【29th Step】フルコートプレスの種類と、破られたときに何が起きるか
はじめに
前回はトラップとプレスディフェンスを見ました。ボールマンを2人で挟めば相手を追い込めるけれど、そのぶん必ずどこかで1人余る。そんな損得の話でした。
今回はその続きです。前回は名前を並べただけだったフルコートプレスの種類を一つずつ見ていきます。そしてもう一つ、プレスが破られたときにコートで何が起きているのかも整理します。
プレスは成功すると派手ですが、失敗したときも同じくらい派手です。むしろNBAでは失敗の場面の方が印象に残ることもあるので、今日は両方をセットで見てみます。
フルコートプレスとは(おさらい)
フルコートプレスは、相手がボールを運ぶ段階、つまり相手のバックコートから圧力をかける守り方です。
土台になっているのが8秒ルールです。NBAのルールブックでは、攻める側はバックコートで8秒を超えてボールを保持し続けてはいけないと決められています。違反すると相手ボールになり、ハーフコートラインからのスローインで再開されます。
もう一つ関係するのがバックコート・バイオレーションです。攻める側が一度フロントコートへボールを運んだあと、自分たちでバックコートへ戻したボールを最初に触ってはいけない、というルールです。ハーフコートラインを越えた直後は後ろに逃げられないので、守る側にとってはそこがトラップをかけやすい場所になります。前回「ハーフコートラインとサイドラインの角」がトラップの好ポイントだと書いたのは、このルールがあるからです。
代表的な3つの形
フルコートプレスにはいろいろな配置がありますが、NBAの試合で目にしやすいのは次の3つです。
1. マンツーマンのフルコートプレス
配置を決めず、5人全員が自分のマークに前からつく形です。ボールマンには1人が体を寄せてドリブルを嫌がらせ、ほかの4人は自分のマークにパスが入らないよう前に立ちます。
NBAで一番よく見かけるのはこの形です。特に、ボール運びをするガードに対して、守る側のガードが1人で94フィート(コート全長)つきまとう場面は、レギュラーシーズンでもときどき見られます。トラップを仕掛けないぶん1人余る心配が少なく、目的は奪うことより時間を使わせることにあります。
途中で守る側が急に2人でボールに寄せて、マークを入れ替える動きを混ぜることもあります。これはラン・アンド・ジャンプと呼ばれ、マンツーマンの形のまま不意打ちでトラップを作る工夫です。
2. 1-2-1-1(ダイヤモンド)
前から1人、2人、1人、1人の順に並ぶゾーン型のプレスです。先頭の1人がスローインする選手の前に立ってパスコースを邪魔し、ボールが入った瞬間に2列目の選手と一緒に挟みにいきます。
最初のパスを受けた直後、まだ体勢が整っていない選手を狙うので、ボールを奪う確率は高めです。その代わり前の人数を厚くしているぶん、後ろはかなり薄くなります。一番後ろの1人がゴール下を守ることになり、ここを越えられると守る人がいません。
3. 2-2-1
前に2人、真ん中に2人、後ろに1人という配置です。前の2人はあえて最初のパスを入れさせ、ボールマンをサイドライン側へ誘導します。そしてハーフコートライン付近でサイドラインの近くに追い込んだところを、前の1人と真ん中の1人で挟みます。
1-2-1-1よりも後ろの備えが厚く、無理にボールを奪うより相手のリズムを崩して時間を使わせる意味合いが強い形です。いわゆる「3/4コートプレス」として、相手陣内の深い位置ではなく、少し下がった位置から仕掛けることもあります。
この2-2-1は、ゾーンディフェンスとの相性が良い形でもあります。Sports Illustratedのヒート担当記事では、マイアミ・ヒートが2-2-1のゾーンプレスから2-3ゾーンへ下がる形を、一時期ディフェンスの土台にしていたと紹介されています。前から圧力をかけて時間を使わせ、ハーフコートに入ったら第3回で扱ったゾーンにそのまま移る。プレスとゾーンを1つの流れとしてつなげているわけです。
なぜ重要なのか
NBAでは、フルコートプレスを試合を通して使うチームはほとんどありません。前回書いたとおり、NBAのガードはパスもドリブルも上手く、トラップは簡単に外されてしまうからです。
それでも知っておく価値があるのは、プレスが試合の流れを変えるスイッチとして使われるからです。終盤に追いかける展開、相手の控えガードがコートにいる時間帯、タイムアウト明けなど、「ここだけ」という場面で急に出てきます。そのとき何が起きているのかが分かると、試合の見え方がかなり変わります。
調べていて面白いと思ったのは、プレスの成果は「何回奪ったか」だけでは測れないという点です。ボール運びに7秒かかれば、ハーフコートで使える時間は24秒から大きく減ります。ターンオーバーが1つも起きなくても、相手のセットオフェンスが窮屈になっていれば、プレスは一定の仕事をしていることになります。
破られたときに何が起きるか
ここからが今日の本題の後半です。プレスが破られると、コートの上ではだいたい次の順番で問題が起きます。
- 数的不利が生まれる:トラップに2人が行った状態でパスを通されると、残りは3人で4人を守ることになります。さらに一番後ろの選手を越えるパスが出れば、3対2、2対1のような状況がそのまま生まれます
- 守る側の多くがボールより後ろにいる:プレスでは全員が前に出ているので、破られた瞬間、守る側のほとんどがボールより相手コート側に取り残されます。ここから自陣へ全力で戻らなければなりません
- ゴール下の守りが1人だけになる:後ろに残っている1人が、走り込んでくる2人、3人を相手にすることになります。レイアップやダンクをそのまま許しやすい状況です
- 戻りながらの守備は崩れやすい:なんとか戻れても、マークの確認ができないまま守ることになります。誰がゴール下を守り、誰がボールに行くのかを、走りながら決めなければなりません。第21回のトランジションディフェンスの考え方が、ここでそのまま必要になります
つまり、プレスが破られると、ハーフコートの守りではなくトランジションの守りに強制的に切り替わります。しかも普通の速攻より不利な状態でのスタートです。プレスのリスクが大きいと言われるのは、この落差があるからです。
もう一つ見落としやすいのが、ファウルの増加です。追いつけない状況で手を出せば、ファウルがかさみます。終盤にプレスを仕掛けるチームはそもそも負けている側が多いので、ここでフリースローを与えるとさらに点差が開いてしまいます。
攻める側の対応(プレスブレイク)
- スローインを素早く入れる:相手の得点直後のスローインでは、スローインする選手がベースラインに沿って動くことができます。プレスの配置が整う前に入れてしまえば、それだけで1人目の圧力をかわせます
- ミドルに受け手を置く:前回も触れたとおり、コート中央付近にパスの受け手を置くのが基本です。真ん中で受ければ左右どちらにも展開でき、サイドラインに追い込まれる心配がなくなります
- ドリブルよりパスで運ぶ:トラップはドリブルを止めてから挟むのが基本なので、パスでボールを前へ動かす方が安全です
- 抜けたら攻め切る:プレスを破った直後は数的優位の時間です。そこで立ち止まってセットオフェンスに入ると、せっかくの有利を捨ててしまいます
守る側が気をつけること
- 一番後ろの1人の判断:1-2-1-1でも2-2-1でも、最後尾の選手はロングパスを最優先で警戒します。前に出てインターセプトを狙いたくなる場面ほど、ゴール下を空けない我慢が必要です
- 「抜かれた」の合図を早く出す:破られた瞬間に全員がプレスをやめて自陣へ戻る。ここで誰か1人でも追いかけ続けると、戻りが遅れます
- プレスの「出口」を決めておく:ヒートの例のように、ハーフコートラインを越えられたらどの守り方に移るのかを先に決めておく。マンツーマンに戻るのか、ゾーンに移るのかが曖昧だと、マークの受け渡しで混乱します
今日の宿題
タスク1: プレスの「形」を見分ける
- 試合中に相手の得点直後から前で守り始めるチームを見つけたら、スローインの瞬間に守る側が何人、どこに立っているかを数えてみてください
- ボールにマンツーマンでついているのか、2人目が待ち構えているのかで、今日の3つの形のどれに近いかが見えてきます
タスク2: プレスが破られた直後の5秒を見る
- プレスを抜けた瞬間、攻める側が何人で、守る側が何人でゴールに向かっているか数えてみてください
- そこから攻める側がそのまま攻め切ったのか、立ち止まってセットオフェンスに入ったのかも見てみると、プレスの損得がよく分かります
次回予告
次回は「ゾーンディフェンスの種類を整理する(2-3 / 3-2 / 1-3-1)」を解説します。今日少し触れた「プレスからゾーンへ移る」流れの、その先の話です。お楽しみに!
おわりに
フルコートプレスは、成功すればボールと時間の両方を取り返せる守り方です。一方で、破られた瞬間に守る側が一気に不利になる、分かりやすいリスクも抱えています。
NBAで試合を通してプレスを使うチームが少ないのは、そのリスクがあまりに大きいからだと思います。だからこそ、試合の終盤や流れの悪い時間帯に急に前から詰め始めるチームがあったら、ぜひそこに注目してみてください。どの形で仕掛けて、破られたときにどう戻ったのか。その数十秒に、チームの準備と覚悟がよく表れています。


