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ふと「NBA選手って1日24時間をどう過ごしてるんだろう」と気になりました。試合は夜の数時間だけですが、残りの20時間くらいは何をしているのか、意外と知らないんですよね。朝起きて、練習して、昼寝して、試合して、飛行機に乗って……くらいのぼんやりしたイメージはあるものの、実際の時間割を見たことはありません。そこで、試合の日、移動の日、練習の日に分けて、確認できた情報だけで組み立ててみました。
先に断っておくと、選手個人の細かいルーティンは数年前のインタビューが多く、「今もこうしている」とは言えない話がほとんどです。そのあたりは時点を書きながら進めていきます。
試合の日の朝は「シュートアラウンド」から
試合当日の朝にチームで集まって軽くシュートを打つ「シュートアラウンド」は、NBAでは当たり前の習慣です。レイカーズ公式の歴史ページによると、これを最初にNBAへ持ち込んだのは1971-72シーズンのレイカーズHCビル・シャーマンだそうです。あの年のレイカーズといえば伝説的なシーズンとして語られるチームなので、そこが発祥というのはちょっと面白いですね。50年以上続いている習慣ということになります。
ただ、調べていくと「そもそもシュートアラウンドって要るの?」と考えたコーチもいたことが分かりました。2009年のセルティックスは、ハーバード大で睡眠医学を研究するチャールズ・ツァイスラー医師に相談したうえで、練習の時間を遅らせています。当時のドック・リバースHCは「やるべきことが終わっているなら、なぜシュートアラウンドが必要なのか分からない」「午前10時にやるより、試合直前に確認した方が選手はフレッシュだし覚えている」と話していました。
ここは報道によって書き方が違っていて、2009年10月のBoston.com(Boston Globe)の記事はシュートアラウンドを「減らした」という書き方で、完全にやめたとは書いていません。一方、2011年のBoston Magazineは「朝の練習をやめた」と書いています。どこまで削ったのかは、自分が見た範囲では確定できませんでした。2015年1月にはナゲッツのブライアン・ショウHCも、シーズンの残りで試合日のシュートアラウンドをやらない試みを始めていて、19時開始の試合なら選手は15時(通常より1時間早い)にアリーナへ来る形にしたそうです。ショウは「午前中にやったことは、夜に戻ってくる頃には右から左へ抜けていることがある」とも話していて、これは正直かなり分かります。笑
試合前の昼寝は「仕事」の一部
朝のあとに来るのが昼寝です。試合前の昼寝はNBAではかなり一般的なものとして報じられていて、2019年10月のESPNの記事もそれを前提に書かれていました。中でも分かりやすかったのが、2019年4月にESPNが紹介したヤニス・アデトクンボ(当時バックス)の試合日のタイムラインです。
13時に自宅で昼寝を始めて、15時45分に起床。16時にアリーナへ出発し、16時30分からストレッチと体のケア、16時50分からアシスタントコーチとシュート、そしてティップオフの22分前にトレーナーに膝へIcy Hotを塗ってもらう、という流れだそうです。本人は「昼寝をしないとプレーできない(If I don’t take a nap, I can’t play.)」とまで言っていて、チームメイトだったクリス・ミドルトンは「彼のルーティンはやりすぎなくらい。試合前のどの瞬間にどこにいるか、全部分かる」と話していました。膝に塗るIcy Hotのことを「膝にホットソースを塗ってる。ホットソースじゃないよ、Icy Hotだよ」と説明しているのも、ヤニスらしくて好きです。
約2時間45分の昼寝って、普通の社会人の感覚だと寝すぎな気がしますよね。でも夜の試合でピークを持ってくるための逆算だと考えると、昼寝はもう休憩というより試合準備のメニューの一つなんだと思います。
アリーナでは何をしているのか
アリーナ入りしてからの過ごし方で有名なのは、やはりステフィン・カリーの試合前ルーティンです。2018年1月のESPNの記事によると、カリーのルーティンはティップオフの90分前に始まり、約20分。当時はアシスタントコーチのブルース・フレイザーが担当していて、3Pからロングツーまで5か所で15本決める(”He makes 15 shots at five different spots”)シュートドリルなどをこなしていたそうです。最後はトンネルの入り口あたりから両手で放る約40フィートのシュートで締める、というのもおなじみですね。
カリー本人は「ゾーンに入ることがある。試合みたいに感じることもある」と話していて、フレイザーは「他の選手はもっとピリピリしているけど、彼はリラックスしてやるのが好き」とコメントしていました。見ている側からするとショーのような20分ですが、本人にとっては試合に入るための大事な時間なんだなと。これも2018年時点の話なので、担当コーチなどは今は変わっている可能性があります。
試合後については、2022-23シーズンのリーグのメディア規定だと、ロッカールームはメディアに対して試合前に30分間開放、試合後は20分の「クーリングオフ」を挟んでから開放されることになっていました(最新シーズンの規定までは確認できていません)。つまり試合が終わってもすぐ帰れるわけではなく、取材対応があり、さらにコンディショニングがある選手もいます。オーランド・マジックのストレングスコーチを取材した2017年のNBA.comの記事によると、出場時間が20分未満だった選手には追加のコンディショニングを課していて、それを試合後にやることもあるそうです。ただしロードではバスや飛行機の時間があるので、試合後のコンディショニングはできないとのことでした。
移動の日はとにかく「夜」がつぶれる
ロードの試合になると、ここに移動が加わります。2026年6月のSI.comの記事によると、今のNBAチームはチャーター便しか使っておらず、試合が終わったらすぐに近くの空港から飛び立ち、機内で眠ってホテルで休むという形です。1987年にピストンズが「Roundball One」、1988年にブレイザーズのオーナーだったポール・アレンがボーイング757の「Blazer One」を導入したのが走りで、90年代初頭までに多くのチームが少なくとも一部の遠征でチャーターを使うようになったそうです。昔は選手も一般の便に乗っていたと思うと、それはそれで大変だったんでしょうね。
とはいえ、チャーターでも夜中に移動することに変わりはありません。2019年10月のESPNの記事では、ハッサン・ホワイトサイドが試合後の移動でホテルに着くのは3時になるだろう、という話をしていて、今の日程で質の良い睡眠を取り続けるのは「不可能だ(It’s impossible)」と言っていました。これはホワイトサイド個人の例ですが、試合が終わってからシャワー、取材、移動を挟めば、深夜になるのは想像がつきます。
同じ記事には、2018-19シーズンはチームが平均2.07日ごとに試合をしていて、バック・トゥ・バック(2日連続の試合)は平均13.3回、移動は「25週連続で1日250マイル飛んだのと同じ」という数字も出ていました。Boston Magazineによると、セルティックスは2009年頃に、次の都市のホテルに午前2時までに入れない場合はもう1泊して8時間眠る「2 a.m. rule」を採用したそうです。夜の移動を前提にしたルールが必要になるくらい、移動と睡眠はセットの問題なんだと思います。
では今シーズンはどうかというと、NBA.comによると2026-27シーズンのバック・トゥ・バックは平均14.2回で、最も多いチームでも16回です。NBC Sportsによれば16回はセルティックス、マーベリックス、ペリカンズの3チーム。750マイル以上の移動を伴うバック・トゥ・バックは59回(前季は74回)で、「5夜で4試合」のような詰め込み日程は0回、移動距離は推定42,500マイルとのことでした。ちなみにこの距離は発表時点の80試合分の数字で、残りの2試合はNBAカップのグループステージが終わってから追加されます。
NBA.comはこの14.2回を「Emirates NBA Cup導入以降で最も少ない」としています。ただ、同じNBA.comの2023-24シーズン(大会の前身であるIn-Season Tournamentの初年度)の記事では平均14.0回となっていて、数字だけ見ると14.2回の方が多いんです。「Emirates NBA Cup」という名前になったのは2024-25からなので、そこを起点にしているのか、集計の基準が違うのか、どちらかだと思いますが、NBA.com側ははっきり書いていません。なので「リーグ史上一番楽な日程」みたいな言い方はできないですね。
睡眠はNBAの「公然の秘密」
ここまで見ると、NBA選手の24時間で一番削られているのは睡眠だということが分かってきます。先ほどの2019年10月のESPNの記事では、匿名のNBA幹部が睡眠不足のことを「誰もが知っている、ちょっとした汚い秘密(It’s the dirty little secret that everybody knows about.)」と呼んでいました。ツァイスラー医師は「1晩5時間という選手も珍しくない」と話していて、非常に有名な選手の中には3〜4時間しか寝ていないと話した人もいたそうです。
選手側の声も切実で、トバイアス・ハリスは「数年後には、NFLの脳震盪のように睡眠不足が話題になると思う」、CJ・マッカラムは「睡眠不足はリカバリーもプレーも、認知機能もメンタルもめちゃくちゃにする」と話していました。脳震盪と並べるのはかなり強い言い方ですが、それだけ現場では深刻に感じているということなんでしょう。
逆に睡眠をとことん大事にしているのがレブロン・ジェームズです。よく「レブロンは1日12時間寝る」という話を見かけますが、調べた範囲では本人がそう言ったソースは見つかりませんでした。2018年のティム・フェリスのポッドキャストで本人が話していたのは、夜は8〜9時間、時には10時間寝ること、そして「この後家に帰って2時間半くらい昼寝する」ということです。よく眠れればアラームなしで自然に起きられる、睡眠アプリのCalmを使っていて雨が葉に当たる音を選んでいる、といった話もしていました。
一緒に出演していたトレーナーのマイク・マンシアスによると、ホテルの部屋は68〜70°F(だいたい20〜21℃)くらいが理想で、部屋は真っ暗にして、寝る30〜45分前には電子機器を切るそうです。これは選手じゃなくても真似できそうですね。
「12時間」説の出どころになっていそうなエピソードも2つ見つかりました。1つは2018年12月のTwitter(現X)への投稿で、「昨夜8時半に寝て朝7時半に起きた。文字通り11時間寝た。会社のクリスマスパーティーも逃した」というもの。クーズマに「施設に杖を忘れてたよ、おじいちゃん」といじられていたのには笑いました。しかもその日(現地2018年12月5日)のスパーズ戦で42得点しているんです。数字は12時間ではなく11時間ですが、寝た日に42点取るのは説得力がありすぎます。
もう1つは2021年12月12日のマジック戦の後の会見で、「昨夜は0時から8時まで寝て、起きて朝食を食べて、8時半から12時半までもう一度寝た」と話したものです。自分で足し算すると夜8時間と朝4時間で約12時間になりますが、本人が「12時間寝た」と言ったわけではありません。この試合でもレブロンは30得点・11リバウンド・10アシストのトリプルダブルでした。
研究の話も少しだけ。スタンフォード大学の研究では、男子バスケ部の大学生11人に1晩10時間を目標に眠ってもらったところ、282フィート走が16.2秒から15.5秒に縮まり、練習でのテストのフリースロー成功率が9%、3P成功率が9.2%上がったそうです。NBA選手を対象にした研究ではなく、公式戦の成績でもないので、そのままNBAに当てはめるのは無理がありますが、方向性としては分かりやすい結果です。
また、ストーニーブルック大学の研究では、2009〜2016年にNBA選手112人が投稿した37,073件のツイートを分析して、普段なら寝ている時間帯にツイートした翌日の試合は、FG成功率が1.7ポイント、得点が約1.1点、リバウンドが約0.5本下がっていたそうです。睡眠時間そのものを測ったわけではない相関の研究ですが、夜更かしのツケが翌日に出るというのは、自分も身に覚えがありすぎて耳が痛いです。笑
練習の日、オフの日はどうなっているのか
試合のない日の様子は、試合日ほど情報がありませんでした。参考になったのは先ほどのマジックのストレングスコーチの記事で、練習が11時開始の日、ストレングスコーチは7時頃に出勤して、前夜の試合内容やトレーナーの故障メモを見ながら選手ごとのメニューを調整するそうです。トレーニングスタッフのミーティングが30〜45分あって、選手は決められたスケジュールに従って時間差で到着します。ウェイトトレーニングも、ホームではメインのメニューをしっかりやって、ロードではダンベルや体幹など軽めにする、という使い分けをしていました。
選手が出てくる前から1日が始まっているスタッフの存在を知ると、選手の24時間はスタッフの24時間の上に乗っているんだなと感じます。一方で、完全なオフの日を選手がどう過ごしているのかを示すソースは、今回は見つけられませんでした。ここは正直分からないままです。
オフシーズンについては、レブロンが2025年4月に自身のポッドキャスト「Mind the Game」で話していた内容がSI.comで紹介されていました。本格的に追い込む時期は月曜から金曜の週5日トレーニングで、土曜は「完全に何もしない」リカバリーの日、月曜は週末明けなので一番きつい日だそうです。シーズン前の8〜10週間はこのペースでやるとのことで、内訳は週3日がウェイト、2日がボールワークやバンド、モビリティなど。「何もしない日」をきっちり予定に組み込んでいるのが、睡眠の話とも通じていてレブロンらしいなと思いました。
食事については、以前「NBA選手ってどんな食べ物食べてるんだろ」という記事で詳しく調べたので、ここでは深掘りしません。専属の栄養士やシェフがついて、練習日と試合日でメニューを変える選手もいるという話は、今回の時間割と合わせて読むとイメージしやすいと思います。
まとめ
NBA選手の24時間を追ってみると、試合の数時間を中心に、朝のシュートアラウンド、昼寝、アリーナでのルーティン、試合後の取材と移動までが一続きになっていて、その全部が「夜の試合でベストを出すため」に組まれていることが分かりました。ヤニスの昼寝やカリーの20分間のシュートを見ると、選手にとっては試合前の時間そのものが仕事なんですよね。一方で、深夜の移動やバック・トゥ・バックで睡眠が削られるのは今も変わらない悩みで、幹部が「公然の秘密」と呼ぶほどだというのは少し意外でした。その中で夜8〜9時間に昼寝まで確保しようとするレブロンの徹底ぶりを見ると、自分ももう少し早く寝ようかなと思います。今シーズンは試合を見ながら、「この選手、昨日の夜はどこにいたんだろう」と少し気にしてみると、また違った見え方がするかもしれません。


