ドラフト指名権はトレードできる――「将来の1巡目指名権」の意味【NBAドラフト入門 Day10/100】

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トレード速報に出てくる「指名権」の正体

前回は、2巡目やドラフト外の選手がツーウェイ契約やエグジビット10を通ってNBAにたどり着く道を見ました。今回は少し視点を変えて、選手ではなく指名権そのものの話をします。

NBAのトレード速報を見ていると、選手の名前と一緒に「2029年の1巡目指名権」「2巡目指名権2つ」といった言葉がよく並んでいます。まだ誰を指名するかも決まっていない、何年も先のドラフトの権利が、選手と同じように取引されているわけです。

初めて見たときは不思議に感じる方も多いと思います。今回は、この「将来の1巡目指名権」がどういうもので、どんなルールの中で動いているのかを整理します。

指名権は「資産」として扱われる

NBAでは、ドラフト指名権はチームが持つ資産の一つです。契約中の選手と同じように、トレードの材料として差し出したり、受け取ったりできます。

なぜ指名権がそこまで価値を持つのかというと、第8回で見たとおり、1巡目で指名した選手にはルーキースケールが適用されるからです。実力に比べて安い金額で、数年間チームに置いておける。当たりを引けば、これほどコストパフォーマンスの良い戦力はありません。

しかも、将来の指名権は「何位になるか分からない」という不確実さを含んでいます。今は強いチームでも、5年後には主力が衰えて下位に沈んでいるかもしれない。受け取る側はその可能性に賭け、出す側は今の戦力を優先する。指名権のトレードは、未来をどう読むかの勝負でもあります。

ルールその1:ステピアン・ルール

指名権は自由に売り買いできるわけではありません。代表的な制限がステピアン・ルールです。

名前の由来は、1980年代初めにクリーブランド・キャバリアーズのオーナーだったテッド・ステピアン氏です。彼の時代にキャブスは1巡目指名権を次々とトレードで手放し、数年にわたって1巡目指名権を持たない状態に陥りました。こうした事態を防ぐために作られたのが、このルールです。

内容は、将来のドラフトで2年連続して1巡目指名権を持たない状態になるトレードはできないというものです。ポイントは、自分のチームの指名権である必要はないことです。他チームから1巡目指名権を受け取っていれば、その年は条件を満たします。そのため、トレードの条件に「隔年」で指名権が並んでいるのをよく見かけるのは、このルールの影響です。

ルールその2:7年先までしか出せない

もう一つの制限が、いわゆる7年ルールです。指名権は7年先のドラフトのものまでしかトレードできません。

たとえば2024-25シーズンのリーグイヤーが始まった時点では、2031年の指名権までは取引できますが、2032年の指名権はまだ出せません。新しいリーグイヤーが始まるたびに、取引できる範囲が1年ずつ先へ進んでいく仕組みです。

7年後というと、今の主力選手がまだチームにいるかどうかも分からない時期です。それくらい先の権利まで動かせるからこそ、大型トレードでは指名権が何本も束になって出てくるわけです。

プロテクトとスワップ権

指名権のトレードには、条件を付けることもできます。代表的なのがプロテクトです。

たとえば「トップ10プロテクト」が付いた指名権なら、その年の順位が1位から10位だった場合は相手に渡らず、元のチームが持ち続けます。11位以下なら相手に渡ります。抽選で上位を引いた場合に有望選手を手放さないための保険です。ロッタリーの対象順位をまとめて守るものはロッタリープロテクトと呼ばれます。プロテクトで渡らなかった場合に翌年以降へ持ち越す、といった条件を付けることもあり、ここまで来ると読み解くのがかなり大変になります。

もう一つがスワップ権です。これは指名権そのものを渡すのではなく、「その年、相手チームの指名順位の方が上なら、順位を入れ替えられる」という権利です。相手が自分より弱ければ得をし、そうでなければ何も起きない。地味に見えて、相手チームが崩れたときに大きな意味を持ちます。

実例:セルティックスとネッツのトレード

将来の指名権の怖さを語るとき、必ず名前が出るのが2013年のトレードです。

ブルックリン・ネッツは、ボストン・セルティックスからポール・ピアースとケビン・ガーネットらを獲得しました。その対価としてセルティックスが受け取ったのが、2014年・2016年・2018年の1巡目指名権と、2017年の1巡目指名権のスワップ権でした。

ベテラン中心で勝負に出たネッツはその後低迷し、指名権の価値は一気に跳ね上がります。2016年の指名権からはジェイレン・ブラウンが生まれ、2017年はスワップ権を使って1位指名権を手にしました。セルティックスはそこからフィラデルフィア・76ersとのトレードで3位に下がり、ジェイソン・テイタムを指名しています。今のセルティックスを支える2人が、このトレードから来ているわけです。

調べてみて改めて思ったのは、ネッツ側がこのトレード自体を失敗だと分かってやったわけではない、ということです。当時は「今勝つため」の合理的な判断にも見えた。それでも、数年後のチーム状況までは誰にも読めない。将来の指名権を出すというのは、その読めない部分を相手に渡すことなんだと思います。

2023年のCBAで加わった新しい制限

最近の話として、2023年に結ばれた労使協定(CBA)では、高額なサラリーを抱えるチームへの制限も加わりました。

シーズン終了時点でチームのサラリーがセカンドエプロンを超えていると、7年後のドラフトの1巡目指名権が凍結され、トレードに出せなくなります。さらにその後もセカンドエプロン超えが続くと、その指名権が1巡目の最後尾へ回される仕組みもあります。お金をかけて勝ちに行くチームほど、指名権という資産を使いにくくなるように作られているわけです。

重要キーワード

  • 将来の1巡目指名権:まだ行われていないドラフトの1巡目で指名する権利。トレードの材料になる
  • ステピアン・ルール:将来のドラフトで2年連続して1巡目指名権を持たない状態になるトレードを禁じるルール
  • 7年ルール:指名権は7年先のドラフトのものまでしかトレードできないという制限
  • プロテクト:指定した順位に入った場合は相手に渡らない、という条件
  • スワップ権:相手チームの方が指名順位が上なら、順位を入れ替えられる権利

まとめ:指名権は「未来の不確実さ」を取引している

ドラフト指名権のトレードは、まだ存在しない選手を取引しているようで、実際にはチームの未来がどうなるかを取引しています。ステピアン・ルールや7年ルール、プロテクトといった仕組みは、その取引が行き過ぎないためのブレーキです。

トレード速報で「1巡目指名権」という言葉を見かけたら、何年の指名権なのか、プロテクトは付いているのか、元のチームは今後強くなりそうか、まで見てみると面白さが一段変わります。当サイトでは全30チームの将来ドラフト指名権もまとめているので、気になるチームがあればあわせて確認してみてください。

次回は、チームがあえて負けを選ぶ「タンキング」とドラフトの関係を解説します。第3回のロッタリーの仕組みを踏まえて、なぜリーグが対策を重ねてきたのかを見ていきます。どうぞお楽しみに。

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