NBAで最高のディフェンダーに与えられる評価のひとつが、All-Defensive Teamです。ブロックやスティールのように数字で見える部分だけでなく、相手エースへのマッチアップ、ボールプレッシャー、ローテーション、ヘルプなど、スタッツには残りにくい守備力も含めて評価されます。
そんなAll-Defensive Teamについて、かなり面白い話を明かした選手がいます。パトリック・ベバリーです。
2016-17シーズン、ベバリーはキャリアで唯一となるAll-Defensive First Teamに選出されました。当時のベバリーは間違いなくNBA屈指のペリメーターディフェンダーでしたが、本人によれば、ただ全力で守って結果を待っていたわけではなかったようです。
「どうすれば自分がFirst Teamにふさわしいと、投票する人たちに認識してもらえるか」
そこまで考えながらプレーしていたというのです。
パトベバはAll-Defensive First Teamを本気で狙っていた
2016-17シーズンのベバリーはヒューストン・ロケッツで67試合に出場し、平均9.5得点、5.9リバウンド、4.2アシスト、1.5スティールを記録しました。決して派手なスタッツではありませんが、相手のガードへフルコートでプレッシャーをかけ続ける守備は、すでにベバリーの代名詞となっていました。
そのシーズン、彼には明確な目標がありました。All-Defensive First Teamに入ることです。
最近出演した「Out The Mud」でベバリーは、NBAの守備評価について「メディアによる投票」であることをかなり意識していたと振り返っています。賞を狙う選手が投票システムを意識すること自体は珍しくないでしょうが、面白いのはここからです。
「みんなが見る試合でやればいい」
ベバリーは、どうすれば自分をFirst Team候補として認識してもらえるのかを周囲に相談したといいます。そこで出てきたアイデアが、「多くの人が見ているタイミングでアピールする」というものでした。
ベバリーによれば、注目が集まる時期にデイミアン・リラードからストップを奪った際、自分がFirst Teamにふさわしいことをアピール。さらにクリスマスゲームでレブロン・ジェームズからボールを奪った際にも、再びFirst Teamを強調したと振り返っています。
要するに、スターを守る→ビッグプレーを作る→その瞬間に「俺はFirst Teamだ」とアピールする。
めちゃくちゃパトベバです。笑
ただ、これは単なるパフォーマンスだったとも言い切れません。ベバリーには「自分の守備力を、評価する人たちにどう認識してもらうか」という明確な狙いがありました。
All-Defensive Teamを決めるのは誰?
ここが今回の話で最も面白いポイントです。
2016-17シーズンのAll-Defensive Teamは、世界各国のスポーツライターや放送関係者からなる100人のメディアパネルによる投票で決定されました。つまりベバリーは、「自分を評価するのは誰なのか」を理解したうえで行動していたことになります。
NBAのレギュラーシーズンは82試合あり、30チームが存在します。すべての投票者が、すべての選手の全ポゼッションを同じ密度で確認するのは現実的ではありません。
だったら、多くの人が見る試合で強烈な印象を残す。スター選手を止め、その瞬間に「俺はFirst Teamだ」と自らアピールする。ベバリーは最近のインタビューでも、メディアによる評価には直近の印象やカメラにどう映るかという側面があるという趣旨の持論を語っています。
ただ守備を頑張るだけではなく、「評価されるところまで含めて戦略を立てる」。かなり計算しています。
そして、本当にFirst Teamに入った
では結果はどうなったのか。
本当に入りました。
2016-17シーズンのAll-Defensive First Teamには、ドレイモンド・グリーン、ルディ・ゴベア、カワイ・レナード、クリス・ポール、そしてパトリック・ベバリーが選出されました。今振り返っても、とんでもないメンバーです。
ベバリーは38票のFirst Team票と34票のSecond Team票を獲得し、合計110ポイント。ガードではクリス・ポールに次ぐ評価を受け、キャリア初のAll-Defensive First Team入りを果たしました。
ちなみにSecond Teamのガードにはトニー・アレンとダニー・グリーンが選出されています。この時代を代表する守備職人たちを押しのけてのFirst Teamだったことを考えても、その評価の高さが分かります。
「アピールしたから選ばれた」わけではない
ここは分けて考える必要があります。
今回の発言だけを見て、「パトベバはメディアを操ってFirst Teamを取った」と結論付けるのは違います。そもそも本物の守備力がなければ、いくら「FIRST TEAM!」と叫んだところで選ばれるはずがありません。
ベバリーはこのシーズンに平均1.5スティールを記録し、その後もキャリアを通して計3度All-Defensive Teamに選出されています。つまり一度だけ印象で選ばれた選手ではなく、リーグから長期間にわたって守備力を評価された選手です。
今回の話は、「守備力があった。そのうえで、その守備力を正しく評価してもらう方法まで考えていた」と捉えるのが一番しっくりきます。
個人的には、ここがかなり面白いと思います。
守備はどうしても「印象」が入りやすい
得点なら数字があります。30点取れば30点です。しかし守備力を一つの数字だけで評価するのは簡単ではありません。
相手エースをボールから遠ざける。パスコースを消す。スクリーンを突破する。ヘルプへ行ったことで相手にシュートそのものを諦めさせる。こうしたプレーの多くは、通常のボックススコアにはほとんど残りません。
逆に、スティールを狙いすぎて守備位置を崩したとしても、成功した場面だけを見れば「1スティール」として記録されます。守備はオフェンス以上に、数字と実際の貢献度が一致しないケースがあります。
だからこそ、ベバリーは「良い守備をする」だけではなく、良い守備をしていることを認識してもらうことまで意識したのでしょう。
会社員にも若干刺さりそうな話です。笑
2017年より今のNBAの方が「見せ方」は重要?
そして、この話を現在のNBAに置き換えるとさらに面白くなります。
2017年当時と比べても、現在はSNSやショート動画によって一つのプレーが拡散されるスピードが格段に上がっています。スター選手を完璧に止めれば、その映像だけで世界中のNBAファンに届くことがあります。
一方で、一度クロスオーバーで抜かれた場面だけが拡散され、「この選手は守れない」という印象を持たれることもあります。82試合を通した守備力ではなく、数秒の映像が選手のイメージを作ってしまうわけです。
もちろん、現在のNBAアワード投票者がSNSのハイライトだけを見て投票しているという意味ではありません。ただ、選手自身が自分の評価やナラティブを作る重要性は、2017年よりむしろ高まっているのかもしれません。
そう考えると、ベバリーが約10年前にやっていたことは意外と先進的です。
パトベバ、やっぱりパトベバだった
相手のエースに94フィートでプレッシャーをかけ続ける。ベンチを煽る。観客を煽る。そして自分の守備が決まれば「FIRST TEAM」と自分から宣伝する。
普通の選手がやったら少し恥ずかしいかもしれません。でもパトベバなら、なぜか成立してしまいます。
そして何より面白いのは、最後に本当にAll-Defensive First Teamを取っていることです。
NBAで評価されるには、当然ながら実力が必要です。ただ、その実力を「どう見せるか」もプロの世界では一つの能力なのかもしれません。
パトベバが明かした今回のエピソードは、All-Defensive TeamやMVPなどNBAのアワードを見る時に、これまでとは少し違った視点を与えてくれる話でした。

