NBA選手が会場入りするときの写真や動画を見ていると、服と同じくらい手首に目が行くことがあります。袖口からやたらとゴツい時計がのぞいていて、「あれ何の時計なんだろう」と思ったまま流してしまうことが多かったんですが、ふと「NBA選手がつけてる腕時計って、実際どんなのがあるんだろ?」と気になったので、今回はちゃんと調べてみました。
先に言っておくと、調べてみたらロレックスとオーデマ ピゲ(AP)の名前がとにかく多かったです。ただ、それと同じくらい面白かったのが、ブランドとの契約の話や、MVPがチームメイトに時計を配った話でした。単純な「選手の時計まとめ」というより、時計を通してNBA選手の文化みたいなものが見えてくる感じがあって、思っていたより奥が深かったです。
そもそも試合中は時計をつけられない
最初に整理しておきたいのが、NBA選手は試合中に時計をつけられないということです。NBA公式ルールの審判の職務を定めた章(Rule No.2)には、審判は選手が「あらゆる種類のジュエリー」をつけてプレーすることを認めない、と書かれています。あわせて、他の選手にとって危険だと判断される用具の着用も認めないとされていて、硬い素材のものはパッドなどで覆う必要があります。
細かいところですが、条文には「watch(時計)」という単語そのものは出てきません。ジュエリーや危険な用具の規定で、実質的に時計もアウトになっているという整理なんですね。考えてみればリバウンドやスクリーンで体がぶつかり合うスポーツなので、金属の塊を手首につけてプレーされたら相手はたまったものじゃありません。バスケをやったことがある人なら、試合前に指輪やアクセサリーを外すのは当たり前の感覚だと思うので、ここは納得しかありません。
なので、僕らが選手の時計を目にするのは、試合前の会場入り(いわゆるトンネルの映像)、試合後の会見、あとは本人のSNSがほとんどです。逆に言えば、コートの外こそが選手にとって時計を見せる場になっているわけで、会場入りの映像で選手の服装ばかり見ていた自分も、これからは手首を見てしまいそうです。
リーグの時計はティソ、選手個人の契約は別の話
以前NBAのスポンサー企業について記事を書いたときに、NBAの公式タイムキーパーはロレックスではなくティソだという話をしました。ティソは2015年からリーグの公式タイムキーパーを務めていて、2025年1月には契約の延長・拡大も発表されています。ただ、これはあくまでリーグとティソの契約で、選手が個人でどの時計ブランドと契約するかとはまったく別の話です。
実際、調べてみるとリーグのパートナーではないブランドと個人契約している選手がかなりいました。ここは調べてみて素直に「へえ」となったところで、リーグのスポンサーが決まっているから選手もそのブランドしかつけられない、みたいなことは全然ないんですね。
時計ブランドと契約した選手たち
一番新しいところでは、シェイ・ギルジャス=アレクサンダー(SGA)が2026年2月にオーデマ ピゲの「Friend of the Brand」に迎えられています。発表の場では、2026年の新作であるロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー 41mmのブルーセラミックをつけていたと報じられていました。Esquireのインタビューでは、ロイヤル オークを4本持っていると紹介されていて、時計は言葉を使わずに自分を表現できるもの、という趣旨の話をしています。ロイヤル オークのことを「sleek, subtle and loud」と表現していたのも、いかにもSGAっぽい言い回しです。控えめなのにうるさい、という矛盾した言い方ですが、あの人のファッションを見ていると妙に納得してしまいます。
APといえば、レブロン・ジェームズも2011年にAPのグローバル・ブランドアンバサダーに就任しています。限定モデルを共同で作り、自身の時計のオークション収益をLeBron James Family Foundationに寄付する方針だと当時報じられていました。そのレブロンは2025年6月、今度はリシャール・ミルとのコラボモデル「RM 65-01 Split-Seconds Chronograph LeBron James」をニューヨークのFanatics Festで披露しています。レイカーズカラーで150本限定、ケースバックには本人のサイン入り。価格については40万5,040ドルとする報道と45万ドルとする報道があって、どちらにしても僕の想像を軽く超える世界です。報道では発売後すぐに完売し、収益は財団に回されたそうです。
ヤニス・アデトクンボはブライトリングで、2022年1月にブランドの顔となる「Breitling Squad」に加わりました。ブラッド・ピットやシャーリーズ・セロンと同じ枠に入っているのがすごいところです。2024年6月には「Chronomat Giannis Antetokounmpo」というシグネチャーモデルも出ていて、40mmのステンレスモデルが1,750本限定で6,150ドル、42mmの18Kレッドゴールドモデルが250本限定でラバーストラップ2万3,000ドル、ブレスレット4万2,500ドルという設定でした。文字盤はバックスの「Good Land Green」で、秒針のカウンターウェイトに「GA」が入っているそうです。こういう細かい遊び心は、ファンからするとかなり刺さるポイントだと思います。
ほかにも過去の例を見ていくと、ジミー・バトラーが当時ヒート在籍中の2021年にタグ・ホイヤーの北米アンバサダーになっていますし、ジェレミー・リンも2015年にタグ・ホイヤーと契約し、イニシャルの「JL」と背番号7が入ったアクアレーサーの特別モデルが作られました。ティソも選手個人のアンバサダーを起用していて、デイミアン・リラードは2021年4月にティソのNBAアンバサダーに就任し、ティソ公式サイトのアンバサダー一覧には今もリラードの名前が載っています。トニー・パーカーは2010年、クレイ・トンプソンとトレイ・ヤングは2018年にティソと契約したと報じられていて、ワグナー兄弟(モリッツとフランツ)も公式のアンバサダー一覧に名前があります。
少し時代をさかのぼると、ドウェイン・ウェイドが2011年に、コービー・ブライアントが2013年にウブロと契約しています。コービーの記念モデル「King Power Black Mamba」は48mmのブラックセラミックで250本限定、文字盤に背番号24が入ったものでした。ウブロは同じ2013年にレイカーズのOfficial Timekeeperにもなっていて、チーム単位の契約と選手個人の契約が重なっていた時期があったというのも興味深いです。カーメロ・アンソニーは2013年にIWCの「Friend of the Brand」になっていて、最初に買ったIWCはビッグ・パイロット・ウォッチだったと報じられています。
あとはちょっと毛色が違いますが、ジェイソン・テイタムは2024年にCoachのアンバサダーに起用され、時計とサングラスのキャンペーンで「Jackson Watch」をつけていました。Coachは高級時計の専業ブランドではなくファッションブランドなので、時計ブランドとの契約とは少し意味合いが違いますが、こういう形で時計に関わるパターンもあるんだなと思いました。
ちなみに、ここまで見てきてちょっと意外だったのがロレックスです。選手が実際につけている時計としては一番よく見かけるブランドなのに、NBA選手個人とのアンバサダー契約は今回の調査では確認できませんでした。契約していないのに選手が自分のお金で買ってつけている、というのは逆にすごいことなのかもしれません。
選手が実際につけている時計
では、契約とは関係なく選手が普段どんな時計をつけているのか。ここからは写真やSNSの投稿をもとにメディアが特定したもので、本人やブランドの公式発表ではない点は前提として読んでください。
Esquire Singaporeが2026年プレーオフで見かけた時計をまとめた記事によると、ビクター・ウェンバンヤマがカルティエのサントス スケルトン、ジェイレン・ブランソンがパテック フィリップのアクアノート(カーキグリーン)、カール=アンソニー・タウンズがロレックスのデイトナ(エバーローズゴールド)をつけていたそうです。SGAは先ほどのロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー、ルーゲンツ・ドートはロイヤル オークの通称「ジャンボ」、エバン・モーブリーもロイヤル オーク 41mmと、とにかくAP率が高い。ドノバン・ミッチェルはパテック フィリップのアクアノート、ディアロン・フォックスはオメガのスピードマスターと、少し外してくる選手もいて、AP一色の中だと逆にそういう選手のほうが印象に残ります。
2026年に優勝したニックスについても、Gear Patrolが選手の時計を特集していました。ブランソンはロレックスのGMTマスターII「ブルース・ウェイン」にパテック フィリップのキュビタス、タウンズはデイトナを複数本、ミカル・ブリッジズはGMTマスターII「バットガール」。その中で、ランドリー・シャメットがチューダーのブラックベイ58、ホセ・アルバラードがデイトナと並べてG-SHOCKのGA2100も挙がっていたのが個人的にはツボでした。G-SHOCKなら僕らでも手が届くので、急に親近感が湧きます(笑)。
ニックスで時計好きとして名前が挙がるのがジョシュ・ハートで、ロレックスのヨットマスター40やパテック フィリップのノーチラス ムーンフェイズ、H.モーザーなど、かなり渋いところまで持っていると報じられています。ただハートは2025年9月、ニューヨーク・ソーホーのホテルで時計3本とブレスレットの入ったバッグを盗まれていて、被害額は約18万5,000ドルと警察が発表しています。高い時計を持つのも大変なんだなと、ちょっと考えさせられる話です。
少し前の例だと、HODINKEE Japanが2024年のオールスター選出選手の時計をまとめていて、ニコラ・ヨキッチがロレックスのGMTマスターII「バットマン」、ステフィン・カリーがAPのロイヤル オーク デュアルタイム、リラードは自分のスペシャルエディションのティソPRXといった具合でした。レブロンとテイタムはリシャール・ミル、ジョエル・エンビードとトレイ・ヤング、そして当時のSGAがロレックスのデイデイト。SGAが2024年時点ではロレックスで、2026年にはすっかりAPの人になっているのも、時系列で見ると面白いところです。
MVPがチームメイトに時計を配る文化
今回調べていて一番テンションが上がったのがこの話です。SGAは2025年5月に初めてMVPを受賞したあと、チームのお祝いの場で、2ウェイ契約の選手も含めた全選手にギフトバスケットを贈りました。中身はロレックス、iPhone、Beatsのヘッドホン、そして68勝14敗を記念する刺繍入りのカナダグースのジャケット。ESPNのシャムズ・シャラニアの報道では、1バスケットあたり1万ドルを大きく超える内容だったそうです。報道によると、チェット・ホルムグレンはMVPの会見で新しいロレックスを見せながら「Man, it means a lot for my wrist」とジョークを飛ばしていたとか。
ロレックスのモデルについては公式な発表がなく、Gear Patrolが選手のSNS動画から推定したところでは、サブマリーナーやスカイドゥエラー、デイトジャストなどが映っていたそうです。本人たちも粗い動画からの推定だと断っているので、全員が同じモデルだったかどうかは分かりません。むしろ選手ごとに違うモデルだった可能性もあるので、そこまで考えて選んでいたとしたら相当マメですね。
そしてSGAは2026年5月、2年連続でMVPを受賞します。今回もチームメイトへの贈り物があり、ESPNによると中身はオーデマ ピゲの時計に、バーバリーのトレンチコート、ゴルフクラブとバッグ、YSLの香水、特注のリーバイスのデニム上下、iPhone 17など。前年のロレックスからAPに変わったのは、2月にAPのFriend of the Brandになったことを考えると自然な流れなのかなと思います。
ただ、このAPのモデルと価格については報道が割れています。Hypebeastはサンダー球団が公開したロッカールームの動画からロイヤル オーク オフショア ダイバーだと特定していて、定価は3万3,600ドルとしています。一方でCassius Lifeは同じオフショア ダイバーとしつつ1本あたり約2万5,000ドルと報じていて、さらに全員同じではなく、ステンレスのロイヤル オークとオフショア ダイバーが混ざっていたとする報道もあります。ESPNの記事はブランドまでしか書いていないので、正直どれが正しいのかは分かりません。どちらの金額だったとしても1本2万ドルを超える時計をチーム全員に配っているわけで、金額の細かい差よりもそのスケール感のほうに驚いてしまいます。
この文化はサンダーだけの話ではなくて、ニックスのミカル・ブリッジズも2025年のクリスマス、キャバリアーズに126-124で勝った試合のあとに、チーム全員にロレックスを贈ったと報じられています。モデルはGMTマスターII「ブルース・ウェイン」で、ブランソンとハートが自分たちのポッドキャスト「The Roommates Show」でこの話をしていたそうです。定価は1万1,800〜1万2,000ドルほどで、SIは二次流通だと約1万5,000ドルと書いていました。先ほどのニックスの時計特集でブランソンが「ブルース・ウェイン」をつけていたのは、このブリッジズからの贈り物だったようです。ちなみにブリッジズ本人がつけているのは「バットガール」のほうなので、自分とは違うモデルをチームメイトに選んでいるあたりも粋ですね。
まとめ
「NBA選手がつけてる腕時計ってどんなのがあるんだろ?」という軽い疑問から調べ始めましたが、結果的にはロレックスとAPがとにかく多く、そこにパテック フィリップやリシャール・ミル、ブライトリングあたりが続くという印象でした。試合中はルールで時計をつけられないからこそ、会場入りや会見が選手にとって時計を見せる場になっていて、リーグの公式時計がティソでも、選手個人はまったく別のブランドと契約できるというのも今回改めて分かったポイントです。
個人的に一番グッときたのは、やっぱりMVPやチームの中心選手がチームメイトに時計を贈る話でした。SGAが2年続けてやったことも、ブリッジズがクリスマスにやったことも、単なるお金持ちの散財というより「この仲間がいたから自分がいる」という感謝の形として時計を選んでいるように見えます。時計って何年も身につけられるものなので、もらった側にとってはその年の記憶ごと手首に残るんでしょうね。次にSGAがMVPやタイトルを獲ったとき、今度は何を配るのか、今から少し楽しみにしています。

