NBAのトレードニュースを見るたびにふと思うことがあります。移籍が決まった瞬間、選手って荷物どうしてるんだろう、と。しかもただの引っ越しじゃなくて、プール付き・シアタールーム付きみたいな豪邸クラスの家を、それも下手したら1週間後には新天地でプレーしないといけないスケジュールの中でどう処理してるのか。
今回はその素朴な疑問を、実際にあった選手の事例を集めて調べてみました。
選手専属の「引っ越し業者」が実在する
まず驚いたのが、プロアスリート専門のリロケーション業者が実際に存在するということです。カリフォルニア州マンハッタンビーチを拠点にするSportStar Relocationという会社で、創業者のEd Kaminsky氏が2006年から手がけているそうです。単に家を探すだけでなく、運転手やボディーガード、専属シェフ、ベビーシッターの手配、車両や家具の輸送までサポートするというから、もはや生活まるごとコンシェルジュですね。
当時のクライアント例としてレイカーズのJim JacksonやShammond Williams、Aaron McKieの名前も挙がっていて、レイカーズの選手育成部門責任者だったChip Schaefer氏も「こういう全国規模の取り組みは他にない」と評価するコメントを残しています。
現在も同社は「アスリート・エンターテイナー・経営幹部向けの不動産&リロケーションコンシェルジュ」として活動を続けていて、公式サイトには772件以上の5つ星レビュー、取引総額10億ドル以上との記載があります。ただ現行サイトには具体的なNBA選手の名前は出ていないので、今どの選手が使っているかまでは分かりませんでした。それでも、こういう専門業者がビジネスとして成立しているということは、選手たちが実際に頭を悩ませている証拠なんだろうなと思います。豪邸を右から左に処理できる人なんてそういないですからね。
なお「RETAP」というトレード後数日で自宅の資産(エクイティ)を引き出せる融資サービスの名前も検索の過程で出てきたんですが、これは不動産業者の営業ページ以外に裏付けが取れず、実態がよく分からないままでした。名前だけ聞くと便利そうですが、鵜呑みにはしない方がよさそうです。
トレード後、実際に家を売った選手たち
ここからは実例です。まずアンソニー・デイビス。2021年にLAベルエアクレスト地区に8ベッドルーム・12バスルーム・17,254平方フィートという化け物みたいな邸宅を$31Mで購入しています。五輪サイズのプールにシアタールーム、ゲームルーム、ワインセラー、テニス&バスケコート、バッティングケージまで付いていたそうで、ちょっと想像がつきません。
ところが2025年2月、ルカ・ドンチッチとのトレードでレイカーズからマーベリックスへ移籍。それでもすぐには売らず、半年後の2025年8月に$39.9Mで売りに出し、最終的に2026年7月9日、$32Mで成約しています。トレードから成約まで約1年5か月。しかもその間にマーベリックスからウィザーズへ再トレードまで経験しているので、家の売却よりも自分の移籍の方が忙しかったんじゃないかと思ってしまいます。
ジュルー・ホリデイのケースも似ています。セルティックスでプレー中の2024年5月、マサチューセッツ州ニュートンに6ベッドルーム・9バスルーム・8,850平方フィートの家を$6.5Mで購入。しかも2024年4月にセルティックスと推定$135Mの4年契約延長を結んだ直後だったという報道もあります。それなのに2025年夏、トレイルブレイザーズへトレードされてしまいます。家は2025年10月1日に売りに出され、同年12月22日に$6.69Mで成約。購入額より高く売れているのは救いですが、契約延長した直後に家を買って、その1年ちょっと後にはトレードって、なんというか移籍が本当に読めないスポーツだなと改めて感じます。
シャキール・オニールの話も面白いです。2004年7月にレイカーズからヒートへトレードされた後、ビバリーヒルズにあった12,500平方フィート・7ベッドルーム・8バスルームの邸宅を売りに出しています。当初希望額$7.5Mから$6.5Mへ値下げした末、最終的に買い手となったのは日本のロックバンドBOØWYのボーカル、氷室京介さん夫妻で、$6.4Mで成約したそうです。まさかシャックの旧邸宅の買い手が日本人ミュージシャンだったとは、これは完全に初耳でした。正確に何か月で売却成立したかまでは分からなかったのですが、2004年10月から11月頃だったと推測できるようです。
新居に入居した直後にトレードされた男、ノーマン・パウエル
個人的に一番同情してしまったのがノーマン・パウエルです。2021年オフシーズンにトレイルブレイザーズと5年$90Mで契約し、その後ポートランドに新居を購入。ところが新居に入居してからわずか3週間、しかも家具(ソファやゲーミングPCのセットアップまで)が届いた翌日に、クリッパーズへトレードされてしまいます。家具搬入の翌日ってタイミング悪すぎませんか。本人も「トレードで唯一嫌だったのは、家を買って家具を入れたばかりだったこと」という趣旨のコメントを残しているくらいです。
その後クリッパーズでの生活は約2か月間、リッツ・カールトンのスイートルームでスーツケース6個の暮らし。ソファの前に靴を並べ、クローゼットは服でパンパン、クリーニング代がかさむからと自分でコインランドリーに通っていたそうです。おまけにホテルのバレーサービスに愛車のポルシェ・タイカンを傷つけられるというトラブルまで。踏んだり蹴ったりです。
ちなみに2022年11月29日、クリッパーズ対ブレイザーズ戦で32得点(第4クォーターだけで22得点)を叩き出した試合後、ポートランドの家について聞かれて「彼らは僕に人生を変える契約をくれた。家はまだ持ってるよ。誰か買いたい人がいたら売り出し中だから」とジョーク交じりにコメントしています。この時点ではまだ家を保有していたのが確認できるのですが、最終的にいつ・いくらで手放した(あるいは今も持っている、貸している)のかまでは今回調べ切れませんでした。もし今もポートランドに空き家状態で持っているなら、それはそれで面白いなと思ってしまいます。
ルカ・ドンチッチの「Mの家」エピソードは本当なのか
2025年2月のドンチッチ電撃トレードのとき、元NBA選手のChandler Parsons氏がFanDuel TVの番組で、「ドンチッチはダラスで$15Mの家を買ったばかりで、クローズしたのがトレードの1週間ほど前だった。トレードを知って泣いたらしい」という趣旨の発言をしたと報じられています。あの衝撃的なトレードのタイミングでこのエピソードを聞くと、余計にドラマチックに感じてしまいますよね。
ただ、これはあくまでParsons氏本人の伝聞であり、ドンチッチ本人やマーベリックス球団の公式コメントではありません。それどころか、USA TodayのAndrew Joseph記者がこの発言について不動産記録を根拠に検証したところ、「該当するような高額取引は見当たらない」と異議を唱えています。Joseph記者によれば、ドンチッチが直近で家を購入したのは5年前の2020年で、当時のオールドプレストンホロウの物件(報道によって$2.7Mや$3.7Mと表記が揺れています)のみ。過去4か月分のダラス近郊$8M以上の住宅売買記録を調べても、ドンチッチに紐づく取引は見つからなかったとのことです。
つまり「$15Mの家を買った直後にトレードされて泣いた」というのは、そう語られている一方で、不動産記録からは裏付けが取れないと指摘する報道もある、というのが正確なところです。ドラマとしては出来すぎているくらい面白い話ですが、事実として断定できる段階ではなさそうです。個人的にはこういう「本当っぽいけど裏が取れない話」がすぐ独り歩きしてしまうのもSNS時代らしいなと思いますし、記者がちゃんと不動産記録まで当たって反証しているのも地味にすごいなと感心してしまいました。
トレードデッドライン直前は、とにかくホテル暮らしから始まる
ここまでは家の売却の話でしたが、トレードデッドライン直前の急なトレードだと、そもそも家をどうこうする余裕すらないケースが大半のようです。ESPNが複数選手に直接取材した記事によると、パターンとしては「まず球団が手配したホテルに入り、家族・荷物・ペット・車の移動は後追いで進める」という流れが繰り返し出てきます。
例えばマイク・コンレイは2023年2月にジャズからティンバーウルブズへトレードされた際、ミネアポリスのフォーシーズンズホテルにバッグ6個と箱を詰め込み「ドアを通るのに本当に体を斜めにしないといけなかった」と振り返っています。ジョシュ・ハートは2023年2月8日、試合前のウォームアップ中にトレードを知らされ、妻が妊娠20週以上(しかも双子)というタイミングで新しい産婦人科探しに追われたそうです。ブルース・ブラウンは2024年1月17日、サクラメントのホテル滞在中にペイサーズからラプターズへのトレードを知らされ、8時間後にはインディアナへ戻ってカナダのワークビザ申請書類まで含めて急いで荷造り。20着以上あるカウボーイハットのコレクションのうち、持って行けたのはたった3着だったとか。
P.J.タッカーに至っては、250足以上のスニーカーコレクションを持っていて、2023年10月31日午前3時に76ersからクリッパーズへトレードされた際、フィラデルフィアから箱12個分の靴を輸送し、さらにプライベートジェットで追加100足をLAへ運んだそうです。もはや引っ越しというより物流作戦ですね。デボンテ・グラハムはCall of Dutyをプレイ中にトレードの電話を受けて、その日のうちに6時発のフライトでデトロイトへ向かわされていますし、R.J.バレットはトロント出身だったこともあり、バッグ2個という身軽さで移動しつつ、家族が車と飼っている4頭のフレンチブルドッグを陸路で運んだという話もありました。ラッセル・ウェストブルックはレイカーズからジャズへのトレード後、バイアウト交渉のためラスベガスへ移動し、1日3回練習の4日間ミニキャンプをこなしてからクリッパーズと契約しています。これだけ見ても、トレードデッドラインの現場は本当にドラマだらけです。
面白いのは、こうした急なトレードの記事の中では「住んでいた家を急いで売却した」という直接の話はほとんど出てこないことです。デッドライン移籍組はまずホテル生活から始めて、家の処分は後回しにしているように見えます。一方でデイビスやホリデイ、パウエルのようにオフシーズン中や少し余裕のあるタイミングでのトレードでは、その後に家の売却という話が出てくる。急かどうかで対応の順番が変わってくるんだろうなと、なんとなく納得できました。
家は買うのか、借りるのか
ちなみにNBA選手が本拠地で家を「買う」のか「借りる」のかについては、不動産業界系の一般論記事の域を出ないのですが、シーズン中の滞在期間が1年のうち約6か月程度にとどまることもあり、賃貸を選ぶ選手が多いという見方もあるようです。また本拠地近くにコンドミニアムを借りつつ、フロリダやテキサスなど所得税のない州に自宅を持って税務上の居住地とする、という2拠点スタイルを取る選手も多いと言われています。ただこれはあくまで業界の一般論で、具体的な個々の選手の話ではないので、話半分くらいで聞いておくのがよさそうです。
まとめ
調べてみると、トレードの裏側には想像以上にドタバタした引っ越し劇があるんだなと実感しました。専門の業者に頼る選手もいれば、家具が届いた翌日にトレードされて泣く泣くホテル暮らしになる選手もいるし、豪邸をなかなか売れずに1年以上抱え続ける選手もいる。ドンチッチの「$15Mの家」の話みたいに、どこまでが本当かはっきりしないエピソードも混ざっているのが、また人間味があって面白いところです。次にトレードのニュースを見たときは、選手の新チームでの活躍だけじゃなくて「あの家どうするんだろう」というのも、ちょっと気にしてみようと思います。


