手放させる守り方を選んできました。
ところがウォリアーズは、これを逆手に取ります。カリーが挟まれた瞬間にスクリーナーへパスを出すと、そこから先は4対3です。ドレイモンド・グリーンがこのショートロールの位置でボールを受け、空いた選手へさばく形は、ウォリアーズの代表的な攻め方として何度も分析されてきました。ESPNの分析記事でも、カリーを守ろうとする相手の「怖れ」そのものを武器にしている、という趣旨で取り上げられています。
個人的に面白いと思ったのは、カリーにボールを持たせないためにトラップしているのに、結果的にカリーは「シュートを打たなくても」攻撃の起点になっているという点です。トラップは成功すれば相手のエースを消せますが、相手がその先まで準備していると、むしろ相手の得意な形を引き出してしまいます。
攻める側の対応
- 早めに手放す:挟まれる前にパスを出してしまう。トラップは2人目が来る前に処理できれば怖くありません
- ミドルに中継役を置く:トラップの真ん中付近、ハーフコートライン周辺にパスの受け手を置く。ここで受けた選手から逆サイドへ展開すれば、余っている味方を使えます
- ラインに近づかない:サイドラインやコーナーへ自分から寄っていかない。ドリブルはコートの中央寄りを使うのが基本です
- ロングパスで一気に抜く:プレスの最後尾が前に出すぎていれば、縦の長いパスでそのまま得点まで持ち込めます。第21回のトランジションの考え方がそのまま使えます
守る側が気をつけること
- ローテーションの約束事:2人目がトラップに行ったら、残りの3人は「一番危ない場所」から順に埋める。第6回のヘルプの考え方の延長です
- 中途半端に行かない:トラップは行くなら全力で行く。挟みきれないまま2人がボールに寄ると、相手に余裕を与えたうえで1人余らせることになります
- ファウルに注意:手を出して奪いにいく守りなので、ファウルがかさみやすい。ボーナスの状況では特に慎重さが必要です
今日の宿題
タスク1: ハーフコートラインの手前を見る
- 終盤に負けているチームが守るとき、ボール運びの段階から相手に詰めているか見てみてください
- ボールがハーフコートラインを越えるまでに何秒かかったかを数えると、プレスが効いているかどうかが分かります
タスク2: 2人に挟まれたあとのパスを追う
- ピック&ロールでボールマンが2人に挟まれたら、そのあと誰にボールが渡ったかを追ってみてください
- そこから4対3がどう作られ、守る側がどう埋めにいったかを見ると、トラップの損得が見えてきます
次回予告
次回は「フルコートプレスの種類と、破られたときに何が起きるか」を解説します。今日は軽く触れただけのプレスの配置を、もう一歩踏み込んで見ていきます。お楽しみに!
おわりに
トラップとプレスは、守る側が主導権を取りにいく、数少ない守り方です。そのぶん、外れたときの代償もはっきりしています。
試合の終盤、急に前から詰め始めるチームがあったら、それは「リスクを取ってでも時間とボールを取り返しにいく」という意思表示です。成功するか、4対3で抜かれるか。その数秒に注目してみると、試合の見え方が少し変わると思います。

