トレードで獲得した選手を、そのトレードが正式に成立した翌日にウェイブする。NBAを長く見ていても、そう頻繁に目にする流れではありません。ホーネッツは現地時間9月28日、2024年ドラフト全体8位のロブ・ディリンガムをウェイブしました。ブルズとのトレードが報じられたのが9月26日、正式に成立したのが27日なので、正式成立から数えれば翌日、最初の報道から数えても2日後です。ドラフト当時あれだけ話題になった選手が、ルーキー契約の3年目を前にこういう形で放出されるのは、見ていて少し複雑な気持ちになりました。
まず何が起きたのか。ヒールドをはさんだ2つのトレード
今回の件は、ヒールドが絡んだ2つのトレードを順番に追うと分かりやすいです。まず9月22日(現地時間)、ホーネッツはドリアン・フィニー・スミスをホークスへ出して、バディ・ヒールド、ライアン・ネムハード、現金を獲得しました。このトレードは両チームがその日の夜に発表しています。
そして9月26日、ESPNのシャムズ・シャラニアが、ホーネッツがそのヒールドと現金をブルズへ出してディリンガムを獲得すると報道。トレードは27日に正式に成立し、28日にディリンガムがウェイブされた、という流れです。ESPNによると、ヒールドがホーネッツにいたのは1週間にも満たなかったそうです。ヒールドはブルズのエグゼクティブVPのブライソン・グラハムとニューオーリンズ時代からのつながりがある、ともESPNは書いていて、ブルズ側にとっては縁のある選手だったわけですね。
つまりホーネッツから見ると、フィニー・スミスがヒールドになり、そのヒールドがディリンガムになり、最後にディリンガムがいなくなった、ということになります。こうやって並べると、ディリンガムは「欲しかった選手」というより、ヒールドの契約を動かすための受け皿だったように見えてしまいます。
ホーネッツの狙いはヒールドの契約だった
報道を読む限り、ホーネッツの目的はほぼ年俸面だったようです。ESPNとNBA.comは、ヒールドを出したことでホーネッツが960万ドルのトレード例外を作ったと伝えていて、Hoops Rumorsは970万ドルとしています。報道によって少し差がありますが、約960万〜970万ドルのトレード例外を手にしたことになります。NBA.comによると、年俸も300万ドル減らしています。
加えて、ヒールドには2027-28シーズンに約1,000万ドルのプレイヤーオプションが付いていました(Hoops Rumorsは1,010万ドルで一部保証としています)。ホーネッツはこの複数年の契約から解放されたわけです。Hoops Rumorsによると、ディリンガムの年俸は既存のタイアス・ジョーンズ分のトレード例外で吸収できたそうで、そのうえでヒールド分の新しいトレード例外を作れた、という仕組みです。
フロントとしては合理的な動きだと思います。ただ、その過程でドラフト8位の選手が「年俸を合わせるためのパーツ」として扱われ、翌日には手放されたと考えると、ビジネスとはいえなかなかシビアです。現金はブルズ側の年俸差を埋めるためのものだったとも報じられていて、お金の動きだけ見れば、きれいに整理されたトレードなんですけどね。
年俸はホーネッツが負担、ウェイバーの行方は
Hoops Rumorsによると、ディリンガムの2026-27シーズンの年俸約689万ドルはホーネッツが負担することになります。2027-28シーズンの約876万ドルのチームオプションは、行使されない見込みだそうです。690万ドル近くを払ってでも枠を空けたかったわけで、ホーネッツにとってはそれだけヒールド側の整理に価値があったということですね。
ウェイバーについては、同じくHoops Rumorsが「クレームされなければ9月30日にUFA(制限なしFA)になる」と伝えています。この記事を書いている9月30日の時点では、クレームされたのか、ウェイバーを通過したのかという報道は確認できていません。なので現時点で言えるのは、クレームされなければ9月30日にUFAになる予定、というところまでです。
また、Hoops Rumorsによると、ディリンガムは直前にトレードされた関係でブルズとは契約できないそうです。一方で、NBAでの在籍年数がまだ2年なので、2ウェイ契約を結ぶ資格があるとも書かれています。標準契約のオファーが来なかったとしても、2ウェイ契約という道が残っているのは、本人にとっては小さくない話だと思います。
ホーネッツのガード陣に入る余地はなかった
そもそも、なぜホーネッツはディリンガムを残さなかったのか。CBS Sportsによると、ホーネッツのバックコートは先発PGのコービー・ホワイトに、デニス・シュルーダー、ルーキーのクリスチャン・アンダーソンがいます。ClutchPointsは、ホワイトとシュルーダーがいる以上、ディリンガムは良くても3番手のPGだったと分析していて、NBC Sportsも開幕ロスター入りは難しかったと見ています。
ロスターの人数も関係しています。Hoops Rumorsによると、今回のウェイブでホーネッツの標準契約は17人から16人になり、その内訳は保証契約15人とパット・コナトンの非保証契約です。レギュラーシーズンに向けて人数を絞る必要がある中で、保証契約を持つ選手をわざわざ1人増やしても仕方ない、という判断でしょう。
ちょっと気になったのは、ESPNが「コン・クヌッペルがハムストリングの負傷で離脱した後にディリンガムを獲得した」と書いている点です。ガードの頭数を確保する意味も少しはあったのかな、と一瞬思いましたが、結果として翌日にウェイブしているので、やはり主目的はヒールドの契約の方だったんでしょう。ちなみにホーネッツは今オフ、ラメロ・ボールをミネソタへトレードしています。ディリンガムがNBAキャリアをスタートさせたのもミネソタだったので、なんだか不思議なめぐり合わせです。
ウルブズの8位指名、改めて振り返ると
ここで2024年のドラフトを振り返っておきます。ディリンガムを8位で指名したのはスパーズで、ドラフト当日にウルブズへトレードされました。NBA.comによると、ウルブズがこの8位指名のために出したのは、2031年の1巡目指名権(プロテクトなし)と、2030年の1巡目指名権のスワップ権(1位のみプロテクト)です。ESPNは今回のウェイブの記事で「将来の1巡目2つ」と表現していますが、NBA.comの内訳を見ると、1つは指名権そのものではなくスワップ権です。どちらにしても、プロテクトなしの1巡目を含む大きな対価だったことに変わりはありません。
ケンタッキー大では平均15.2得点、3P成功率44.4%。数字だけ見れば、ドラフト上位で名前が挙がるのも納得のガードでした。プロテクトなしの1巡目を差し出してまで上がってきたわけですから、ウルブズとしてはかなりの期待を込めた指名だったはずです。
ただ、ウルブズでは出場機会が思うように伸びませんでした。1年目は49試合で平均4.5得点・2.0アシスト、2年目はウルブズで35試合・平均9.3分・3.5得点にとどまり、ESPNによると平均15分以上出たシーズンはありません。そして2026年2月5日のトレード期限に、レナード・ミラー、2巡目指名権4つと一緒にブルズへ出され、ウルブズはエイヨ・ドスンムとジュリアン・フィリップスを獲得しました。トレード時点でウルブズは32勝20敗の西5位。勝ちにいくチームで若いガードを育てる余裕はなかった、ということなんだと思います。
今振り返ると、プロテクトなしの1巡目まで出して獲った選手を、2年足らずで2巡目4つを付けて出したことになります。ウルブズの判断を今の時点で「失敗」と言い切るつもりはありませんが、少なくとも指名時に描いていた絵とはかなり違う形になったのは間違いないです。2031年の指名権がどうなるかはまだ何年も先の話なので、最終的な評価はそこまで持ち越しですね。
ブルズでは確かに結果を出していた
個人的に一番もったいないと感じるのが、ブルズでの30試合です。ESPNによると平均9.6得点・2.8アシスト・FG42.8%で、ClutchPointsによると出場時間は平均21.5分。ウルブズ時代と比べれば、出番をもらえればこれくらいはできる、というのを見せたシーズン後半でした。Hoops Rumorsでは、3月中旬に直近3試合で平均13得点・5アシストを記録したことも伝えられています。
それでも本人は3月末、出場時間が増えた状況について「I don’t feel like I’ve proven anything.(まだ何も証明できたとは思っていない)」と話していたそうです(Hoops Rumorsが報道を引用したもの)。4月22日には右手首のガングリオン嚢胞を取り除く手術も受けています。本人の言葉どおり、まだここからが勝負という段階だったわけです。
ブルズがディリンガムを手放した理由については、Hoops Rumorsが「新しいフロントの下では将来がないと見られていた」と書き、CBS Sportsは、カレブ・ウィルソンやマタス・ブゼリスに出場機会を与えたいこと、ディリンガムが旧体制で獲得された選手で、トレ・ジョーンズやジョシュ・ギディーとポジションが重なっていたことを挙げています。いずれも記者の分析ですが、フロントが変わると評価の軸ごと変わってしまうのは、NBAではよくある話です。
過去にも上位指名が早々に放出された例はある
ドラフト上位の選手がルーキー契約中に放出される例は、過去にもあります。ただ、今回とまったく同じ形のものは見つけられていないので、形の違いも含めて書いておきます。
1つはキリアン・ヘイズです。2020年ドラフト全体7位でピストンズに入ったヘイズは、ルーキー契約最終年の途中だった2024年2月8日にウェイブされました。そのシーズンは42試合(先発31)で平均6.9得点・4.9アシスト。トレード期限前に移籍先を探したもののまとまらず、期限に選手を獲得したことでロスター枠を空ける必要が出た、という経緯でした。ロスター枠の事情という点は今回と似ていますが、ヘイズはピストンズで4年目まで過ごしていて、トレードで獲った直後のウェイブではありません。
もう1つはアンソニー・ベネットです。2013年ドラフト全体1位でキャバリアーズに入り、2014年夏のケビン・ラブのトレードでミネソタへ。そしてルーキー契約3年目(580万ドル)の前にバイアウトで合意し、ウェイブされました。こちらは選手側と金額を話し合ったうえでのバイアウトなので、年俸を全額負担してトレード直後にウェイブした今回とは、やはり形が違います。それにしても、ベネットの時もウルブズが関わっていたというのは、ちょっと皮肉な偶然です。
2つの例と比べると、今回の特徴は「獲った翌日」というスピード感にあると思います。それだけ、ホーネッツにとってディリンガムという選手そのものは判断材料の中心ではなかった、ということなのかもしれません。
小柄なPGがNBAで生き残る難しさ
ディリンガムの身長はソースによって6フィート1インチから3インチまで表記がバラバラなのですが、いずれにしてもNBAのガードとしては大きい方ではありません。自分も小さいガードとしてプレーしてきたので、サイズのない選手がコートに立ち続けるために何を証明しなければいけないかは、少し分かるつもりです。点が取れるだけでは足りなくて、守備で狙われないこと、ゲームをコントロールできることまで求められる。そして何より、それを証明するための出場時間をもらえるかどうかが大きいんですよね。
ディリンガムの場合、ウルブズでは勝ちにいくチームの中で出番がなく、ブルズでようやく21分前後をもらえたと思ったらフロントが変わり、ホーネッツではPGの層の厚さに阻まれた。もちろんウルブズ時代の数字が物足りなかったのは事実ですが、本人の実力だけでは説明しきれない事情で、居場所が3回変わってしまった印象です。NBA.comも、ホーネッツは2月のトレード期限以降で3チーム目だったと書いています。
とはいえ、2ウェイ契約の資格があることや、ブルズで30試合それなりの数字を残したことを考えると、まだ道が閉ざされたわけではないと思います。移籍先の予想記事も出ていますが、あくまで記者の予想なので、ここでは触れません。どのチームであれ、まとまった時間を与えられる環境に行けるかどうか。それが次の数年を左右しそうです。
まとめ
ホーネッツは9月27日に正式成立したトレードでブルズからディリンガムを獲得し、その翌日の28日にウェイブしました。狙いはヒールドの契約を手放して約960万〜970万ドル(報道により差あり)のトレード例外を作ることにあったようで、Hoops Rumorsによると約689万ドルの今季年俸はホーネッツが負担します。クレームされなければ9月30日にUFAになる予定ですが、この記事を書いている時点で結果はまだ確認できていません。ウルブズがプロテクトなしの1巡目とスワップ権を出して獲った8位指名が、2年ちょっとでこういう立場に置かれているのは、ドラフトの難しさを改めて感じさせる話です。本人が言っていた「まだ何も証明できていない」を、次のチームでしっかり証明してくれることを期待しています。


