100日後に戦術マスターになるNBAファンへの道 – 31日目-マッチアップゾーン――マンツーマンとゾーンの中間

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【31th Step】マッチアップゾーン――マンツーマンとゾーンの中間

はじめに

前回はゾーンディフェンスの種類として、2-3・3-2・1-3-1の3つを整理しました。その最後に、2020年のヒートのゾーンがESPNのティム・レグラーに「3-2と2-1-2のハイブリッド」と表現されていた話をしました。数字どおりにきれいに並ぶわけではない、というところで終わっていたと思います。

今回はその続きです。ゾーンの形を保ちながら、自分のエリアに入ってきた選手にはマンツーマンのようについていく。そんな「中間」の守り方がマッチアップゾーンです。名前だけ聞くと難しそうですが、第3回のゾーンとマンツーマン、第8回のスイッチを覚えていれば、意外とすんなり入ってくると思います。

マッチアップゾーンとは

マッチアップゾーンは、ゾーンの配置からスタートして、自分のエリアに入ってきた相手をマンツーマンのように守るディフェンスです。普通のゾーンでは、守る側は「場所」を守ります。ボールが動けば全員がスライドしますが、基本的には自分の持ち場から大きく離れません。

マッチアップゾーンでは、そこに「人」の要素が加わります。相手が自分のエリアに入ってきたら、その選手にしっかりついていく。ただし、エリアの外まで追いかけ続けるのではなく、別のエリアに移ったら次の味方に受け渡します。見た目はマンツーマンに近いのに、受け渡しのルールはゾーン、という少しややこしい守り方です。

ボールを持った選手には、マンツーマンと同じように強めにプレッシャーをかけます。ボールを持っていない選手に対しては、第6回で見たヘルプのように、ボールとゴールの間に立って中を守ります。大きな選手はゴール近くに、ガードやウィングは外側に、という並びはゾーンのまま保たれるのがポイントです。

スイッチとどう違うのか

ここで「それって第8回のスイッチと同じでは?」と思った方もいるかもしれません。実際、かなり近いです。2020年のESPNの記事で、当時ピストンズのHCだったドウェイン・ケーシーは、NBAのゾーンについて「チームがゾーンをいじりすぎて、実質的には“スイッチの延長”のようになっている」という趣旨の話をしています。ケーシーは2011年にマーベリックスの守備を組み立てた人物として紹介されていて、そういう人が言うと説得力があります。

違いをざっくり言うと、スイッチはスクリーンなどのきっかけがあったときに相手を交換する守り方で、基本はマンツーマンです。マッチアップゾーンは最初から担当エリアが決まっていて、エリアの境目で受け渡す守り方で、基本はゾーンです。結果として同じような動きに見える場面も多いのですが、出発点が逆になっています。

なぜ重要なのか

マッチアップゾーンの一番の強みは、相手が「いま何のディフェンスをされているのか」を判断しづらいことです。マンツーマンだと思って1対1を仕掛けたら、ゴール下にはしっかり大きな選手が残っている。ゾーンだと思って隙間にパスを入れたら、受けた選手にすぐ人がついてくる。攻める側の「型」がはまりにくくなります。

大学バスケでこの守り方を有名にしたのが、テンプル大学を24シーズン率いたジョン・チェイニーです。ESPNの訃報記事でも、テンプルのゾーンは初めて対戦するチームには見抜くのが難しく、正しい攻め方を用意しにくかったという声が紹介されています。何度か対戦して慣れれば攻略できても、1回目は戸惑う。これがマッチアップゾーンの性格をよく表していると思います。

NBAでもう一つ大事なのが、前回も触れたディフェンシブ・スリーセカンドです。誰も守っていない選手がペイントに3秒を超えてとどまることはできないので、ゴール下でずっと待つ形のゾーンはそのままでは使えません。人につくことで3秒の制限をクリアしつつ、ゾーンの配置も保つ。NBAのゾーンがどこかマッチアップゾーンっぽく見えるのは、このルールの影響もあるのだと思います。

実例:ヒートのゾーン

NBAでゾーンをいちばん積極的に使ってきたチームといえば、やはりエリック・スポールストラHCのヒートです。ESPNによると、2019-20シーズンのレギュラーシーズンでヒートがゾーンで守ったのは802ポゼッション。これは2016-17シーズンや2017-18シーズンのリーグ30チームの合計を上回る数だったそうです。

そのヒートのゾーンは、基本は2-3でありながら、前の2人が縦に重なってボールにプレッシャーをかけたり、真ん中に飛び込んでくる選手を消しにいったりする形だと紹介されています。後ろの真ん中にいるバム・アデバヨは、ゴールを守りつつ必要なら外まで出ていく。前回の「3-2と2-1-2のハイブリッド」という表現も、エリアに入ってきた相手に合わせて形が変わるからこそ出てきた言葉だと考えると、つながって見えてきます。

ただし、ヒートの守り方をそのまま「マッチアップゾーン」と呼べるかどうかは、記事によって表現が違います。調べてみて思ったのは、NBAでは「純粋なゾーン」と「純粋なマンツーマン」の間にいろいろな段階があって、マッチアップゾーンはその中間あたりを指す言葉だ、くらいに捉えておくのがちょうどいいということです。

攻める側の対応

  • エリアの境目で動く:受け渡しが起きるのはエリアとエリアの境目です。そこでカットしたりスクリーンを使ったりすると、2人が同じ選手に行ったり、誰もつかなかったりするズレが生まれます
  • オーバーロードを作る:片側に人数を集めると、守る側はエリアのルールを守るか、人について行くかで迷います。そこから逆サイドへ振れば、第26回で見たクローズアウトが遅れる場面を作れます
  • ハイポストを使う:前回と同じく、真ん中でボールを受けると守る側の誰かが出てこざるを得ません。マッチアップゾーンでも、ここが一番の急所になりやすいところです
  • まず何の守りかを確かめる:1回ボールを回してみて、人がついてくるのか、場所を守っているのかを確認してから攻め方を決めるのも大事です

守る側が気をつけること

  • 受け渡しの声:普通のゾーン以上に、「渡した」「もらった」の声が欠かせません。ここがずれると、マンツーマンとゾーンの悪いところだけが出てしまいます
  • ミスマッチの管理:エリアで受け渡す以上、小さい選手が大きい選手につく場面も生まれます。第8回のスイッチと同じで、そこを突かれたときにどう助けるかを決めておく必要があります
  • 3秒を意識する:人につく意識が強いと忘れがちですが、誰も守っていない状態でペイントにとどまればディフェンシブ・スリーセカンドを取られます

今日の宿題

タスク1: 「人」か「場所」かを見分ける

  • 守る側がゾーンっぽく並んでいる場面で、オフェンスの選手がコートを横切るようにカットしたとき、守る側がついて行くのか、次の選手に渡すのかを見てみてください
  • ついて行けばマンツーマン寄り、渡せばゾーン寄りです。途中まで行って渡すなら、マッチアップゾーンに近い動きだと考えられます

タスク2: 受け渡しのズレを探す

  • ゾーンを相手にフリーでシュートを打てた場面があれば、巻き戻して、その選手を誰が守るはずだったのかを確認してみてください
  • 2人の間で受け渡しが遅れていたなら、それが今回の「エリアの境目」を突かれた場面です

次回予告

次回は「ICE(ダウン)ディフェンス!サイドへ押し込む守り方」を扱います。今回はコート全体の守り方の話でしたが、次回はピック&ロールへの対応に絞って、ボールをあえてサイドライン側へ追いやる守り方を見ていきます。お楽しみに!

おわりに

マッチアップゾーンは、マンツーマンの「人につく」強さと、ゾーンの「場所を固める」強さを両方取りにいく守り方です。その代わり、受け渡しがずれると両方の弱点が出てしまう、繊細な守り方でもあります。

NBAではルールの関係もあって、ゾーンもマンツーマンもだんだん境目があいまいになっているように感じます。だからこそ、試合中に「いまの守りは人を見ているのか、場所を見ているのか」と考えながら見ると、同じポゼッションでもかなり違って見えてくるはずです。

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