優勝の余韻もまだ残っているタイミングで、こういうニュースが出てくるのがNBAらしいというか、契約の世界は本当に容赦がないなと感じます。ESPNのシャムズ・シャラニア記者とヴィンセント・グッドウィル記者が2026年9月23日、カール・アンソニー・タウンズとニックスの契約延長交渉が「停滞(stalled)」していると報じました。
オフシーズン中は両者間でかなり広範に協議が行われていたようなのですが、直近では話が進んでいないとのことです。トレーニングキャンプ開始前の合意成立は見込み薄という見立てで、キャンプ突入までに決着させたいチームが多い中、これはちょっと気になる展開です。
タウンズは現在、4年最大2億7,600万ドルの延長契約を結べる資格を持っています。現行契約は2026-27シーズンが年俸5,700万ドル、2027-28シーズンはプレイヤーオプションで6,100万ドルという内容です。優勝の立役者の一人にこの規模の契約を用意するのは当然という気もしますが、ニックス側の事情はそう単純ではないようです。
争点は金額。ただし数字の扱いには注意が必要
ここが今回の記事で一番丁寧に書きたいところなのですが、ニックス側が提示しているとされる金額について、報道によって数字の性質がかなり違います。CBS Sports(サム・クイン記者)は、ニックスが年俸4,500万〜5,000万ドルのレンジから交渉を始めたと具体的に報じていて、これはNew York Post(スティーブン・ボンディ記者、SNYのイアン・ベグリー記者の情報経由)や別のロサダ記者の記事でもほぼ同じレンジが出てきます。複数の独立した取材に基づく数字ということで、ここはある程度信頼して読んでいい部分だと思います。
一方で、NBC Sports(Rotoworld系列)のカート・ヘリン記者の記事では「年俸5,500万ドル以下」という数字が出てきます。ただこちらは記事を読み込むと、情報源を明示した報道というより「たぶん5,500万ドルくらいじゃないか、いやそれ以下かもしれない」という、ヘリン記者本人の推測に近いニュアンスで書かれているようです。なので同じ「ニックス提示額」という言葉でも、$45M〜$50Mは複数メディアの取材に基づく数字、$55Mは一人の記者の個人的な見立て、というくらい性質が違うと考えたほうがよさそうです。どちらにしても、タウンズのマックス額(年平均約6,900万ドル)からはかなりディスカウントを求めているという方向性自体は一致しているので、大枠としては「ニックスは大幅な値引きを求めている」というのが確からしい話なんだと思います。
ドーランの「セカンドエプロンは自殺行為」発言
この交渉停滞の背景としてよく引き合いに出されているのが、オーナーのジェームズ・ドーランの発言です。実はこれ、今回の報道サイクル(9月23〜25日)で出てきた新しい発言ではなく、2026年6月17日、優勝直後にニューヨークのラジオ局WFANに出演した際のものです。「NBAには自殺行為と言えるようなことがいくつかあって、そのひとつがセカンドエプロンだ」「できる限り大きな小切手は切るが、セカンドエプロンに突入するような小切手は切れない」と、かなりはっきり言い切っています。優勝したばかりのオーナーがここまで明言してしまうと、そりゃ交渉も難航するよなと思ってしまいます。
セカンドエプロンというのは、ラグジュアリータックスラインよりさらに上に設定された年俸総額の上限のことで、これを超えるとトレードやミッドレベル例外の使用などで大きな制限がかかる仕組みです。優勝チームを維持したいオーナーの本音と、それでもエプロンは越えたくないという方針は正直かなり矛盾しているように見えるのですが、この方針は既に実害も出ています。今オフ、ミッチェル・ロビンソンがセルティックスへ移籍しましたが、これもニックスがセカンドエプロン方針のせいで十分な金額を提示できなかったことが背景にあると報じられています。ドーランが出せた額がタックスペイヤーMLE水準(年俸600万ドル程度)にとどまり、他球団はその3倍近くを提示できる状況だったようです。優勝の中心にいた選手が一人、こうやって静かにチームを去っていくのはファンとしては寂しいものがあります。
タウンズだけの問題じゃない
もう一つ気になるのが、ジョシュ・ハートの延長交渉も同時進行中だという点です。ハートも4年最大1億3,200万ドルの延長資格がありますが、実際の交渉は年平均1,800万〜2,100万ドル程度と報じられていて、こちらもマックスから大幅にディスカウントされています。しかも複数の報道によれば、ハートの延長額を決めるにはタウンズの決着(特に2027-28年のプレイヤーオプションを行使するかどうか)が固まらないといけない、という構造になっているようです。つまりタウンズの交渉が停滞している間は、ハートの交渉も動けないというわけで、ニックスのオフシーズンはかなり複雑な連立方程式を抱えている状態と言えそうです。
さらに厄介なのは、本当の財政的な崖が訪れるのは2028-29年だという試算です。ブランソンとアヌノビーのプレイヤーオプションが切れるタイミングと重なるため、タウンズ・ハートの延長がどう決まるかに関わらず、その先にもう一段大きな壁が待っている計算になります。タウンズとハートが揃って2027-28年のオプションを行使した場合、残り4枠のロスター編成に使えるセカンドエプロンまでの余地は1,000万ドルを切るという試算もあり、正直かなりギリギリの綱渡りです。
他球団も同じ壁にぶつかっている
こういう「優勝メンバーを維持したいけどセカンドエプロンが許さない」という構図は、ニックスだけの話ではありません。サンダーは今オフ、セカンドエプロン回避のためにルー・ドート、アイザイア・ジョー、アーロン・ウィギンズといった主力ロールプレイヤーを放出し、実際にエプロン圏外へ脱出しています。優勝チームがロースターを崩さざるを得ないというのは今のNBAの一つの現実になりつつあるのかもしれません。逆にティンバーウルブズのルディ・ゴベアのように、約30%相当のプレイヤーオプションを自ら蹴って、キャップの22.6%からスタートする3年契約を受け入れ、チームに資金的な余地を作った例もあります。タウンズが同じような判断をするかどうかは分かりませんが、選手側がある程度歩み寄らないと優勝メンバーを丸ごと維持するのは難しい時代になっているのは間違いなさそうです。
ちなみにタウンズ本人は、契約交渉そのものについては今のところ公にコメントしていません。確認できているのは「ニックスファンとしての自分は、ニックスが優勝したなんて今でも信じられない」「タイムズスクエアは将来自分の故郷になっていくと思う」といった、ニューヨークへの個人的な愛着を語った発言だけです。金額の話には触れていないので、これをもって交渉への態度を読み取るのは早計かなと思います。
まとめ
交渉が停滞していること、その背景にドーランの「セカンドエプロンは自殺行為」という方針があること、この2つは複数メディアが一致して報じている確度の高い事実です。ただニックス側の提示額については、$45M〜$50Mという複数の報道に基づく数字と、$55Mという一人の記者の推測が混在して出回っているので、そこは読み分けたほうがいいと思います。トレーニングキャンプ前の合意は見込み薄という空気が濃厚ですが、優勝の熱が冷めないうちにどうにか着地してほしいというのが率直な気持ちです。ハートの交渉もタウンズ次第という状況なので、しばらくはニックスのオフシーズンから目が離せません。


