76ersのトレーニングキャンプ初日だった9月29日、練習を終えたレブロン・ジェームズがヘリコプターで帰っていった、というニュースが流れてきました。移籍直後の7月から「ニューヨークに住んでヘリで通うのでは」という話は出ていましたが、実際に飛んだとなるとやっぱりインパクトが違います。正直に言うと、見出しを見た瞬間に少しドキッとしました。理由は言うまでもなくコービーのことで、たぶん同じ反応をしたNBAファンは少なくないと思います。
キャンプ初日、練習施設からヘリが離陸
APや地元紙Philadelphia Inquirerの現場取材によると、9月29日(火)の練習後、ニュージャージー州カムデンにある76ersの練習施設から、レブロンを乗せたヘリが離陸しました。行き先についてはAPも「おそらくニューヨークの住居の近く」という推定の書き方にとどめていて、どこに降りたのかまでははっきりしていません。ちょうどその時間にアンファニー・サイモンズが囲み取材を受けていて、ヘリの音で取材がかき消されたというエピソードまで報じられているのが、ちょっと笑ってしまうところです。ちなみにAPによれば、この施設でヘリが使われるのは普段ならオーナーのジョシュ・ハリスがドラフトや大きな会見のときくらいだそうです。
ヘッドコーチのニック・ナースは「今までとは違うものになる。人も、目も、話題も、全国放送も増える」という趣旨のことを話していて、レブロンが来たことでチームを取り巻く空気そのものが変わったのを、本人たちも受け入れようとしている感じが伝わってきます。ただ、このヘリについてレブロン本人がコメントした内容は、今回確認できた報道の中には見当たりませんでした。76ers球団としてのコメントも出ていません。
7月から出ていた「ヘリ通勤」の話
振り返っておくと、レブロンは7月24日(金)にSNSで76ersへの移籍を発表し、週明けに球団が正式発表しています。契約は2年約800万ドルのベテランミニマムで、2年目はプレイヤーオプションです。その直後から、ESPNのブライアン・ウィンドホースト記者が「フィラデルフィアにフルタイムで住むわけではなさそう」と話し、シャムズ・シャラニア記者は「ニューヨークに住みながらヘリで練習や試合に通える選択肢が、フィラデルフィアの魅力を高めた」という見方を示していました。ただ、これはあくまで記者の見立てで、ヘリ通勤が移籍の決め手だったとレブロン本人が認めたわけではありません。
そして9月28日のメディアデーでは、ESPNの取材に対してレブロンが「複数の住居(multiple residences)」を持っていて、ニューヨークとフィラデルフィアの両方で生活すると説明した、と報じられています。その翌日にヘリが飛んだので、7月の観測がそのまま現実になった形ですね。
コービーを重ねてしまう気持ちは、すごく分かる
このニュースに対して、SNSではコービー・ブライアントの事故を重ねる声も出ています。海外メディアが拾ったファンの投稿には「コービーとジジのことを教訓にするべきだ」「頼むからヘリに乗らないでくれ」といったものがあり、9月29日に実際に離陸したあとにも「コービーのことがあったのにこれは……」という反応が出ていました。
コービーを見てレイカーズを好きになった自分としても、この気持ちは本当によく分かります。2020年1月26日、カリフォルニア州カラバサスで起きたヘリの墜落事故で、コービーと13歳の娘ジアナさん(ジジ)を含む9人が亡くなりました。当日は深い霧が出ていて、警察や保安局が自分たちのヘリを飛ばさないほどの状況だったと報じられています。のちに米国家運輸安全委員会(NTSB)は、パイロットが有視界飛行のまま雲や視界不良の中へ飛行を続けた判断が空間識失調と制御喪失を招いたと結論づけ、寄与要因として、パイロットが自らかけていたプレッシャーや「予定どおり続けようとする心理」、運航会社の安全管理の監督不足を挙げています。あの日のことはNBAファンにとって今でも簡単に触れられる話ではないですし、「レブロン」と「ヘリ」という単語が並んだだけで胸がざわつくのは当たり前だと思います。
それでも、フィリーとニューヨークの移動は地獄
ただ、その一方で、ヘリという選択そのものは理解できる、というのが自分の本音です。フィラデルフィアとニューヨークの間の移動って、本当にしんどいんですよね。距離は媒体によって少し数字が違いますが、だいたい150km前後(約90〜100マイル)。ヘリなら40〜45分ほどで着くとされる一方、車だと1時間半〜2時間くらいかかり、Amtrakの特急でも1時間強はかかります。しかも車の場合、The Athleticの分析によれば、間を走る州間高速道路I-95は全米でも屈指の交通量で、平日は渋滞による遅れが当たり前だそうです。
練習でしっかり体を動かしたあと、そこから車で2時間近く揺られて帰る生活を、シーズン中ずっと続けると考えるとゾッとします。バスケをやっている人なら分かると思いますが、練習後に長く座りっぱなしで移動するのは体にとって全然休みになりません。41歳のレブロンにとって、移動時間は休む時間、回復する時間を削ることに直結するはずで、そこを少しでも短くしたいというのは、選手として当然の発想だと思います。
考えてみると、コービー自身がヘリを使い始めたきっかけも渋滞でした。2018年12月のポッドキャストで、コービーは「渋滞が本当にひどくなって、車の中に座っているうちに子どもの学芸会を見逃してしまった」という趣旨の話をしていて、家族との時間を削らずに練習するためにヘリを検討したと語っています。クリッパーズ加入後のカワイ・レナードも、サンディエゴの自宅とロサンゼルスの間をヘリで移動していました。長距離の移動を抱えるスター選手にとって、ヘリは決して見栄やぜいたくだけの話ではなく、時間と体を守るための現実的な手段なんだろうなと感じます。
心配すべきは「飛ばない判断」ができるかどうか
とはいえ、不安がゼロになるわけではありません。The Athleticの分析では、ニューヨークとフィラデルフィアを結ぶ北東回廊は霧が出やすく、特に午前の練習の時間帯に影響しうること、FAAの規則上、最低3マイルの視程と安全な雲の高さが必要なことが指摘されています。2025年10月〜2026年4月の間に風速40マイル毎時を超えた日が、フィラデルフィアで33日、ニューヨークで11日あったというデータも紹介されていました。コービーやカワイが移動していた南カリフォルニアは天候が比較的読みやすいのに対して、ニューヨーク〜フィラデルフィアはそうはいかない、という指摘もありました。同じヘリ移動でも、場所が変われば条件はまったく別物なんですよね。
加えて、ニューヨークでは発着できる場所も限られていて、私有の屋上ではなくマンハッタンの公共ヘリポートから出発する必要があるとされています。飛べない日は結局車になるわけで、ヘリがあれば全部解決、という単純な話でもないんですよね。
ファンの投稿の中に「パイロットが『今日は無理』と言ったら、その試合は休んでくれ、GOAT」というものがあって、これが一番核心を突いていると思いました。NTSBがコービーの事故で指摘したのも、まさに「予定どおり行かなければ」というプレッシャーの中で飛び続けてしまった判断でした。だからこそ、天候が悪い日は迷わず車に切り替える、遅刻してもいいから飛ばない、という判断がきちんとできる体制かどうかが大事なんだと思います。そこはレブロンの周りのスタッフを信じたいところです。
費用や頻度はまだ分からない
ちなみに費用については、メディアの試算で年間30万ドル超〜80万ドル程度と、かなり幅があります。ホームゲームだけで数えるのか、練習まで含めるのか、チャーターの見積もり先がどこかによって前提がまったく違うので、あくまで仮定の計算だと思って見ておいた方がよさそうです。そもそも、今回確認できたのは9月29日に1回ヘリが飛んだという事実だけで、これからホームゲームや練習のたびに毎回使うのかどうかは分かっていません。年俸をベテランミニマムまで下げて移籍した選手が、移動に数十万ドル単位をかけているかもしれないと考えると、なんだか不思議な気持ちにもなります。笑
まとめ
レブロンのヘリのニュースを見てコービーのことを思い出してしまうのは、あの日を知っているNBAファンなら仕方のないことだと思います。自分も軽く「大丈夫でしょ」とは言えません。ただ、フィラデルフィアとニューヨークを車で行き来する大変さを考えると、ヘリという選択そのものを責める気にはなれないです。結局大事なのは、天候が悪い日に迷わず「今日は飛ばない」と決められるかどうかで、そこさえ徹底してくれれば、あとは41歳のレブロンが少しでも良いコンディションでコートに立ってくれることを願うだけです。76ersでの1年目、どうか無事に、そして元気に走り切ってほしいと思います。

