NBAカードを集めていると、ふと「これ、独占ってなんかずるくない?笑」と思う瞬間があります。自分がカードにハマったきっかけはPaniniのSelectを1パック買ったことで(その時の話は「NBAカードにハマりました」に書いています)、当時は「NBAカード=Panini」というのが当たり前でした。それが2025-26シーズンからはToppsに変わって、NBAの公式カードを作る会社そのものが入れ替わりました。普通の商品なら何社も競争して出しているのに、NBAの公式カードは1社しか作れない。これってどういう仕組みで、誰が得をしているのか、気になったので調べてみました。
そもそも「ライセンス独占」って何を独占しているのか
まず基本からです。2026年9月時点で、NBAの公式トレーディングカードは、Fanatics Collectibles(ブランドとしてはTopps)が独占的に作っています。NBAの公式発表では、ToppsはNBAとNBPA(選手会)の「公式独占トレーディングカードライセンシー」とされていて、リーグと選手会の2つのライセンスが並んで書かれています。
この「2本立て」がポイントで、ざっくり言うとチーム名やロゴを使う権利はリーグ側、選手の名前や写真を使う権利は選手会側が持っている、という構造です。つまり両方を押さえないと、「ユニフォームにチームロゴが入った現役選手のカード」は作れません。逆に言えば、どちらか片方でも持っていなければ、ロゴを消した写真になったり、収録できる選手が限られたりするわけです。カードのデザインで「なんかロゴが消されてるな」と感じたことがある人は、だいたいこのライセンスの問題だと思って大丈夫です。
ちなみに契約期間について、NBAの公式発表は「複数年(multiyear)」としか書いておらず、具体的な年数や金額は公表されていません。何年続くのかは、正直ファンからは分からない状態です。
Paniniの時代からToppsへ
自分がカードを始めた頃のイメージだと「NBAカードといえばPanini」でしたが、Paniniの独占もずっと前からあったわけではありません。2009年1月にNBAがPaniniとの独占ライセンス契約を発表していて、2009-10シーズン頃からPaniniの時代が始まりました。ただ2009-10シーズンは移行期で、ToppsやUpper Deckのライセンス製品もまだ出ていた年です。ステフィン・カリーのルーキーカードが入った2009-10 Toppsが、Toppsにとって最後のNBAライセンス製品でした。なのでPaniniの独占期間は、数え方によって「約15年」とも「16年」とも言われています。
当時の報道を見ると、NBA側のサル・ラロッカ氏は「業界をリードするグローバル企業であるPaniniの立場が、我々のグローバルな成長戦略に最も合っている」という趣旨のコメントを出していました。一方で、ライセンスを失ったToppsは「Paniniとの契約内容は、Toppsにとって経済的に見合わない」という声明を出しています。要するにPaniniの方が良い条件を出して、Toppsはその条件ではついていけなかった、ということです。独占と言っても、結局は入札の結果なんだなというのが最初の感想でした。
少し脱線すると、Toppsのバスケカードの歴史も結構波があって、1981-82シーズンを最後に一度バスケカードから撤退しています。その後しばらく大手の空白期間があって、1986年のFleer(ジョーダンのルーキーカードが入っているあのセットです)が久々の大手製品でした。当時はバスケカードが今ほど売れず、売れ残ったケース(箱)がFleerに返品されたこともあったそうです。今の値段を考えると信じられない話ですね。
そしてFanaticsの話です。2021年8月に、FanaticsがNBA・NBPAと契約してPaniniの後継になることが報じられました。当時の報道では、開始は2026年頃からとされていました。面白いのが、このときNBAとNBPAはFanaticsのトレカ事業の株式を持つ形になっている点です(出資比率は分かっていません)。つまりリーグと選手会は、ライセンスを貸す側であると同時に、カード会社の株主でもあるわけです。その後Fanaticsは2022年1月にToppsを買収していて、こうしてFanaticsがToppsブランドでNBAカードを出す、という今の形ができあがりました。
実際にライセンスが切り替わったのは2025年10月1日で、当初の報道より少し早くなっています。報道によると、新体制で最初に出たのは中国限定のセットだったそうで、アメリカ向けのフラッグシップである2025-26 Topps Basketballは2025年10月23日に発売されました。ToppsのNBAフルライセンスカードは、2009-10シーズン以来ということになります。個人的には、カリーのルーキーカードを最後に一度NBAから離れたToppsが、また戻ってきたという流れがちょっとエモいポイントでした。
なぜリーグは独占を選ぶのか
ここまで調べて思ったのは、リーグ側から見ると独占はかなり合理的なんだろうな、ということです。1社に絞れば、その1社は他社より良い条件を出してでもライセンスを取りに来ます。2009年のPaniniがまさにそうでしたし、2021年のFanaticsの契約ではリーグと選手会が株主にまでなっています。複数社に分けて貸すより、交渉力は明らかに強くなると思います。
それに、1社に任せた方が製品の方向性をコントロールしやすいという面もありそうです。実際、Toppsは2025-26シーズンから、デビュー戦で着用したユニフォームのパッチが入った1/1カード(Rookie Debut Patch Autograph)や、MVP・新人王・最優秀守備選手が着用するゴールドのロゴマンパッチを導入しています。こういう「リーグと一緒に作る企画」は、ライセンスを1社にまとめているからこそやりやすいんだろうなと思いました。デビュー戦のパッチがカードになるのは、コレクターとしては素直にワクワクします。
ただ、こうやって理屈は分かるものの、「ファンにとって良いから独占している」というより「リーグと選手会にとって良いから独占している」のが本音なんじゃないか、というのが自分の正直な見方です。もちろんリーグがそう言っているわけではないので、あくまで一コレクターとしての感想です。
コレクター側にはどんな影響があるのか
一番気になるのは値段です。報道によると、2025-26 Topps Chrome Basketballのホビーボックスは369.99ドルで、予約は約2分で完売したそうです。値段に対する不満の声がありつつも、それでも一瞬で売り切れる。NBAのロゴ付きのカードに関しては「嫌なら他社の製品を買う」という選択肢がそもそも無いので、欲しい人は買うしかないわけです。この構図が、自分が「ずるい」と感じる一番の理由かもしれません。
とはいえ、値上がりが独占のせいなのかどうかは簡単には言えません。実は、テキサス州のコレクターがFanatics・各リーグ・選手会などを相手に「独占によってカードが高くなった」とする集団訴訟を起こしていました。原告は「2021年以降カード価格が50%上がった」と主張していましたが、裁判所はこれを認めていません。2026年3月に、ニューヨーク連邦地裁のスウェイン首席判事が「原告の誰も、払いすぎた(またはすぐに払いすぎることになる)ことを十分に主張できていない」として、原告適格が無いと判断して棄却しました。しかも提訴された2025年3月の時点では、FanaticsはまだNBAカードを作っていなかったので、そもそも問題のカードを買うこと自体ができなかった、という指摘もされています。その後、原告自身が取り下げを申し立て、2026年6月までに再提訴できない形で終結しました。
「高くなった気がする」と「独占のせいで高くなった」の間にはかなり距離がある、ということですね。製造コストや人気の上昇など、値段が上がる理由は他にもいくらでもあるので、ここは自分も感覚だけで決めつけないようにしたいと思います。
もうひとつ、独占で起きた分かりやすい「ねじれ」がウェンバンヤマのルーキーイヤーです。ウェンバンヤマは2023年6月にFanaticsとサインの独占契約を結びましたが、2023-24シーズンのNBAライセンスはまだPaniniが持っていました。その結果、NBAのロゴが入った公式ルーキーカードに、本人のサインが入らないという状態になりました。オークション会社Goldinの創業者ケン・ゴールディン氏も「本物の製品が出ているのに、そのどれにもウェンビーのサインが入っていない」という趣旨のコメントをしています。自分はウェンビー信者というわけではないですが、世代を代表するようなルーキーの「ルーキーイヤーのNBAライセンスのサインカード」が存在しないというのは、コレクター目線だとさすがにもったいないなと思いました。
ライセンスとは別に、選手個人がカード会社とサインの独占契約を結ぶケースもあります。レブロンも2024年にFanaticsと複数年のサイン独占契約を結んでいて、それまで約20年続いたUpper Deckとの関係から移っています。つまり「リーグのライセンス」と「選手個人のサイン契約」が別のレイヤーで動いているので、この2つの持ち主がズレると、ウェンバンヤマのようなことが起きるわけです。
逆にライセンスを失ったPaniniは、2025年10月1日以降、チーム名やロゴなどリーグの要素を使えなくなりました。自分がハマるきっかけになったSelectもPaniniの製品なので、ちょっと寂しい気持ちもあります。
日本でも、池袋のスポーツカード店BLEZASIAが2025年10月25日に2025-26 Topps NBA Flagship Basketballの発売記念イベントを開いていて、「ライセンスが変わった」というのは日本のコレクターにとってもそれなりに大きな話題だったようです。
Panini vs Fanaticsの訴訟はどうなっているのか
ここからが、今回調べていて一番「ドロドロしてるな…」と思った部分です。2023年8月に、PaniniがFanaticsを反トラスト法(独占禁止法)違反で提訴し、FanaticsもPaniniを逆に訴えました。お互いに訴え合っている状態です。
2025年3月10日には、ニューヨーク南部地区連邦地裁のスウェイン判事が、Paniniの反トラスト請求のうち中心部分(Fanaticsの独占力や競合排除に関する主張)は審理を続けると判断しました。一方で、「FanaticsによるToppsの買収そのものが反トラスト違反だ」というPaniniの主張は棄却されています。Fanatics側の請求も一部は続き、一部は棄却されていて、どちらかが一方的に勝ったという形ではありません。
さらに2026年8月には、封印されていたPaniniの新たな主張が公開されました。これは、FanaticsがPaniniのロイヤリティ率や最低保証額などの機密情報を不正に入手して、NBA・NBPA・NFL・NFLPAとの独占契約を取るのに使った、というものです。ただし、これはあくまでPanini側の主張で、裁判所が認めた事実ではありません。Fanaticsは「3年間の証拠開示を経ても、Paniniは根拠を裏付ける事実を見つけられていない」と真っ向から否定していて、NBPA側の交渉に関わったとされたOneTeam Partnersも関与を否定しています。今は証拠開示の段階で、公判は早くても2027年になると見られています。
ちょっと皮肉だなと思ったのが、Panini自身も訴えられる側になっていることです。2025年11月には、新興のカード会社Wild CardがPaniniを反トラスト法違反で訴えたと報じられました。Wild Card側は、Paniniが流通業者や印刷業者に圧力をかけて自分たちを締め出そうとした、と主張しています(こちらもWild Card側の主張で、係争中です)。独占を失った側が独占を批判しつつ、自分も独占的な振る舞いで訴えられている。どっちが正しいかは裁判の結果を待つしかないですが、少なくとも「Panini=被害者、Fanatics=悪者」みたいな単純な話ではなさそうです。
ついでに言うと、ロイターの関係者情報ベースの報道では、Paniniの株主が外部からの投資や売却を検討していて、Fanaticsとの訴訟がその評価の不確定要素になっている、とも伝えられていました。ただこれは確定情報ではなく、2026年9月30日時点で結果がどうなったのかは分かっていません。
それでも「ずるい」と感じる理由
ここまで調べてみて、「ずるい」の正体が自分の中で少し整理できた気がします。
まず、リーグと選手会が自分たちの権利を一番良い条件で貸す、というのはビジネスとしては当たり前の話です。2009年にToppsが「経済的に見合わない」と声明を出したように、条件が合わなければ引くという判断が負けた側にもあったわけで、そこは自分も理解できます。
それでも引っかかるのは、コレクター側に「選ぶ」という選択肢がほとんど無いことだと思います。欲しい選手のルーキーカードをNBAのロゴ付きで欲しかったら、その年のライセンスを持っている1社から買うしかありません。値段が高くても、デザインが好みじゃなくても、ウェンバンヤマのようにサインが入っていなくても、です。しかもリーグと選手会がそのカード会社の株主でもある、という構図を知ってしまうと、「そりゃ独占させるよな」と思わずにはいられません。笑
ただ、業界の中には前向きな声もあります。Sports Card Investor創業者のジェフ・ウィルソン氏は「変化の時だと思う。ライセンスが移るのはカード市場にとって良いことだ」とコメントしていましたし、カードショップの店主からは「手頃な価格帯でコレクターを呼び戻してほしい」という声も出ていました。ケン・ゴールディン氏は「最初は作る量を半分にしろ」とアドバイスしていたそうで、作りすぎて価値が下がるのを心配する声もあったようです。独占だからこそ、1社の判断で市場全体の空気が変わる。良くも悪くも、そこが独占の怖さなんだと思います。
まとめ
「NBAカードのライセンス独占ってずるいよね笑」という軽いつぶやきから調べ始めましたが、中身は思った以上に複雑でした。2009-10シーズン頃から続いたPaniniの時代が終わり、今はNBAとNBPAの2つのライセンスをFanatics(Topps)がまとめて持っています。リーグと選手会がそのFanaticsのトレカ事業の株主でもあると知ったときは、正直「そういうことか」と思いましたし、ウェンバンヤマのルーキーイヤーのようなねじれを見ると、やっぱりコレクター側はモヤっとします。ただ「独占のせいで値上がりした」という集団訴訟は認められずに終わっていて、感覚だけで独占を悪者にするのも違うな、というのが今の正直な気持ちです。
PaniniとFanaticsの訴訟は、早くても2027年の公判に向けてまだ続いています。どんな結論が出るにしても、最終的にコレクターが「高いけど買うしかない」ではなく「これが欲しいから買う」と思えるカードが増えてくれれば、それが一番だと思います。カードそのものの魅力については「NBAカードとその魅力について」にも書いているので、気になった方はそちらも読んでみてください。ずるいずるいと言いながら、結局次の新作が出たらまたパックを開けてしまうんだろうなと思っています。笑

