NBAを見ていて、ふと気になったことがあります。選手ってバッシュを何足くらい持っているんだろう、そして「毎試合新品を履く」という話は本当なんだろうか、と。どこかで聞いた覚えはあるものの、根拠まで確認したことはなかったので、今回は数字や本人の発言が確認できる記事を集めて、自分なりに整理してみました。
先に断っておくと、バッシュの足数は「1シーズンに何足履くか」と「家に何足持っているか」で話がまるで別物になります。それに古い記事の数字や、出どころがはっきりしない話もかなり混ざっているので、時期と出典を付けながら書いていきます。
まず「毎試合新品」の出どころを探してみた
この話の出どころとして一番よく目にするのは、マイケル・ジョーダン本人の発言です。NBA 2K14の発売前、2013年に2Kが公開した企画インタビューで「毎試合、新品のシューズを履いていた。シーズンの初めから終わりまでで、150足近くを使った計算になる」という趣旨のことを語ったとされていて、EssentiallySportsなど複数のサイトが引用しています。新しい靴を履いた瞬間の、子どものころのようなワクワク感を毎試合味わいたかった、という理由づけまで含めて、いかにもジョーダンらしいエピソードだなと思います。
ただ、僕が確認できたのは引用している記事までで、2Kの元動画そのものには辿り着けませんでした。なのでここでは「ジョーダンが語ったとされる」という伝聞の形にとどめます。しかもレギュラーシーズン82試合にプレーオフを足しても150には届かない計算になるので、本人のざっくりした概算なのか、練習用まで含めた数字なのかも、はっきりしません。
2015年の選手たちに聞くと、誰も毎試合は替えていなかった
ジョーダンの回想と対照的なのが、Complexが2015年3月に選手へ聞いた「同じシューズで何試合プレーするか」という企画です。以下の所属はすべて発言当時のもので、9人の回答を並べると、毎試合替えるという人は1人もいませんでした。マット・バーンズ(当時クリッパーズ)は「2試合か、多くても3試合。そのあと滑り始める」、ノリス・コール(当時ペリカンズ)は「2試合くらい」で、シーズン全体では約50足を履くそうです。アイザイア・トーマス(当時セルティックス)も2〜3試合、多くて4試合。ジャレット・ジャック(当時ネッツ)は4、5試合履いたらサインして、観客席に投げ込むかもしれないと話しています。
長く履く側に目を向けると、ジャスティン・ホリデイ(当時ウォリアーズ)が「1週間は確実に」、クレイ・トンプソン(当時ウォリアーズ)が約12試合ごと、ロドニー・スタッキー(当時ペイサーズ)が約10回。アンダーソン・ヴァレジャオ(当時キャバリアーズ)に至っては20〜25試合、壊れなければそれ以上も履くというので、2試合の人と並べるとだいぶ違います。
個人的に面白かったのはC.J.マイルズ(当時ペイサーズ)です。「数試合は同じ靴でプレーする。新品の硬い感じが嫌いだから、毎試合は替えない」と言っていて、ジョーダンの「新品を履く高揚感がほしい」とは真逆の理由なんですよね。バーンズの「滑り始める」も、社会人でバスケをしている身としてはソールの状態が気になる感覚がよく分かります。新品が好きな人もいれば、こなれた靴が好きな人もいる、というのがこの企画を読んだ率直な感想です。ただし9人とも2015年の話なので、今の選手にそのまま当てはまるとは限りません。
2026年のThe Athleticには「約10足」と「約60足」が並んでいた
もう少し新しい話として、2026年4月1日にNBA.comへ転載されたThe Athletic(James L. Edwards III記者)の記事があります。タイトルは「なぜ1シーズンで60足も履き潰す選手がいて、ジャレット・アレンはそうしないのか」といった趣旨で、まさに今回の疑問そのままの内容でした。
この記事によると、多くの選手は1シーズンで約10足を履くとされています。ただ、これは記者の地の文で、どの選手を何人調べたのかといった裏づけは記事の中に示されていません。個別の名前では、T.J.マコネル(ペイサーズ)が10足近く、ナズ・リード(ティンバーウルブズ)が10足ちょっと、という書き方でした。一方でケイド・カニングハム(ピストンズ)とジョシュ・ギディ(ブルズ)は、どちらも1シーズンで約60足履くと本人がThe Athleticに語っています。
10足と60足では大きな開きがあります。ギディは「3回、4回、5回履いたら別のペアに移る」とも話しているんですが、この60足と「3〜5回で交換」がどう噛み合うのか、何を数えた60足なのかは、記事からは分かりませんでした。ここを無理に計算して答えを出すのはやめておきます。
ほかにも、マイク・コンリー(ティンバーウルブズ)は「連勝している間は同じペアのまま。負けるまで替えない」と話していて、験担ぎっぽいですね笑。ジョシュ・ハート(ニックス)は基本的にコービーのシグネチャーモデルを履いているそうです。毎試合新品どころか、勝っている間は替えたくない人までいるわけで、選手のこだわりは本当にバラバラです。
ちなみにネットでは「ナゲッツのキットマネージャー(用具担当)が、選手は82試合のシーズンで平均約50足使うと言っていた」という話を何度か見かけました。ただ、発言者の名前も日付も原典も書かれていなくて、出どころは確認できませんでした。約50足という数字自体は、コールが2015年に自分のことを語った数字としては存在します。でも「選手の平均が50足」という裏づけは見つからず、The Athleticの「多くは約10足」ともかなり食い違うので、この話は数字として使わないことにしました。
ジャレット・アレンは「最後の1足」を履いている
The Athleticの記事で一番印象に残ったのが、キャバリアーズのジャレット・アレンです。2017年から、ナイキのカイリー3(ブラック/ホワイト)を履き続けていて、本人は「キャリアのこの段階に来て、もう意固地になっている」と話しています。新品どころか同じモデルに執着しているわけで、今回の疑問とは正反対の例です。
しかも本人は「最後の1足なんだ」と言っています。アレンはサイズ17で、このカラーのカイリー3は2017年発売のまま再販されていません。ここ1年半、新しい1足も見つかっていないそうです。記事はこの2つを並べて書いているだけで、サイズ17だから再販されないのかどうかまでは書かれていませんが、履き潰すのが怖い靴があるというのは、バッシュを履く人間としては妙に切ない話だなと感じます。
「持っている数」になると、P.J.タッカーだけ桁が違う
ここまでは「1シーズンに履く数」の話でした。「何足持っているか」という意味なら、P.J.タッカーの名前を出さないわけにはいきません。ただ、こちらは媒体ごとに数字がずれていて、整理するのが一苦労でした。
2019年10月のESPNは、タッカーのコレクションを「数千足」と書いています。一部はノースカロライナ州ローリーの家に、残りはヒューストンの自宅の隠しドアの裏の棚に置いてあるそうで、本人は「靴が足りなくなることはないと思う」と話しています。そりゃそうでしょうね笑。同じ記事にはナイキとの契約が2019年10月1日に切れたことも書かれていて、Complexによると、同じ年の11月にナイキと再契約しています。
2020年7月のESPNによれば、NBAバブルに80足以上を持ち込み、24足入る大きなケースまで使ったそうです。eBayのカートには常に40足以上を入れているとも、本人が話しています。同年8月のSports Illustratedは、バブルに持ち込んだのは91足で、滞在中に110足まで増えたと書き、コレクション全体は「約5,000足に近づいている」としています。ESPNの80足以上とSIの91足は別の媒体の別の時点の数字ですが、矛盾しているわけではありません。
この5,000足という数字は、その後も引用され続けているようです。2025年11月のYahoo Sportsも「5,000足以上」と書いていますが、これは複数のオンライン報道の引用だと記事内で断っていて、Yahoo自身が確認した数字ではありません。
ところが2026年の7月末から8月にかけて、Yahoo(Basketball Network転載)とCheat Sheetが、500足前後を前面に出した記事を出しています。元になっているのはNBA Take Two Mediaのインタビューで、「300〜500足持っているのは本当か」と聞かれたタッカーが「1,000%事実」と答え、「ロッカーや箱に入っている分は含まない」と付け加えた、という内容です。つまり500という数字は、質問側の数字にタッカーがうなずいた形で、本人が総数として500と言ったわけではありません。Cheat Sheetは別の箇所で「数千足」にも触れているそうで、インタビューの収録日も確認できませんでした。
「数千足」「約5,000足に近づく」と「500足前後」が同じものを数えているのかどうかは、原文からは判断できません。ロッカーや箱の分を除いた数字ということかもしれませんが、確かめようがないので、両方そのまま並べておきます。ちなみに2021年には、タッカーがeBayとSoles4Soulsとの取り組みでコレクションから50足を売っていて、その仕分けは「思っていたより大変だった」と本人が話しています。Yahooの記事によると、前のシーズンに移動が続いて溜まったゲームウォーン品やレア物の整理だったそうです。何にしても、1シーズンに履く10〜60足とは別世界の話ですね。
靴はどこから出てくる?シューズ契約の仕組みも覗いてみた
10足でも60足でも、その靴はどこから来るのか。ここはブランドとの契約が関わってくるようなので、2016年と2020年の報道を読んでみました。金額はすべてその当時のもので、今の相場ではない点に注意してください。
2020年3月のHoopsHype(USA TODAY Sports、Alex Kennedy記者)によると、契約は大きく3種類あります。自分のシグネチャーシューズが出るシグネチャー契約は当時17人だけで、基本給が年500万〜1,500万ドルに、売上の5%のロイヤリティが付く形です。現金と商品を組み合わせるキャッシュ契約は、低いところで年20万〜30万ドル、高いところで年200万〜300万ドルで、70〜100人ほど。残るマーチ(マーチャンダイズ)契約は給料がなく、無料の商品が支給されるだけです。商品を注文できる枠(プロダクトアローワンス)は通常2万5,000ドル相当で、使える期限が9月30日までというのは、なんだか会社の予算消化みたいで笑ってしまいました。
面白いのは、リーグの大多数がどこに当てはまるかが記事によって違うことです。2016年1月のYahoo Sports(The Vertical、Nick DePaula記者)は「キャッシュ契約がリーグの大多数」と書いています。一方、2020年のHoopsHypeは「NBAの大半はマーチ契約で、キャッシュは70〜100人」という書き方です。時期も取材先も違うので、階層の線引きが同じとは限りません。どちらが正しいとも決めつけられないので、割合の話は深追いしません。
もう少し補足すると、2016年のYahooではマーチ契約の枠は「年5,000〜10,000ドル相当」か「年間で決まった足数」という形が一般的とされています。2016年9月のComplex(Tim Newcomb記者)は、ベンチの選手は1年契約のマーチが中心で、年7,500ドルほどの低い例もあると書いています。同じ記事で、エージェントのAlex Saratsis氏(Octagon)は「一番の誤解は、みんなが大金をもらっていると思われていること」と話し、商品を売れない選手は契約の組み立て方が変わる、という趣旨のことも言っています。独立系エージェントのTravis King氏は、契約には「あらゆる条件が盛り込まれている」と語っています。
こうして見ると、マーチ契約の枠は金額に換算した形でも、年間の足数という形でも語られているようです。ただ、ブランドが1試合あたり何足出す、といった取り決めは今回調べた範囲では見つかりませんでした。約60足と約10足の差が契約の違いから来ているのかどうかも、僕には裏づけがありません。
まとめ
「毎試合新品」については、今回調べた範囲では確認できませんでした。根拠になるのはジョーダンが2013年の2K企画で語ったとされる回想だけで、それも元動画までは辿れていません。2015年のComplexでは9人全員が複数試合同じ靴を履くと答えていて、2026年のThe Athleticでも、多くの選手は約10足とされています。ただし「今のNBAでは毎試合新品はない」と言い切れるほど調べたわけではなく、あくまで確認できた範囲の話です。
何足持っているかについては、1シーズンに履く数と持っている数を分けて考えるのが大事でした。履く数は10足前後から、本人が約60足と語るカニングハムやギディまで個人差が大きく、持っている数はタッカーのように、数千足とも500足前後とも報じられる人もいます。数字がバラバラで整理しきれなかったのは少し悔しいですが、そこも含めて選手それぞれのこだわりが出る部分なんだろうなと思います。
個人的には、アレンの「最後の1足」が頭に残っています。次に試合を見るときは選手の足元を見て、あの靴は何足目なんだろうと考えてしまいそうです。アレンにはいつか、サイズ17の新しい1足が見つかってほしいです。


