「ロンゾ・ボールが28歳で現役引退」
2026年9月23日、そんなニュースがSNS上で一気に広がりました。2017年NBAドラフト全体2位。レイカーズ、ペリカンズ、ブルズ、キャバリアーズでプレーし、度重なる膝の故障に苦しんできたロンゾだけに、「ついにこの時が来てしまったのか」と思ったNBAファンも多かったのではないでしょうか。
ところが、その後ロンゾ本人がXを更新しました。
「俺、引退したの?初耳なんだけど笑。まだ電話を待ってるよ……NBAのシーズンは長いからね」
……本人抜きで引退させるな。笑
結論から言えば、ロンゾ・ボールは現役引退を発表していません。 現在はNBAのどのチームとも契約していないFAですが、本人はまだNBAからのオファーを待っています。では、なぜ「ロンゾ引退」というニュースがここまで広がったのでしょうか。そこには、笑って終わるには少し切ないロンゾの現在があります。
なぜ「ロンゾ引退」が広まったのか?
きっかけは、ロンゾが自身の「Ball in the Family」ポッドキャストでギルバート・アリーナスと交わした会話でした。
ロンゾはそこで、バスケットボールにすべてを捧げてきたこと、NBAで9年間プレーできたことへの感謝、そして怪我によって思い描いていたキャリアを送れなかったことについて率直に話しています。
特に注目されたのが、「自分はピークまで到達できなかったと思う」という趣旨の発言です。
さらにNBAでプレーできたこと自体に感謝していると過去を振り返るような話し方をしたため、その部分だけが切り抜かれて拡散。「ロンゾがキャリア終了を示唆」「28歳で引退」と解釈する投稿や記事が出てきました。
しかし、ロンゾ自身は「引退する」とは言っていません。
そして実際に引退報道を見た本人が、「俺引退したの?」と否定することになりました。
2017年ドラフト全体2位。期待値はとんでもなかった
ロンゾ・ボールがNBA入りしたのは2017年。当時のNBAを見ていた人なら、ドラフト前の盛り上がりを覚えていると思います。
UCLAで活躍した大型ポイントガード。身長約198cmながら抜群のコートビジョンを持ち、ボールを長時間保持せず一瞬で味方へパスを通す独特のプレースタイル。そして何より父ラバー・ボールの強烈なキャラクターもあり、NBA入りする前から一家ごと有名になっていました。
そんなロンゾを全体2位で指名したのがロサンゼルス・レイカーズです。
地元カリフォルニア出身でUCLAからレイカーズ入り。当時はマジック・ジョンソンがロンゾに大きな期待を寄せており、「レイカーズの未来の司令塔」としてNBAキャリアをスタートしました。
ただ、レイカーズでは怪我もあり、シュートにも苦戦します。
2019年にはアンソニー・デイビスを獲得する大型トレードの一部として、ブランドン・イングラムやジョシュ・ハートらとともにニューオーリンズ・ペリカンズへ移籍しました。
ペリカンズで「シュートが入るロンゾ」へ進化
個人的にロンゾのキャリアで面白かったのが、ペリカンズ時代です。
レイカーズ時代のロンゾといえば、独特すぎるシュートフォームが何度も話題になりました。左側からボールを持ち上げるようなフォームで、ルーキーシーズンの3P成功率は30.5%。フリースローも45.1%しかありませんでした。
ところがペリカンズ移籍後、フォームを修正してシュート力が大きく向上します。
2019-20シーズンには3P成功率37.5%、翌2020-21シーズンも37.8%。もともと持っていたパス、サイズ、守備力に3ポイントまで加わり、「これかなり良い選手になるんじゃない?」という形が見え始めました。
そして2021年、ロンゾはシカゴ・ブルズと4年8500万ドルの契約を結びます。
ここからが、ロンゾのキャリアで最も「もしも」を考えてしまう時期です。
ブルズ時代、ついに完成形が見えた
2021-22シーズンのブルズにはデマー・デローザン、ザック・ラビーン、ニコラ・ブーチェビッチ、アレックス・カルーソ、そしてロンゾがいました。
このチームが序盤、本当に面白かった。
ロンゾは大量にボールを持つ必要がありません。デローザンやラビーンがハーフコートで得点を作り、ロンゾはトランジションで一気にボールを前へ運ぶ。オフボールでは3ポイントを狙い、守備ではカルーソと一緒に相手ガードへプレッシャーをかける。
まさにロンゾの長所を活かせるチームでした。
ロンゾが出場した最初の40試合でブルズは27勝13敗。本人も平均13.0得点、5.4リバウンド、5.1アシスト、1.8スティールを記録し、3P成功率は42.3%まで上昇していました。
ドラフト時に期待されていた「大型司令塔」とは少し違う形かもしれません。
それでも、NBAで勝つチームに必要なロンゾ・ボールの完成形がようやく見え始めていました。
そして、たった一度の膝の故障からすべてが変わった
2022年1月、ロンゾは左膝を負傷しました。
当初の離脱期間は約6〜8週間と見られていました。普通に考えれば、そのシーズン中に復帰してもおかしくない怪我です。
しかし、膝の状態はなかなか改善しませんでした。
手術を受けても痛みが消えず、さらに手術。最終的には軟骨移植という非常に大きな処置まで受けることになります。
2021-22シーズン途中に離脱したロンゾが次にNBAの公式戦へ出場したのは、2024年10月。
1000日以上。
2022-23、2023-24シーズンは丸々出場できませんでした。
NBA選手がこれほど長期間試合から離れ、しかも膝に複数回の手術を受けながら再びNBAのコートに立ったこと自体、かなりすごいことだと思います。
奇跡の復帰。でも「昔のロンゾ」には戻れなかった
だからこそ、ロンゾが再びNBAのコートへ立った時はかなり嬉しかったです。
ただし、「復帰できた」と「元通りになった」はまったく別の話でした。
今回のポッドキャストでもロンゾは現在の膝についてかなり率直に語っています。バスケットボールをプレーすること自体はできるものの、プレーした翌日に膝が腫れることがあり、ストレッチやアイシング、ヨガなどを使いながら日々状態を管理しているそうです。
さらにドライブ中に急停止するような動きが難しく、頭では行くべき場所が分かっていても、身体がそこへ行けない感覚についても話しています。
これ、元NBA選手が引退後に振り返っている話ではありません。
まだ28歳の現役続行を希望している選手の話です。
そう考えると、かなり重い。
キャバリアーズでは35試合、平均4.6得点
2025年夏、ロンゾはブルズからクリーブランド・キャバリアーズへ移籍しました。
しかし2025-26シーズンは35試合の出場で、平均20.8分、4.6得点、4.0リバウンド、3.9アシスト、1.6スティール。以前のようなインパクトを取り戻すことはできませんでした。
2026年2月にはユタ・ジャズへトレードされ、そのままウェイブ。ジャズでは試合に出場することなく、現在までFAとなっています。
全体2位指名から9年。
まだ28歳なのに、NBAから契約の電話を待つ立場になりました。
それでもロンゾは「引退した」とは言っていない
今回の騒動で一番重要なのはここです。
ロンゾ自身がキャリアを振り返っていることは事実です。「ピークに到達できなかった」とも認めています。膝が以前の状態には戻っていないことも、自分で分かっています。
でも、だからといって引退を決めたわけではありません。
むしろ本人はNBAからの電話を待っているとはっきり表明しました。
海外でプレーする可能性もあったようで、ロンゾはポッドキャストの中で直近にドバイでプレーする予定があったものの、最終的には行かなかったことも明かしています。
NBAのロスターはシーズン中にも動きます。
怪我人が出れば10日間契約が必要になる。バックアップPGが必要になるチームもある。守備やパス能力を評価して、ベテラン枠としてロンゾに興味を持つチームが出てくる可能性もゼロではありません。
一方で、昨季のパフォーマンスと膝の状態を考えれば、NBA契約が簡単ではないことも間違いないでしょう。
「ピークに到達できなかった」という言葉が切ない
個人的に今回一番残ったのは、引退騒動そのものではありません。
ロンゾが自分自身について、「ピークに到達できなかった」と認めていることです。
ドラフト全体2位でNBA入りし、最初はシュートが入らないと批判されました。それでもフォームを変え、3ポイントを40%以上決められる選手になった。守備も上手くなり、ブルズではようやく自分に合った役割も見つかりました。
その瞬間に膝を壊しました。
もし2021-22シーズンのロンゾがそのまま成長していたら。
デローザン、ラビーン、カルーソたちとのブルズはどこまで行けたのか。
ロンゾ自身はどんな選手になっていたのか。
これはもう答えが出ません。
だからこそ、本人の「ピークまで行けなかった」という言葉には重みがあります。
ロンゾのキャリアを終わらせるのは、SNSではない
「ロンゾ・ボールが28歳で引退」
確かに今回の発言だけを切り取れば、そう受け取ってしまった人がいたのも分からなくはありません。
でも本人は否定しました。
まだNBAからの電話を待っています。
全体2位指名から始まり、シュートフォームを作り直し、ブルズで完成形が見えた直後に膝を壊し、1000日以上のリハビリを経てNBAへ戻ってきたロンゾ・ボール。
ここまで来たキャリアなら、最後を決める権利くらい本人にあっていいでしょう。
ロンゾ・ボールのNBAキャリアが本当に終わったのかどうかを決めるのは、SNSでも引退報道でもありません。
少なくとも本人はまだ終わったとは言っていない。
今も電話を待っています。


