NBAの補強と聞くと、普通はまず選手を思い浮かべます。
スター選手をトレードで獲得した。ベテランをFAで加えた。若手をドラフトした。
でも今回のアトランタ・ホークスが補強したのは、選手ではありません。
66歳の名将です。
エットレ・メッシーナがホークスのコンサルタントとしてNBAへ戻ると報じられました。欧州バスケを少しでも見ている人なら名前を聞いたことがあると思いますが、NBA中心に見ている人からすると、誰?という人もいるかもしれません。
ただ、この人。
普通にめちゃくちゃすごいです。
しかも今回のホークス入りは、単なる肩書きだけの人事ではなさそうです。現在のHCであるクイン・スナイダーとは過去にも一緒に仕事をしており、ホークスが戦術面や育成、チーム作りをさらにアップデートするための補強として見るとかなり面白い動きです。
今回は、そもそもエットレ・メッシーナとは何者なのか、なぜ欧州でここまで評価されているのか、そしてホークスはこの人を入れて何を変えたいのかを整理していきます。
そもそもエットレ・メッシーナって誰?
まずはここから。
エットレ・メッシーナはイタリア出身の名将で、欧州バスケットボール界では長年トップクラスの指導者として知られてきました。
キャリアの中ではヴィルトゥス・ボローニャ、CSKAモスクワ、レアル・マドリード、オリンピア・ミラノなど、ヨーロッパを代表するクラブを率いています。
そして最大の実績がユーロリーグ4回優勝。
1998年と2001年にヴィルトゥス・ボローニャ、2006年と2008年にはCSKAモスクワを欧州王者へ導いています。さらに国内でもイタリアリーグを7度制しており、欧州では完全に名将側の人です。
日本のNBAファン向けにかなり雑に言えば、欧州バスケの歴史を語るときに普通に名前が出てくる人。
今回ホークスが連れてきたのは、ちょっと有名な元コーチではありません。
ガチの大物です。
NBAにも初めて来るわけではない
メッシーナは今回が初NBAではありません。
過去にはロサンゼルス・レイカーズでコンサルタントを務め、その後2014年から2019年までサンアントニオ・スパーズでアシスタントコーチを務めています。
スパーズ時代のHCはもちろんグレッグ・ポポビッチ。
つまり、欧州の名将がNBAに見学へ来ました、というレベルではなく、実際にポポビッチのスタッフとして5年間働いていました。
この時期のメッシーナは、NBAのHC候補として名前が挙がることも多く、ポポビッチが不在時にはチームを指揮する立場にもなっていました。
欧州の戦術を知っている。
NBAの現場も知っている。
選手育成も知っている。
そして長年HCとして組織全体を動かしてきた。
今回コンサルタントという肩書きではありますが、持っている引き出しはかなり多いです。
クイン・スナイダーとは昔からつながっている
そして今回のホークス入りで重要なのが、現在HCを務めるクイン・スナイダーとの関係です。
実はスナイダーは2012-13シーズン、CSKAモスクワでメッシーナのアシスタントコーチを務めていました。その後NBAへ戻り、ホークスのAC、ユタ・ジャズのHCを経て、現在再びアトランタを率いています。
つまり今回は、全く知らない名将を外から呼んできたわけではありません。
昔一緒に仕事をした指導者を、今度はスナイダー自身がHCを務めるチームへ迎える形です。
これだけでも単なる名前貸しのコンサルタントではなさそうだなと思います。
スナイダーはもともと戦術面でかなり評価の高いHCです。オフェンスではボールを動かしながらスペーシングを作り、複数の選択肢を選手に与えるスタイルを好みます。
そこにメッシーナが加わる。
バスケ好きとしては普通にちょっとワクワクします。
コンサルタントって結局何するの?
ここが一番分かりにくいところです。
ACなら試合中にベンチに座っているので役割が分かりやすい。
HCなら当然チーム全体を指揮します。
でもコンサルタントって何するの?となります。
今回のメッシーナは、常にアトランタへ帯同する形ではないと報じられています。イタリアでテレビ解説の仕事も続ける予定で、米国とイタリアを行き来しながらホークスへ助言する立場になる見込みです。
なので、毎試合ベンチで選手へ指示を出すような役割ではなさそうです。
考えられるのは、戦術面のレビュー、選手育成方針への助言、対戦相手の分析、組織全体のコーチングプロセス改善など。
特にメッシーナのような経験豊富な指導者であれば、単純にこのセットプレーを使おうという話より、チーム全体をどう作るかという部分まで関わる可能性があります。
ホークスは今、普通に強い
今回の補強を考えるうえで重要なのが、現在のホークスは再建チームではないということです。
昨季は46勝36敗で東6位。
平均118.5得点でリーグ6位、アシストは平均30.1本でリーグ1位でした。
さらに今オフはロスターもかなり動いています。
ルーゲンツ・ドート、ライアン・ネムハード、アーロン・ウィギンズをトレードで加え、ジョック・ランデール、CJ・マッカラムとも契約。
一方でジョナサン・クミンガやザッカリー・リザシェイがチームを離れました。
つまりホークスは今、若手を育てるだけの段階ではありません。
東で上位を狙いたい。
プレーオフで勝ちたい。
その段階に入っています。
だからこそ、今回のメッシーナ加入が面白い。
ホークスが欲しいのは戦術だけじゃないかもしれない
メッシーナと聞くと、どうしても戦術家というイメージが先に来ます。
もちろんそこは大きいと思います。
でも個人的には、今回ホークスが欲しいのは戦術だけじゃない気がしています。
若いチームが強豪になるとき、一番難しいのは選手の能力を上げることだけではありません。
どう勝つか。
誰がどこで責任を持つか。
プレーオフで何を変えるか。
負けたときにどう修正するか。
そういうチーム全体の成熟度が必要になります。
メッシーナは欧州で何十年も勝ち続けてきました。
レギュラーシーズンだけではなく、短期決戦も知っています。
スター選手の扱いも知っています。
若手を使いながら勝つ方法も知っています。
ホークスにとっては、こういう知識を外から入れるだけでもかなり意味があるはずです。
欧州バスケの考え方がNBAに入ってくる
これも今回のニュースで面白いところです。
近年のNBAは、選手だけではなく戦術もどんどんグローバル化しています。
ヨキッチ、ドンチッチ、ウェンバンヤマのような欧州出身スターが増えたことはもちろんですが、オフェンスの作り方やビッグマンの使い方、オフボールの動きなど、欧州的な考え方がNBAへ入ってくる場面も増えています。
メッシーナはその両方を知っている人物です。
欧州ではHCとしてトップレベル。
NBAではスパーズで5年間働いた。
つまり、欧州の戦術をそのままNBAへ持ってくるのではなく、NBAで何が通用して何が通用しないかまで分かっている。
そこはかなり強いと思います。
スナイダーとの組み合わせが面白い
そして結局、一番楽しみなのはここです。
スナイダー自身も欧州経験があります。
NBAだけを歩いてきたHCではありません。
過去にメッシーナの下で仕事をし、そこからNBAでHCになった。
そのスナイダーが今、再びメッシーナと組む。
昔は上司と部下。
今回はHCとコンサルタント。
立場が変わっています。
こういう関係性も面白いです。
スナイダーからすれば、自分の考えを理解してくれる経験豊富な指導者に、外から意見をもらえる。
HCって孤独な仕事だと思います。
最終的な判断は全部自分。
その中でメッシーナのような人に相談できるのは、普通にかなり心強いはずです。
フロントも同時に動いている
実はホークスはこの時期、コーチングだけではなくフロント側も整理しています。
9月8日にはピーター・ディンウィディーをバスケットボール運営部門のEVPへ昇格させ、ティム・ボンテンプスを戦略アドバイザーとして加えるなど、複数の人事を発表しました。
つまりメッシーナだけを突然入れたわけではありません。
組織全体をアップデートしている途中です。
こうして見ると、ホークスが今季をかなり重要なシーズンとして考えていることが分かります。
選手だけ入れ替える。
それだけではなく、フロント、戦略、育成、コーチングまで変える。
チームを一段上へ持っていくために、組織全体へ手を入れている感じがあります。
66歳でNBA復帰というのも普通にすごい
メッシーナは66歳。
普通なら欧州で十分な実績を残して、そのまま指導者人生を終えてもおかしくありません。
実際、今夏にオリンピア・ミラノを離れたあとも、欧州の新プロジェクトに関わる可能性などが報じられていました。
それでも最終的に選んだのがNBA。
しかもまた現場に近い仕事です。
まだバスケやるんだ、という感じです。
こういう人、本当にバスケ好きなんでしょうね。笑
選手補強だけが補強じゃない
NBAのオフシーズンを見ると、どうしても選手の移籍ばかり追ってしまいます。
誰がFAになった。
誰がトレードされた。
誰が延長契約を結んだ。
もちろんそれが一番分かりやすい。
でもチームの強さを決めるのは選手だけではありません。
コーチ。
フロント。
育成スタッフ。
分析部門。
全部含めてチームです。
今回のホークスは、66歳のメッシーナを補強しました。
得点は0点。
リバウンドも0本。
試合にも出ません。
でも、この補強がシーズン中に一番効いてくる可能性だってあります。
ホークスは本当に一段上へ行けるのか
昨季46勝。
東6位。
アシストはリーグ1位。
普通に強い。
でも優勝候補かと言われると、まだ一段足りない。
今のホークスはちょうどその位置にいます。
だからこそ、選手だけを変えるのではなく、バスケットボールそのものを成熟させたい。
今回のメッシーナ加入は、そんな意図にも見えます。
もちろんコンサルタント1人が入ったから突然10勝増えるわけではありません。
実際に試合をするのは選手です。
でもプレーオフで1つの修正がシリーズを変えることは普通にあります。
そこでメッシーナの経験が生きたら面白い。
個人的にはかなり好きな補強
こういうニュース、僕は結構好きです。
スター選手獲得ほど派手ではありません。
SNSでもそこまで伸びないかもしれません。
でも、チーム作りという視点で見るとめちゃくちゃ面白い。
欧州でトップを取り続けたメッシーナ。
その下で学んだスナイダー。
今度はNBAのホークスで再び組む。
しかもスナイダーがHCで、メッシーナが外から支える立場。
時間が一周した感じがあります。
ホークス、選手じゃなくて66歳の名将を補強。
文字だけ見るとちょっと面白いですが、内容を見るとかなり本気です。
今季のアトランタ、ちょっと注目したくなりました。


