ウィザーズのバブ・キャリントンが、昨季のチームについて踏み込んだ発言をしました。「ダイバンツァを獲るために抑えられていた、それは秘密ではない」という趣旨です。事実上、タンクを認めたような内容ですが、NBAは処分しない見込みと報じられています。ただしこれはThe Athleticが関係者の話として伝えたもので、NBAの公式発表ではありません。懲戒権限を広げたばかりのリーグが、なぜ動かないのか。発言の中身から順に見ていきます。
キャリントンは何を言ったのか
発言が出たのは、ワシントンD.C.の地元局WUSA-TVのインタビューです。10月2日(現地)に、複数のメディアが一斉に報じました。内容は、昨季はAJ・ダイバンツァを獲るためにチーム全体が抑えられていた、それは秘密ではない、というものです。今季については、もう誰にも手錠はかかっていないと語り、プレーオフに行けるチームだという見通しも示しました。
ただ、報道によって英語の言い回しに少し差があります。聞き手の問いを受けて答えた形の文面と、より短くまとめた文面の2系統が出回っています。原典の映像は今回確認できていないので、ここでは趣旨の紹介にとどめます。なお、どの報道でも「tanking(タンク)」という単語そのものは使っていないとされています。
発言した日にも食い違いがあります。9月28日のメディアデーとする報道と、10月2日のオープンプラクティス前とする報道があります。確かなのは、10月2日に一気に広まったという点です。
そもそもタンクとロッタリーとは
ここで前提を軽くおさらいします。タンク(タンキング)とは、ドラフトで上位指名権を得るために、わざと負けを重ねることです。NBAではプレーオフに出られなかったチームが、ドラフト・ロッタリーという抽選に参加します。成績が悪いほど1位指名の確率が上がる仕組みなので、負けるほど得をする構造になっていました。
昨季のウィザーズは17勝65敗で、リーグ最下位でした。ESPNによると3シーズン連続で64敗以上で、2021年以降は120勝290敗とリーグ最悪です。そして現地5月10日のロッタリーで、ペイサーズ、ネッツと並ぶ最高確率14%から1位を引き当てました。6月23日のドラフトでは、BYUのフォワード、ダイバンツァを全体1位で指名しています。
ダイバンツァはBYUで平均25.5点・6.8リバウンド・3.7アシストを記録しました。ウィザーズの全体1位指名は、2010年のジョン・ウォール以来です。チームとしては、狙いどおりの結果を手にしたことになります。
キャリントン自身はどんな選手か
キャリントンは2005年7月21日生まれで、ピッツバーグ大に1年在籍しました。2024年ドラフトで、ブレイザーズが全体14位で指名した選手です。この指名権はドラフト時のトレードでウィザーズへ渡りました。ウィザーズはマルコム・ブログドン、14位指名権、2029年1巡目指名権を受け取り、デニ・アブディヤを放出しています。
1年目はオールルーキー2ndチームに入りました。昨季は82試合すべてに出場し、平均10.7点・3.4リバウンド・4.6アシストです。3P成功率も約4割と、シュート面での成長が見えました。デビューから2季連続の82試合全出場は、カール=アンソニー・タウンズ以来だそうです。
ここは少し皮肉な話だと思います。チームが負けに向かうなかで、本人は1試合も休まず出続けていたわけです。「抑えられていた」という言葉には、そのもどかしさがにじんでいるように感じました。
契約面では、3年目(2026-27)のチームオプションが490万560ドルで行使済みです。4年目(2027-28)のオプションは、まだ判断が出ていません。期限は11月2日です。
The Athleticは「処分なしの見込み」と報道
では、NBAはこの発言をどう扱うのか。The Athleticのジョシュ・ロビンズ記者とサム・アミック記者が、関係者の話として報じています。ウィザーズにもキャリントンにも、処分は科されない見込みだそうです。The Athleticの本文は確認できておらず、Hoops Rumors経由で伝わった内容です。NBAが公式に処分見送りを発表したわけではない点に注意が必要です。
同報道によれば、理由は発言の主にあります。選手が「チームの起用は最適ではなかった」とほのめかしても、オーナーが負けることの利点を語るよりは問題が小さい、という見方です。また、リーグは2ウェイ契約の選手や控えを多く使う起用を、露骨でない限り容認してきた、という趣旨も紹介されています。
キューバンの60万ドルとの違い
ここで比較に出されているのが、2018年のマーク・キューバンです。マブスのオーナーだったキューバンは、ポッドキャストで「負けることが最善の選択肢だ」と発言しました。NBAは2018年2月21日、「リーグに有害な公の発言」として60万ドルの罰金を科しています。当時のキューバン個人として最高額の罰金でした。
オーナーは球団の方針を決める立場です。その人が「負けるつもりだ」と言えば、それは方針そのものの表明になります。一方でキャリントンは選手で、起用を決める立場ではありません。同じ「タンクを認めた」発言でも重みが違う、というのが同報道の見立てです。
ジャズとペイサーズは罰金を受けている
ただ、NBAがタンクに甘いわけではありません。2025年3月には、ジャズが10万ドルの罰金を受けました。ラウリ・マルッカネンを欠場させたことが、プレイヤー・パーティシペーション・ポリシーに違反したためです。2023-24シーズン前に導入されたルールです。
2026年2月12日には、ジャズにさらに重い50万ドルの罰金が科されました。同じ日にペイサーズにも10万ドルの罰金が出ています。ジャズは出場できる主力を試合終盤に下げ、ペイサーズは先発3人を欠場させていました。アダム・シルバー・コミッショナーは、勝利より指名順位を優先する露骨な行為は競技の土台を損なう、という趣旨のコメントを出しています。
罰金の対象になったのは、どちらも試合での実際の起用です。今回のキャリントンは、終わったシーズンを選手が振り返った発言です。発言の主だけでなく、対象が「行為」か「言葉」かも違うわけです。報道によると、昨季のウィザーズでもトレイ・ヤングはトレード加入後5試合しか出ず、アンソニー・デイビスは加入後の出場がありませんでした。それでも、昨季の起用でウィザーズが罰金を受けたという情報は、今回の調査では確認できていません。
懲戒権限を広げたばかりのNBA
今回の件が注目される理由は、タイミングにもあります。NBAは5月28日、新しいロッタリー方式「3-2-1ロッタリー」の導入を発表しました。新方式の中身は、以前に3-2-1ロッタリーの解説記事でまとめています。
NBA.comの公式発表で確認できる主な内容は次のとおりです。
- 2027年ドラフトから2029年まで適用(2030年以降は理事会が改めて決める)
- ロッタリー対象を14チームから16チームに拡大
- 成績下位3チームは、最悪でも12位指名
- 2年連続の全体1位、3年連続のトップ5指名はどちらも不可
- タンクへの懲戒権限を拡大(ロッタリー確率の削減、指名順位の変更、多額の罰金)
報道によれば、理事会での投票は29対1で、反対はグリズリーズだけでした。1位指名の確率は、下位3チームが5.4%、下位4〜10位が8.1%になると伝えられています。罰金も報道では最大1,000万ドルとされていますが、公式文面は「多額の罰金」とだけ書いています。
報道の数字どおりなら、最下位でも1位確率は14%から5.4%に下がります。しかも最悪12位まで落ちうるわけです。負けるメリットは大きく削られました。そのうえで、リーグには罰する手段も増えています。
昨季は「最後のタンク」だった
こう見ると、ウィザーズの昨季は旧方式での最後のチャンスでした。新方式が始まるのは2027年ドラフトからです。2026年のロッタリーまでは、最下位なら14%という従来の確率が生きていました。ウィザーズはそこで1位を引き、ダイバンツァを手にしています。
The Washington Sunによると、トレイ・ヤングも同じ頃に似た趣旨を語っています。昨季のことには感謝している、そうでなければダイバンツァはいなかったかもしれない、という内容です。キャリントンだけでなくヤングも、昨季の負けとダイバンツァ獲得を結びつけて語っているわけです。
個人的には、新ルールで罰則を強めた直後だからこそ、リーグが過去の発言を蒸し返さないのは筋が通っていると感じます。罰するべきは、これからのコート上での露骨な行為だ、という線引きに見えるからです。ただ、選手がここまであっさり口にするあたり、昨季の空気は相当はっきりしていたのだろうなとも思いました。
まとめ
キャリントンは、昨季のウィザーズがダイバンツァ獲得のために抑えられていたという趣旨の発言をしました。発言日は9月28日説と10月2日説があり、報道として広まったのは10月2日です。The Athleticは関係者の話として、NBAは処分しない見込みと報じましたが、公式発表ではありません。
オーナーのキューバンは発言で60万ドルの罰金を受け、ジャズとペイサーズは実際の起用で罰金を受けました。今回は選手が過去を振り返った発言で、そのどちらとも性質が違います。そして2027年から3-2-1ロッタリーが始まり、報道によれば最下位でも1位の確率は5.4%まで下がります。
ウィザーズは、旧方式の最後の年に1位を引いたチームになりました。キャリントンの言う「手錠が外れた」今季、本当にプレーオフ争いに加われるのか。ダイバンツァとキャリントンが並ぶ今季の戦いぶりに注目です。


